第36話<忘れていた感謝>2

「えっ?合同練習をですか?」

「違う!一緒に応援するのを!」


少し声を荒らげる健太に、ハカセとチビは目を円くして驚いてる。

動揺を落ち着かせるように、ハカセは一呼吸間を空けて聞いた。


「それはまたどうしてですか?」

「やっぱり応援団は硬派じゃないとアカン!」


冗談ではなさそうに言い切る健太に、ハカセはため息混じりに答える。


「そんなの断る理由にならないですよ!また誰かさんの悪影響じゃないですよね?」

「違うわ!俺の考えや!」


一瞬の沈黙の後、健太は「何を頑張った訳でも無いのに、野球部の応援横取りしたくせに‥‥」と本音をこぼした。

それを聞くとハカセはこれ以上何も追及出来なくなり、会話の無くなった三人は静まり返っていた。


「あれっ?何か聞こえなかったですか?」


聞き覚えの有る音が響き

、ハカセは耳を済まして辺りを見渡す。


「えっ、出前の屋台やろ!」

「そんな音じゃなかったですよ」


チビは頷き、ハカセは思わず吹き出している。


「あれは屋台やろ~!」

「この辺で屋台なんて見たこと無いですよ、確かめに行ってみましょうか?」


いつもの明るさを取り戻した三人は、面白半分に音の正体を探しに行く。


「こっちの方から聞こえたと思うんですけどね」


三人はウロウロと辺りを散策するが、それらしき何かは一向に見当たらない。


「もう屋台走って行ったんやろ!」


健太がそう言ったタイミングで再び音が響く。

無言でチビが指差している河原の向こうを二人が見つめると、部活が終わっても練習しているブラバン部員の姿があった。


遠巻きに三人が見守るなか、お世辞にもまだ上手いとは言えない音が時折河原に響く。


「僕達は何か誤解していたのかも知れませんね!明日断る必要が無くなったんじゃないですか?」


からかうようなハカセの一言に健太は「そうやな、明日が楽しみに変わったわ」と吹っ切れたように笑顔を返した。


合同練習当日グラウンドに集まった三人とブラスバンド部員は、緊張した面持ちで練習開始を待っていた。


「それでは始めましょうか!」


音楽教師の合図と同時にハカセが太鼓を叩き始め、チビが精一杯団旗を抱え上げる。


「ガンバルズの勝利を願いまして~、三・三・七拍~子、フレ~!フレ~!ガンバルズ~!フレフレガンバルズ、フレフレガンバルズ!」


練習どうりに健太の三々七拍子がグラウンドに響き終えると、ブラスバンド部が演奏する課題曲が流れ始める。


「中々良いんじゃないですか?‥‥」


小声で感想を求めるハカセに健太は「そうやな!‥‥でも何か足らんな~!」と腕組みをして、何やら考え始めている。


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