第5話<握り拳と掲示板>1

前回と同じく太陽を背に、無言で立ったままの光久に健太は「またコイツかよ」と面倒臭さそうに呟く。

話しかけるかどうかを健太とハカセが顔を見合わせ悩んでいると、光久は笑顔で[応援させてください]と書いた画用紙を開き二人に見せた。


「どういう意味でしょうね」


ハカセの問いに健太は考える間も無く「からかってるんやろ、ふざけやがって!無視や無視!」と光久から視線を逸らす。


「何か理由が有るとは思いますけどね‥‥」


健太の言うとおりにハカセは視線を逸らし、光久は困惑した様子で立ち尽くしている。


「応援してる俺達に向かって応援したいなんて馬鹿にしてるからやろ」


頑なに拒む健太にハカセは「そういう意味じゃないと思いますよ」となだめようとするが「喋れんのにか~」と健太は全く聞き入れようとはしない。

数分間話しかけられず無視され続けた光久は、無言のままガックリと首を傾げ去って行った。


「良いんですか行っちゃいましたよ?」


遠ざかる光久の姿をハカセは視線で追うが、健太は「ええねん、だいたい顔が馬鹿にしとる」と真顔で呟く。


「そんな事よりも、どうしようかな~、まだ旗が完成してないからな~」


まだ一言も書き込めていない布が、健太に呼応したかのようになびく。


「四文字熟語で一声入魂なんてどうです?」


大きく漢字を書き記したノートを見せるハカセ。


「お~!!良いやんソレ~!!真ん中にドンと書こう!」


そう言ってすぐに油性ペンを手にした健太は、迷わず布に書き始めた。


「出来た~!団旗完成や~!!」


拡げて見せつける健太に「中々良いですね」とハカセはまんざらでもなさそうな表情を反し、健太は笑顔で頷いた。


「どうせなら新しい仲間は虎太郎みたいなカッコイイ名前が良いな」


はためかせていた布を両手で拡げてポーズをとる健太。


「そんな都合の良い人居ないですよ」


呆れた表情で笑うハカセに健太は「それはどうかな~!」と根拠の無い自信に満ち溢れている。

団旗が完成して落ち着く間も無く健太は「次は募集の張り紙や!」とハカセからノートを取り上げた。

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