アンリーシュ

aqri

体質変異者

ゲームスタート

《ゲートオープンまで5秒、4、3、2、1……ゲートオープン》


 機械的なアナウンスが流れ、ボルテージが上がった会場の熱気のようなものが一気に上がる。

 ここはで現実リアルはない。バーチャルが作り出した仮想空間だ。人が生まれた直後に人権登録のために脊椎、脊髄に埋め込まれるマイクロチップは進歩を重ね、脳に直接仮想空間を描き大掛かりな施設を使わずに自由にネットの世界に出入りできるようになった。

 現実世界よりも魅力的なその世界は若い世代ほどのめりこみ、今では様々な娯楽がある。まだテストプレイが多いが、企業が本腰を入れて開発に力を入れているので数年もすれば脳内の仮想空間が人間の生きる場になるとさえ言われている。

 今行われているのもかなりの人気を誇る電脳ゲーム「Unleashアンリーシュ」はターン制バトルゲームなのだが、カスタマイズの自由度の高さとチーム戦などもできること、さらに企業がいくつもスポンサーについており様々な特典やイベントが多いことから圧倒的な人気を誇った。強い者は人気となり芸能人のような扱いだ。ファンができたり、応援したり。自由にバトルは見ることができるのでスポーツ観戦のような感覚の者も多い。

 今日行われる戦いはいわゆるライバル同士の戦いと言う奴で、実力はほぼ互角だ。今回はどちらが勝つのかと双方のファン、一般人も多く観戦している。


「はあ~、すっげー人だな」


 巨大なアリーナを見上げながらそらはため息を漏らす。人の多さに圧倒されるのも無理はない、観戦者情報を見れば観客数は一万を超えている。

 今目の前に見えているのは脳内であって、肉体の眼球で見ているわけではない。まるでそこにいるかのような、アリーナに今到着したかのような感覚だがすべて脳内映像、幻のようなものだ。

 今回の対戦にそれほど興味はないが、たまたま応募した観戦チケットが抽選で当たったのだ。転売しようかとも思ったが、まあ一度くらいは見ておこうと思った。


「えーっと俺の席は……A65か」


 会場地図を見ればそれなりに前の方だ。バーチャルなのだからどの席にいても同じようにみられるのだが、近い席になるとうれしいという客の心理を反映して席が決まっている。その妙なリアルっぽさを求める姿は理解できない。だったら最初からリアルでスポーツでも格闘でも観戦すればいいのにと思う。

 仮想空間では服装から持ち物まではすべてダウンロード、かなり気軽に変えることができる。だからなのか、なかなか奇抜な格好をしたやつが多い。皆素顔を登録するのは嫌がり、この仮想空間の姿も作り出したものだ。あたり前だが美形が多くたまに着ぐるみのような奴もいる。顔のパーツも細かく販売されており、意外にも同じような顔の者はいないようだ。

 穹もログイン時の若干見た目をいじっているが、買ったり登録がめんどうだったのでゲーム登録時にオプションで最初からついているカスタムなしの外見を登録している。基本そこまで仮想空間での見た目にはこだわっていない。むしろこの姿を使っている奴の方が稀だ。

 会場内に行く途中も様々な情報が飛び交っている。まだ規制が甘いので掲示板には情報が溢れ、勝手に賭けをして儲ける奴、互いのファン同士の罵り、個人ごとのやり取りなど無法状態だった。そういった情報は無視すればいいがたまに運営からの情報もあるので見逃してしまう。


「シーナ」

【はい】


 名を呼べば答えたのは耳に着けたカフスだ。脊髄に埋めるチップが進歩するのと同時に、今国民は一人一つ人工知能のパートナーを持っている。それらは最初ロボットのような形をしていたが、どんどん小型化し幼い子供の姿からペットのような姿をしたものへと変化していった。本人のチップと人工知能はリンクしており、リアルとオンライン両方のサポートをしてくれる。穹のパートナーはシーナと言い、オンライン上では穹の仮想姿の耳にカフスとしてついている。オフラインの姿そのものを登録する人が多いので何かしらマスコットのようなものを連れているのが普通だが、装飾品などに設定することもできる。


