第6話<握り拳と掲示板>2

翌日の朝、校門にて浮かない表情で会釈した光久が通り過ぎると新任女教師は深くため息をついた。


「どうかしました?」


その様子に気付いた教頭が新任に聞くと「少し気になる生徒が一人居まして‥‥」と新任は詳しく説明せずに沈黙した。


その頃職員室前では「そんなの無理ですよ、また拳固されますよ」と珍しく冷静さを無くしたハカセが健太に忠告するが「拳固って大袈裟やろ!俺なら人の為に拳を握るけどな」と健太は冗談づいている。


「さすが団長ですね」


軽率なハカセの一言に健太は「だろっ!!」と誇らしげに笑顔を見せた。


「そういう事じゃなくてですね‥‥」


ハカセは慌てて話しを戻そうとするが、ふざける健太は視線すら合わせない。


「そんな許可絶対通らないですよ」


制止するハカセを健太は「大丈夫!気にし過ぎやって!」と笑顔で振り切り職員室に入った。


「失礼します!」


普段静かな職員室に健太の大きな声が響き、ハカセがその後に続く。

ズカズカと担任の席に駆け寄った健太は「先生、入り口の所にコレ貼っても良いですか?」と大した説明も無く唐突に切り出した。


「団員募集~!?どういう事だ?」


状況を理解出来ず担任が聞くと、すかさずハカセが「部活にしたいという訳ではないのですが、今ちょっとした応援団を作っていまして」と説明を始め、まるで大人同士のような会話になっている。

一通りハカセが説明を終えると先生は「そうか分かった、貼って良いぞ!頑張りな!」と軽い口調で了承した。


「失礼しました!」


足早に去って行く二人の、ご機嫌な声が職員室に響く。


数分起たず玄関口の掲示板前に移動した二人「どこに張りましょうか」ハカセが腕組みをして張る場所を考えていると「そんなん真ん中に決まってるやろ!」と健太はPTAの集会告知張り紙を外して張替えた。


健太は次々と校舎に入って来る小学生達に「どうぞどうぞよろしく!」と声を掛けるが、張り紙に気付いていない生徒達は不思議そうな表情で一礼するだけだった。


「良しっ!これで三人は増えるな!」


満足気な健太にハカセは「そんな都合良く増えないと思いますよ、掲示板見ていなかったので」と冷静に状況を理解している。


「見てたやろ~!立ち止まってたし!」


自信満々に勘違いをしながら健太は生徒の視線をチェックするが、誰も見てはいない。


「そうかもしれないですね」


ハカセが反論もせずに軽く受け流すと、健太は不満げに「分かった、じゃあ何人見てるか休み時間に見に来よう!」とハカセに聞きもせずに一人で決定して納得し頷いている。


「期待はしない方が良いと思いますけどね」


二人が教室に入ってから始業のチャイムが鳴るまでの時間、掲示板にはハカセの予想どうり誰一人立ち止まってはいなかった。

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