AZ

椎木結

第1話 ライフ始動

 特務魔人化第一班。

 そこは魔人と呼ばれる化け物達の駆除を専門とした人たちが集まる特別な部隊だ。部隊と言っても人数は四名しか所属しておらず、実態として面倒ごとを専門的に押し付けられる何でも屋的な役割を担っていた。

 A〜Zのアルファベットの頭文字が入った能力を有している魔人達の脅威はここ近年で拡大し、その拡大に伴って急遽作られたのも相まって特務魔人化第一班の存在は公表はされておらず、秘密裏に存在している。因みに給料はそこそこいいのだが、役割が役割なので率先して所属したいと思う人は出てこない部隊でもある。


 そんな部隊なのだが、今日は今までと違った空気感を伴っていた。それは他の部隊に所属された同業者がひしひしと感じる位だったし、面構えから違う、嬉々としたものであったのだ。そんな表情と空気感を感じ取った人達は総じて「ああ、別世界の住人なんだな」と思う程である。彼らの目的は急遽朝発表された『L』の討伐である。

 それぞれがそれぞれの特殊能力を保有する英単語達はその能力から人ならざるもの、魔に近いものとして魔人と表され、今回の魔人である『L』はその特異性から注目が集まっているのであった。


 Lが単語頭に付く言葉は幾つもある。LeafだったりLineだったり。まあ、葉っぱとか線とかが強いイメージは全人類通して感じれないのでそこらではないのは確証的だが。


 彼らは現場に向かう為、車の鍵を取りに本部に戻っている最中であった。





・・・・・・・・・・・


「で、そろそろ相手の情報を教えてもらってもいい頃なんじゃないっすか? ユーズさん。流石に情報ないままで突貫しろは畜生過ぎますぜ?」


 六人乗りの自動車を運転しながら、本部から相当離れたことで他者に情報が漏れることはないだろうと判断したリックがハンドル片手にそう聞く。

 言った言葉はほんの冗談であるが、過去を思い返せば冗談では済まされなさそうに思えてしまう。

 数ヶ月前に凶悪犯の立て籠り事件が発生した際、ペットの犬にフリスビーを投げるような軽快さで向かわされた過去を思い出した。何の情報もなく入った建物で半泣きの女性と、狂乱している覆面男との対面はそうそうない冷や汗ものである。

 似たような過去を持っている他二名も、同じように静かに聞く。


 助手席に座っていた白銀の髪をストレートに伸ばした保母のような柔らかさを持つユーズは「確かにそうだね」と言いながら持ってきた鞄から数枚が束になっている紙を取り出した。それを後部座席に座っている、最近美容室に行って髪型を盛大に失敗した短髪すぎるルカにノールックで渡す。


「わぁ。えっと・・・『L』の能力はライフ。Lifeのライフですね。・・・はえ?」


 何で人生が能力なのか甚だ疑問なルカであるが、隣のオールバックに整えた壮年の男に小突かれ、続きを慌てて読む。


「年齢は16歳、住所や出生はまだ判明しておらず、能力と年齢しか情報がないみたいです。・・・ん? なんだろ、これ」


 項目を読み進めるルカであったが、一つ気になる部分を見つけ視線がそこで止まる。隣で窓から見える光景に視線を向けていた壮年のフェイルズは渋々といった表情で彼女から資料を奪い取り、続きを読み始める。


「ったく、何々・・・えっと、討伐理由は両親を刃渡り16センチの包丁で刺殺し遺棄した疑い。おいおい、随分物騒なガキだがそれをワシ達に任せるかぁ?」


 と、読み上げて資料を投げ飛ばしようになるが微かに見えた犯行時刻に疑問を覚える。


「20xx年って今から9年前じゃねえか。って事はこのライフってガキが7歳の時か? ・・・最近のガキは発育がいいんだなぁ」


 7歳の頃の自分を思い出すフェイルズ。確かその時は金属のコマを超高速で回して遊んでいたなぁ、と昔を思い出し、その時の自分が人を殺せる判断に至れるかを考える。考えるまでもなく無いだろうと結論に至る。