「とりあえず大会運営の情報以外は全部非表示。ウザイ」

【了解。大会の情報を時系列に並べますので確認してください。最新情報は2分前です】

「ああ」


 目の前に表示される運営からの知らせをざっと斜め読みし、ひとまず自分の席についた。他人の音声まで普通に聞こえるビジュアライズモードは騒がしいことこの上ないが、こういった盛り上がっている会場内でテキスト表示のみのクラシカルモードというのもなんだか盛り上がらないのでそのままの設定にしておいた。しかし盛り上がった会場の金切り声のような、動物園にでもいるかのような声に穹は眉間にしわを寄せる。


「ビジュアライズの音量、半分くらいにしておいて。すっげーウルセー」


 オンライン音声は耳からではなく直接脳にリンクして届く。鼓膜でなく頭に直接響くのは慣れないと不愉快だった。


【了解。大会のアナウンスは通常に設定しておきます。穹、大会を楽しみにきたわけではないのならクラシカルモードでも問題ないのでは】

「んー、今回はこのままでいいや。大会見るの初めてだから最初は雰囲気だけでも味わっときたいし」

【そうですか。飽きたら出るのですね?】

「そだなー、最後まではいないかもな」

【では退出は出口への移動ではなくログアウトすることで退出設定とします】


 人工知能は持ち主の好みに合わせた働きをする。持ち主の性格を分析し解析を繰り返すことで言われなくても先に行動するという事ができる。シーナを持ってかれこれ15年ほどだ、長い付き合いだからこそ最早穹が何も言わなくても次に何を望んでいるのかわかっている。もちろんすべての事が100%わかるわけではないが。

 大会開始まであと10分ほど。今回戦う二人に関してそれほど詳しいわけではない、なんとなくアンリーシュで人気なのだろうなという程度だ。今このゲームの注目度は高く、今後企業と何かしらのコラボがあるという話もある。戦績の良いものは割引が付いたりという特典もあるので、ゲーム感覚ではなく稼ぎとして利用している者も少なくはない。穹が今回見物に来たのも、そう遠くないうちにこのゲームは大会に賞金が出るだろうと読んだのだ。本格的に金が絡めばそのおこぼれで何かしらの小遣い稼ぎができるだろうと思ったのだ。具体的に何か思いついたわけではないが、今回思いついたように転売でもいいし、逆にそういう不正をするものを通報してもいいかもしれない。

 いずれにせよあまり大事にならずちょこちょこ首を突っ込めるのが理想だ。まずはその情報収集として今回見物に来た。これだけ世間で盛り上がっているがもしかしたら自分には合わないという可能性もある。特に人気のある奴にファンがついていて、小競り合いが起きているという時点ですでになんだかなあというのが正直なところだ。

 だから試合の勝ち負けも対戦者が誰かも実はどうでもよかった。もともとスポーツにしろこういった試合など観戦して盛り上がるという趣味はない。

 会場内の中央に巨大なモニターがあり、試合開始までのカウントダウンが始まっている。光を使った派手なイルミネーションのような演出が出始め、会場内は一気に熱狂する。

 異様ともいえる盛り上がりの中、穹は小さな違和感を覚えた。


「なんだ……?」

【穹、どうしました】

「いや、なんだろ、よくわかんねえけど」


 違和感を覚えたのは今の光の演出だ。目ではなく脳が感じている映像なせいなのかわからないが、まぶしすぎると感じた。実際目で見ていたらまぶしくて目をつぶりたくなるくらいに眩しい、いや、眩しいというよりもチカチカして不愉快だ。光の明滅が不愉快なわけではない。実際パチンコ屋の看板など常に明滅しているし、演出としてはただ点きっぱなしよりは面白いはずだ。しかし今の演出はそう、例えるなら明かりが消えかかっていてついたり消えたりしているような感じだった。目で見るのと脳で直接感じることの違いだろうか。このままでは光の演出だけで酔ってしまいそうだ。というよりもすでに酔い始めている。


