アヤ

夢見る花嫁

描いていたのは、幸せな生活、だった。小さい頃からずっと変わらない夢であったくらい、私は、大好きな人の花嫁になって幸せな家庭を築いて暮らしたい、と思っていた。


大学で出会ったとは、二人で過ごす時間が自然に増えていくくらい、すぐに意気投合した。そして、告白されて、付き合って、プロポーズされて、結婚した。事は、とんとん拍子に、順調に進んでいった。それ故に、夢見ていたことが、すぐそこまで迫っていた。


私たちは、新居に二人で移り住んだ。


すべては順調だった。そう思えた……何もかもが順調だったはずなのに。


彼はいきなり私を襲い、私を縛って、私を無理やり犯した……。


それは強引な行為だった。


「あは、アヤー」

「……?」

「つわりが……くるかもね♡」

「っ!?」


尿を出すことを要求され、拒めば、また強引に犯すと言われた。今、冷静になって考えれば、それは脅しだったのに……。彼は妊娠検査薬を、まだ縛っている私の顔面に突き付けてきた。


せ、線が……!……? よ、陽性……?


彼が、そんな人だとは思っていなかった。私の同意を得ずに、二人の同意がないまま……で強引にするなんて。だから、陽性なんて私は信じていなかった。彼が勝手にペンで書いたりなんだりして細工したのだろうって。


「うっ……!?」

「あっ……♡ きたきたーーー♡!!」


それが混みあがってきた瞬間、私は悟った。私は口を抑えて、そのままフリーズした。


わ、私……妊娠、した……? あ、あの線は本当に……。


そのまま目線を上げれば、こちらをニタニタしながら見る彼の顔が見えた。私は、トイレに駆け込んだ。


言葉にならない、声にならないその思いを、そのものと一緒に便器へと吐き捨てた。


「よしよーし、大丈夫ー?」


心配する彼の手は温かくて、優しい……そうだった、そうだった……っ! 彼は優しい顔した、優しい人だったのに! そのはずだったのに!!!


子供が欲しくないというわけではなかった。


でも、でも……!!!


全部吐き出した後は、そうやって怒りが湧いた。私は彼をあまり信用しなくなった。


そのうち、生理も来なくなって、それが現実であることを突きつけられた。


決して、計画していたことではなかった。私は、身体的にも、精神的にも、経済的にも、まだ準備が出来ていなかったのに。


、その結晶が生まれた。


でも、子供は、そんなことを忘れさせてしまうくらい、可愛くて可愛くてしかたがなかった。依然、私の奥底にはその思いがずっとグルグルととぐろを巻いていたが。


たとえ、半分、彼の血が流れていても、第一その子は私の子供だった。


私の元に生まれてきてくれた君は、決して、悪くなんかちっともないんだよ。

私の元に生まれてきてくれてありがとう。

彼の本性には、これからぎくしゃくするかもしれないけど、私の夢は叶った。


前から彼は、我儘だったり、今まで付き合ってきた人と比べれば、段違いに強引だったり、束縛激しめだったけど、そういう人を求めた時期もあったのだから。彼は、きっと、いや……絶対浮気しないだろうから……。



彼のあの行為は一生許さないけど。でも……ポジティブにいかなきゃ……ね……新婚なんだし、今、私には可愛い息子がいるんだし、その子のことを考えることが最優先なのだから。


君は、私が絶対守るからね……。


あの時、そう誓ったはずなのに。

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