人魚姫は泣かない

夕藤さわな

ぷろろーぐ。

ぜろわめ。

 入学式の日――。

 どんな本が置いてあるのだろうかとわくわくしながら訪れた中学校の図書室。


 そこで見た光景は、まるで人魚姫の絵本の一ページのようだった。


 床に倒れている羽住くんと、羽住くんの顔を心配そうにのぞきこんでいる九重さん。

 二人のようすは人魚姫に嵐の海から助け出されて浜辺で気を失っている王子さまと、彼を介抱する隣国のお姫さまそのものだった。


 それなら、あわてて呼んできた保健室の先生の後ろに隠れたまま。

 二人のようすをうかがっていた花は、海の波間から王子さまとお姫さまのようすをうかがっていた人魚姫だろうか。


 今でも、ときどき思い出して考える。


 あの日、見た光景は――まるで人魚姫の絵本の一ページのようだった。

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