「あ、無理。シーナ、出るぞ」

【了解。……いえ、待ってください。運営から着席指示が出ていてログアウトできません】

「はあ? なんだそれ」

【大会において注意事項があるようです。それが終われば解除されるでしょう】

「あっそ」


 まるでDJのようなノリのアナウンスが始まり、大会における注意点やトラブルを起こさないようにという内容が伝えられる。近年ファン同士の小競り合いが増えて刑事事件に発展しそうなものが増えている。警察に目を付けられるとアンリーシュの運営自体に規制を付けざるを得ないという。

 その言葉にブーイングのような不安がるようなテンションの低い声が一斉にあがり、勘弁してくれと思いつつ結局クラシカルモードに変更した。これなら演出はすべてカットされ会場内の盛り上がりも伝わってこない。音声をカットしてしまえばテキスト表示だが、さすがに全文読むのは面倒なので大会運営のアナウンスだけは音声のまま残した。

 最終的にはみんなで楽しもう、というよくありがちな締めくくりをすると丁度カウントダウンがあと20秒ほどとなり、会場全体でカウントダウンが始まったようだ。音声カットしているのでアナウンスのカウントダウンしか聞こえてこないが。


『3、2、1 カモン、采!!!』


 ノリのいいアナウンスとともにアリーナ中心部から独特の雰囲気のキャラが現れる。鮮やかなライトグリーンの長い髪をなびかせ、下着かと思うほど露出の多い衣装をまとった女性キャラ。アンリーシュのイメージキャラクターでもあり審判でもあるうねだ。顔には大きめのヘッドセットをつけているので采の顔はわからない。口元には常に笑みを浮かべており、体に着いた幾何学模様のペイント、いかにも若者うけしそうな近未来的な印象でもある。細身で色白、顔は見えずとも可憐な美少女を連想させる見た目だが、彼女の最大の特徴はというと。


《さあ、はじめようか》


 その声は青年だ。高すぎず低すぎず、年齢不詳を思わせる透き通った声。このアンバランスさがまたファンを増やしている。あんな見た目だけど采は男なのではないか、こんな顔じゃないのかなど想像力を働かせるらしい。


「いつ見てもよくわかんねえキャラだな采って」

【完璧な物よりも少し欠けていたりわからない方が美しさを増すらしいです。結局個人個人が脳内で想像し補正するから、ですが】

「自分好みになんとでも考えるから100%自分好みってだけじゃん、アホくせ。実物でも事実でもねえモンに価値つけて何が楽しいんだか」

【穹は今19歳でしたね】

「そーだけど、何、どうした?」


 一瞬シーナが沈黙したが、すぐに。


【いえ。一般的な19歳というと思春期を終え人生において最も輝いた、俗にいう青臭い考えをもっていそうなのですが。あなたのそれはおよそ30代後半の、遊びから仕事と家庭に人生をつぶされかけている少々枯れてきた男性の考えに酷似しているようです】


 ご丁寧に解析データとシンクロ率までグラフで出して見せてくる。


「こんなことの為にさっき一瞬間があったのかよ」


 ビキっと血管が切れそうな気がしたが、シーナはしれっと機械的に返してきた。


【最近はこういった何の役に立つのかわからない統計があちこち無料でダウンロードできるので便利ですね。極端なリアリストと屁理屈屋を黙らせるには役立つデータなのだとわかったので、この会社の株を買うことをお勧めします】

