第24話<団長と説得力>4
「ゴメンね、せっかく応援来てくれたのに」
母親は笑顔でチビを気遣うが、チビは何故か健太から視線を逸らせずにいる。
上手く話せなくなってクラスで孤立し始めていたチビには、誰かの為に叫び続ける健太の姿は聖人のように思えたのかもしれない。
試合は中盤に差し掛かり「まだまだ、ここから逆転や!打て~!」と変わらず健太が声を張り上げる度に、チビのメガホンを持つ手が期待で震えた。
だが無情にも試合は大差のまま後半に突入する。
「そろそろ終わる頃だから片付け始めるわね」
荷物を鞄に詰める母親の言葉同様、負けチームの応援席は一様に帰り支度を始めている。
もう勝ちを確信した相手チームが、健太の声援を失笑するとチビは自分の事のように睨みつけていた。
そんな出来事が有った事にも気付かない程に、健太は必死な応援を続けているが形勢は変わらず。
良く晴れた青空にゲームセットの声が響き、この日の試合は終わった。
「やはり、ほぼデータ通りの結果ですね」
一仕事終えたサラリーマンのように、ハカセがノートを閉じると「イヤ今日は前回より良く走ってた!」と健太が負け惜しみを言う。
そんな二人の会話を聞こうと、チビは後列から顔を寄せて聞き耳をたてている。
「塁に出た数は前回と余り変わらないですけどね」
ノートを開き確認するハカセに「そういう意味じゃなくて~」と健太は不満そうに口を尖らす。
「ニュースでも言ってるように結果は雄弁ですからね」
ハカセがスコアボードを指差すと「説得力って意味か~?」と健太はため息混じりにうなだれる。
反論出来ずに健太が落ち込んでいると「そんな事ないよ!」と今にも声を掛けたそうに、チビは更に前のめりになっていく。
そんなチビの気も知らず健太は「ヨッシャ、今から基地で反省会や!」とすでに立ち直っている。
「試合も終わったし帰ろうか、今日は本当にありがとうね」
ナナの母親がチビに声を掛けると、チビは心残りな表情で健太の後ろ姿を見ていた。
「お兄ちゃんだけヒットだよ、すごいでしょう」
ナナに背を押され、驚き立ち上がるチビ。
そんなやり取りをしている間に、健太とハカセは自転車で走り去って行った。
チビはまばらになった観客席を寂し気に見つめている。
この日声を掛ける事は出来なかったが、チビにとって健太が特別な存在になっていた事は明らかだった。
それは健太がぼやいていた団長としての説得力や試合の結果なんて関係無い程、憧れという存在だった。
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