化け物

目を開けると、首に激痛が走った。


「っ!!」


首には……首輪が付いていた。首が重かった。


「……っ」


どれくらいの時間、意識を失っていたのだろう。この部屋には時計もカレンダーも窓も何もなかった。トイレやお風呂でさえも。それはオレがこの部屋に初めて入った時と何も変わっていない。


自分が捕まって、少しくらいは設備が豊かになっただろうと思うなんて。まだこうなって短いのに、あんな化け物に情を求めるようになってしまったのか……オレの頭は少しずつイカれてきているのかもしれない……しっかりしなきゃ。


首が痛くなるほどずっと下を向いて眠っていたのだろう。顔を上げると、あの忌々しい薄暗い電気が見えた。ずっとこの部屋にいれば、滅入りそうな明るさの……。


手首から肩にかけて、すべてが痛かった。まるで、イエス様がゴルゴダの丘で十字架の刑に処せられた時のように、オレは手首にママと同じ頑丈な太い手錠のようなものをつけられ、天井から伸びる鎖で拘束されていた。両足も壁から伸びたもので、両手と同じように拘束されていた。カーペットも何も敷かれていない冷たい床は、膝が冷えて痛かった。


「……っ」


部屋の隅には血のついた金属バットが置いてあった。黒い血と鮮血。


ま、まさか……ママもあれで、後ろから殴られたのか……!……?


その中央はへこんでいた。この部屋に初めて入って見渡した時にはなかったものだ。


それで殴られたに違いない頭がまだ痛かった。心臓が脈を打つごとに、頭がジンジンした。頭には応急処置的な布切れが巻かれていた。だが、血が溢れていた。それが目を覆って、視界を遮っていた。


実の息子の頭を金属バットでへこむくらい、力強く殴るなんて……。


その応急処置を、ありあわせのもので簡単に済ませて。止血が完璧にできていない。布切れを巻いておけば治るような傷ではないのに……。


そんな父は……化け物だ。そんな奴は……もうオレの父親ではない。


「んんっ」


右から、声がした。それはママだった。オレは首を動かして、ママを見た。


「ん、ん……」


口角が痛いほど、口はきつく布で縛られていて、オレは上手く喋れなかった。ママの口にも布が付け直されていた……。


オレたちは寄り添えない距離にあった。いくら頑張っても、人三人分くらいのその隙間は埋まらなかった。わざとやっているそれが、強烈に意地悪なものに思えた。


きっとずっと、オレが目覚めるかを心配していて、もしていないのだろう。


その時、ガラガラガラガラと一度聞いたことのある音がした。


そして……が入ってきた。


「あ、リク! 起きた!? 良かった~。殺しちゃったかと思ったよー!」


化け物は笑っていたが、オレには全く笑えない……タチの悪い冗談だった。


「んん……」

「頭は大丈夫? 僕、ちょっと手加減できなかったみたい。リクが、かっっっってに、部屋に入った、から……さ?」

「……」

「あ?? 何とか言えよ! 謝れよ!!!」

「んぐっ、ぐっ! んっぐっ!!」


その化け物は、無防備なオレの腹を蹴り始めた。満足するまで何回も何回も蹴り続けた。込み上げるものも吐き出せずに、口の中にどんどん溜まっていって、それが……そんな水の中で息ができないような苦しさの中で、鎖のせいで、オレは腹を防御することさえ出来ずに蹴られ続けた。


怒りが込み上げた。でも、そうやって煮えたぎって、濃くなるだけで、オレは抵抗すらも何も出来なかった。

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