「おい、今俺をどっちと判断して採用したんだ。リアリストか、屁理屈屋か」

【どっちを選んでも怒るじゃないですか。現に血圧少し上昇してます】

「あのなあ……ったく、くだらね。やめた」


 はあ、とため息をついて試合を見ることにした。パートナーは自分で好きに性格を設定できるのだが、穹は特にそういったことをしなかった。自分を観察した人工知能がどんな性格に育つのか興味があったからだ。結局冗談を言わない至極機械らしい性格の人工知能ができあがったわけだが。世間一般で見ればそれはひどくつまらない、育て方を間違えた、という低い評価で見られがちだ。子育てと同じで自分のパートナーはどれだけ「人間に近いか」で評価される。穹自身はそういった評価にまったく興味がなく、シーナのこういう機械的な問答は結構好きなので気にしていない。飽きたらやめる、それが人間相手だと相手を不愉快にさせたり理解できないと食いつかれて面倒だがシーナは穹が終了と言えば終了だ。そこに疑問も追及もない。シーナは人工知能らしい人工知能だからだ。

 視線を前に戻せば対戦者同士が登場し、バトルキャラが姿を現す。基本戦うのはプレイヤー自身だが、そのサポートとして一人キャラを参加させることができる。アンリーシュ専用キャラをダウンロードすればかなりカスタマイズが自由にできるので人気だ。

 片方は巨大な機械の塊のようなもの、もう片方は人型だ。巨大な剣を持っていて一昔前のRPGキャラのような見た目だった。


「相変わらず人型のタイプ人気あるな」

【見栄えがいいですし、擬人化は日本人の得意分野です。十二世紀の時から擬人化はされてますから。対戦相手の機械も手足該当する部分がありますので結局は人型ですね】

「そういやそうだ」


 ざっと対戦者同士のデータを見れば片方は知能戦型、もう片方は破壊力をもって戦うパワー型だ。正反対だがいい勝負なのだから互角とわかる。というより、パワー型が知能戦型と互角の時点でこのパワー型プレイヤーは実は知能戦型なのだろう。

 先攻、後攻が決まり会場が最高潮に盛り上がる、たぶん。穹はクラシカルモードなので雰囲気がまったく伝わってこないのだが。


《すべてを解き放て、この戦いに》


 今時ファンタジー小説でも言わないような微妙に臭いセリフを采が言うといよいよゲームが始まった。采の後ろからレーザービームが何十本も放たれ会場全体がライトの点滅によりチカチカと眩しく光る。


「だから、眩しいっつーの」


 顔をしかめてなるべく光を見ないように手で眼前を遮る。しかし光の演出は止まらず真正面から車のハイビームをあてられているかのように眩しさと不愉快さが増していく。


「クソ……シーナ、もうログアウトできるか」

【大丈夫です。ではログアウトします】


 シーナの音声が上がった次の瞬間には部屋の電気が消えたかのようにプツリと暗くなった。飛行機が飛び立つ瞬間のようなふわりとした不自然な浮遊感の後「目を開く」。

 サングラス型のヘッドセットを外すとガシガシと頭をかいた。仮想空間から現実に戻ってきたのだ。体内に埋め込まれたチップだけでもあのステージには行けるのだが、専用のヘッドセットといくつかのパーツにリンクすることでよりリアルな仮想空間を体感できるし便利な機能も多い。

 今穹は自室でアンリーシュにアクセスしていたのだが、つけていたパーツを全部外した。体内チップとの互換性を上げるヘッドセット、手首と足首に着けるリストバンド型のコンタクトパーツを外し放り投げる。


「最悪だ、まだ目チカチカする気がする」


 はあ、と大きく息をついてベッドに勢いよくあおむけに倒れこんだ。そこによじ登って穹の腹の上にちょこんと乗ってきたのは現実世界のシーナだった。


【大丈夫ですか穹】


 声は機械的なエコーが入っているがシーナは女性の声だ。これも初期設定のままだった。聞こえてくる声は若い女性なのに腹の上に乗っているのは非常にシュールな物体だ。一言で言うなら「たぶん鳥っぽい何か」だ。まん丸の体に鳥のような足とコンセントになっている細い尾、一応顔もついていて鳥っぽいと言われれば鳥っぽい。ただし羽は鳥の翼ではなく昆虫の羽だ、トンボのような羽がついている。10人が見たら9人が可愛い、ではなく何それ鳥?虫?と聞きたくなるような見た目だった。これで声が若い女性なのだから初めて見る人はだいたい驚く。一応顔は愛嬌があるのでかろうじてかわいい部類だと思える。

