第33話<百円分の出来事>1

「ちょっと応援している三人の写真を撮らせて貰って良いかな」


寂れた商店街横の神社公園で連日恒例になった商店街の応援中、三人に話し掛けてきたのは中年のおじさんだった。

見た目とは不釣り合いな大きめのカメラに畏縮してか、チビとハカセが返事を返せずにいると「格好良く撮ってや!」と健太が団長らしく一歩前に出て、枯れてしまった声で応援を再開する。


「ありがとう、良いのが撮れたよ」


応援の間に数枚写真を撮り終えた、おじさんは礼を言い去って行った。


「もしかして新聞記者ですかね?」


取り繕うようにメガネを拭くハカセ。


「えっ?神社も有るし趣味やろ」


気にもしてない様子で、健太はベンチに座り休憩を始める。


「解らないですよ、ココで応援し始めて二週間ですから、噂になっているのかも知れないです」


周りを気にするように、ハカセは辺りを見渡す。


「マジで!もしかしたら又来るかも知れんな、次来た時の為にポーズ決めな!」


立ち上がり変なポーズをとり始める健太を見て、チビは思わず吹き出している。


「ちょっと君達に聞きたいんだけど?」


突然背後からの声に三人が期待の眼差しで振り返ると、立っていたのは若い警察官だった。


「公園で応援している小学生って君達の事かな?」


警察官の質問にハカセは「もしかして表彰状ですかね‥‥」と健太に小声で耳打ちする。


「はい!そうです、俺が団長です!」


瞳を輝かせ大きなガラ声で答える健太の期待とは予想外に「近所の住民から騒がしいと苦情がきてるので、もう少し人っ気の無い所でしてもらえるか」と警察官は悪気はなさそうに説明した。


「え~!俺達は商店街の応援してるんやで」


食い下がり健太は弁明するが「それは良い行いやが、夜に働いて昼に寝ている人もいるからな」と警察官は当然認める訳も無く、結局三人は反論すら出来なくなり下を向いている。


「とにかく!やるならもっと広い公園とか、人の居ないような所でやるように!」


そう言い残し警察官が去って行くと、三人はベンチに座り深くため息をついた。


「人生って報われないものですね‥‥」


年齢を疑いたくなるようなハカセのつぶやきに、二人の反応は冗談を返すでもなく静かに頷くだけだった。


あくる日授業を終えた三人が向かった先は、町外れの小さな教会だった。


「おじゃましま~す!」


勢いよく教会の入口を駆け抜ける健太とは対象的に、後を追うハカセとチビは何故教会なのかという疑問を隠せずにいる。


「やはり声が枯れてしまったからですかね‥‥」


ハカセの問いにチビは小さく首を傾げて応え、二人は教会の中を物珍しそうに見渡した。

木椅子の並ぶ聖同内に入ると、すでに数人の信者が座っていてミサが始まるのを待っている。


「なんだか緊張しますね」


三人は空いていた後列の席に座り、周りの雰囲気に合わせるように黙っていると「健太君来てくれたんだ」と同学年の女の子二人が話し掛けてきた。


「おお!場所教えてもらったからな!」


隣りに座った女の子達に、健太は上機嫌で笑顔を返す。


「もしかして、これが目的だったのですかね」


ハカセが冗談っぽくチビに耳打ちすると、チビは困り顔のまま下を向いてしまった。


「うまくいくと良いですね」


女の子達に聞こえないように、ハカセは小声で健太に話し掛けるが「んっ?何が?」と健太は何も考えていなさそうに普通に答え。

そのまま待ち続けていると前列から募金箱が後列に廻され、三人も思い思いの金額を募金箱に入れていく。


「もっと話し掛けないと駄目ですよ」


真顔で問い詰めるハカセに、健太は相変わらずの調子で「んっ、誰に?」と二人の会話は全く噛み合っていない。

ミサが終わると健太は軽いノリで「何祈ったん?」と女の子達に聞き「恋愛成就~!」「二人共年上なんだよね~」と女の子達は自然に二人だけで恋の話しに盛り上がり、早々と帰って行った。


「年上って事は、どうやらフラれたみたいですね‥‥」


少し安心したようにハカセがチビに告げ口していると「二人は何を祈ったん?」と健太はいつもと全く変わらない調子で尋ねる。


「もちろん秘密ですよ」


ハカセの言葉に同調するようにチビも頷く。


「俺は当然応援団の成功やけどな!」


何時に無く元気な健太に「あまり落ち込んではいないのですね?」とハカセは勘繰るが「何で落ち込むねん!応援の勉強になったやろ!」とどうやら健太は応援の事しか考えていない。


「応援の勉強ってどういう事ですか?」


ずっと勘違いしていたハカセは、驚きを隠せずに聞くと「誰かの為に祈るって応援と似てるやろ」と健太は団長らしく応援馬鹿っぷりを発揮している。


「なんだ‥‥、結局応援ですか」


誤解していたハカセは、思わずチビと顔を見合わせて笑い。


「何やソレ~?!」と健太もまるで褒められたかのように笑顔を返した。

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