第5話 お弁当

「高野くん、今日は頑張ってお弁当作ってきたの」


 気がつけば春にぃと九条さんはお付き合いを始めていた。今ではとても仲が良いようで、こうやって毎日お昼ご飯も一緒に食べている。

 絶対私は認めてあげないんだからね!


「高野くんの好みがまだ分からないんだけども、喜んでもらえたら嬉しいかな…。口、開けてくれる…?」


 九条さんはそう言いながら、いわゆる『あーん』というやつを実行しようとしていた。

 絶対にさせないもん!それをして良いのは妹の私だけだもん!

 春にぃが食べてしまう前に私が食べてやると、言葉にできないほどの旨味が口の中にいっぱいに広がってきた。


「ふんっ!まだまだね。これで春にぃの胃袋を掴もうなんて十年早いわよ」

「そんなこと言ってるけど顔は幸せそうだぞ」

「春にぃは黙ってて!」


 こうしている間に、九条さんは自分も卵焼きを一口食べて頬を赤く染めた。


「…あ、これって優香ちゃんと私、間接キスになっちゃうのかな…?」

「ば、ばばばばばバカなこと言わないでよ!」

「そ、そうだよね。ごめんね」


 この女、もしかして春にぃだけじゃなくて私まで落とすつもり!?春にぃがこの泥棒猫に染められる前に私がなんとかしないと!

 そんなことを考える私のことなどそっちのけで、彼女は続けた。


「…キスは間接じゃなくて直接するほうがいいよね」

「いや、そういうわけじゃなく…て……へ?」


 えっと、九条さんが春にぃのほっぺに手を当てて顔を近づけて…って、きす…してる…?


「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ごめんね、ずっと昔から高野くんのことが好きだったから。初めて、あげちゃった」


 この女、油断もスキもない…!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る