 パートナーの体は多種多様で、子供の姿から本物の動物のような見た目や触り心地が人気だがこういった現実離れしたキャラクターも根強い人気がある。

 パートナーの体は可能な限り軽量化されているのでこうして上に乗られてもそこまで重みは感じない。というより、あの飾りのような羽でちゃんと飛べるのだからすごいと思う。


「光効果過剰だろ。それとも公式大会ってあれが普通なのか?」

【ヘッドセットの互換性設定が強すぎたのかもしれません。ゲームでは場を盛り上げるために過剰な効果が良く使われます。現実世界では外部の刺激を脳がある程度遮断しますが脳内に直接情報を送る場合、機材の設定により効果が大幅にぶれます】

「普通に使う分には問題ねーんだけど。設定変えるっつーより、ゲーム専用ヘッドセットを買った方がいいかもな。今後やることがあれば、の話だけど」

【その言い方はもうやりませんね】

「たぶん」


 わざわざログインしてまで何かしなくてもログアウト環境からでも十分そうだ。小遣い稼ぎはおいおい考えるとして、あのゲームはもういいかなという気分が大きい。まずはアンリーシュ内で噂や流行っていることを調べる程度でいい。


【穹、交感神経が優位になっています。このままでは脳にストレスが残りますよ】


 体にあるチップとパートナーはリンクしているので健康状態のチェックもパートナーがやる。自分では気づかない健康状態に気づけると喜ぶ人もいるが、何かするたびに健康に悪いと注意されるので逆にそれがストレスという人もいて皆自由に設定を変えているようだ。


「だろうな、今そんなに気分良くない。寝るか。シーナ、いつもの」

【はい】


 穹の指示にシーナがスピーカーから音を流す。音楽ではなく不愉快にならない程度の静かな雑音だ。これだけ聞くと意味不明だが、意外にもこういった何でもないただの音というのはリラックス効果がある。好みの曲をかければますます脳が活性化するし、まったくの無音というのも人はストレスを感じる。人により効果はそれぞれだが穹はこの音を聞いた時が一番落ち着いた。眠りが浅い時これをかけるとよく眠れるのだ。

 脳に直接情報を送る方法が確立されてから人は常に覚醒状態となり、健康被害が増えてきた。それを抑えるために考案されたのは単純に寝ることだった。人は寝ている間に副交感神経が優位となり脳と体を休めることができる。熟睡するための科学が真剣に考えられ、安眠道具だけでなく音や環境など様々なものが考案され続けている。

 しかしどれだけそういったものが進歩しても、結局は本人が休むときは休むと決めて寝ないと意味がない。ゲームは一日一時間、なんて大昔誰かが言っていたようだが、そんなこと無理に決まっている。終わりにしようと思うまで何時間でもゲームをし、体が限界を迎えないとまだ大丈夫とおかしな自信が溢れつぶれるまで無理をする。仕事だろうと遊びだろうとリアルだろうと仮想だろうと、そこは昔から何も変わらないのだ。


【穹、せっかく音を流しているですから考え事をしないでください。いつもより心拍数が】

「あーはいはい、悪かったよ。マジでもう寝る。夕飯前に起こして」

【了解。良い夢を】


 夢。あれも脳内の情報が映像となってランダムにつながった結果だと聞いたことはあるが、穹は夢を見たことがなかった。それでもシーナはいつも寝る前に良い夢を、といって締めくくる。でもせっかく寝るのに夢まで見たら結局休まらないのでは、と思いつつ穹は目を閉じた。





 ざわざわと静かに人々の声がする。それなりに広い部屋に何人か人がいてそれぞれに何かを相談しているようだ。


「では、今回いたのだな」

「はい、一名。開始と同時にログアウトしました」

「その人物のデータをチェック、あと監視をつけろ。リアルとオンライン両方だ」

「はい、手配済みです」

「それらしい傾向が現れたらすぐに知らせろ。ようやく見つけた、絶対に……」

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