 殺す事は相当な事だ。相当な覚悟と、相当な背景があったのだろうと考えるフェイルズであるが、情報を見返す。当時は7歳と言っても『L』の魔人なのだ。常人と同じ考えを持っている筈がないだろう。


 同情の心が浮かんだのは他二名も同じで、そして結論に至ったのも三名だ。同情の余地も、情状酌量の隙もないだろうと判断する。だが、そこでユーズが口を開く。


「確かに相手は魔人で、人を殺してはいるけど・・・問題は事件の年数。9年前の事件を引き合いに出すのかって話なのよ」


「あ、そっすね。確かに魔人って部分だけを見てましたけど・・・けど、結局の所相手が犯罪者で、殺す対象なのは変わらないのでは?」


「そうだけどね。まあ、これは私の考えなんだけど・・・この面倒事は本部の尻拭いって事だと思うの」


「尻拭いとは?」


 フェイルズから資料を受け取り、鞄に仕舞う


「9年前って本部に一つの部隊が作られた年なの。知ってる?」


「9年前っすか・・・多分俺母親ん中ですね」


 リックの冗談は流れ、変わりに走行スピードが若干上がる。


「私はまだ中学生だったですね」


「・・・そうか、犬が作られた年か」


 犬が何か、リックとルカがフェイルズの方を向く。


「ワシはそこまで知らんよ、知ってるのは名前だけだ」


 そしてよく知っているのは何年も前から本部に所属していた『U』の彼女だけである。


「犬、まあ正式名称とかは知らないけど、身寄りのない子供とか、ちょっと有能そうな子供を攫ったりとかスカウトして魔人に突貫させて情報を得る部隊のことよね。突貫だからすぐに殺されるし、すぐに利用されるしで良い事はなかったみたいだけど、中には優れた身体能力とかで長く生き残る子とかも居たみたい。確か特務部隊一班の隊長とかもそうじゃなかったっけ」


「あ、ユーリさんですよね!! 私、あの人に助けられてここに入ったんですよ! こんな過酷な部署に配属されるとは思わなかったですけどね」


 事例を一つ出す。リックとフェイルズが正解に辿り着く。


「って事は犬の中に魔人が出たからそれの排除で、俺らって事っすか」


「そーいう感じね。下っ端だけど9年も生き延びた犬は強敵だから気をつけてね」


 情報共有、とも言えない事前情報で時間が潰れ目的の場所に到着する。廃ビルのようなものが立ち並ぶ廃墟であった。




・・・・・・・・・・


 コツコツ、とユーズが履くヒールの音が無駄に広い空間で反響する。それに続くようにして水が滴り落ちる音が合いの手のように聞こえてくる。


「雨漏りしまくりで欠陥住宅っすね」


 と、リックの軽口も反響し、呑み込まれるようにして消える。心の中で「無視かよ」と思ってしまうリックであるが、戦場で無駄口叩く方が悪いよな、と大人の対応を見せて我慢する。残りの三人は様々な考えで進んでいるが、『L』に対して色々と考えているのはリックだけなので。まあ、誠実なのか不純なのか。フェイルズは今夜の献立を考えていた。


 歩く事数十分ほど、少し開けた空間が見え、木漏れ日が指している場所にかの人物は居た。

 虚ろな表情で俯き、三角座りをしている。ユーズと同じような銀髪だと見たが、白髪かもしれないなと思う。次会った時は髪染めでも持ってきてあげようかと思うルカ。

 相手の出を伺う均衡数秒足らずであった。最初に動いたのはフェイルズである。

 一歩前に進み、懐から取り出した銃をライフに向けた。


「定時前退社を目標にしてるんでな」


 引き金を引く一瞬、ユーズが声を張り上げる。


「少し待てッ!!」


 そんな静止の声は響く発砲音でかき消される。

 少し俯いた状態であったが、脳天を撃ち抜くことに成功したフェイルズは銃口が熱くなった事ですぐに仕舞えないな、と軽く振って冷やそうと振るっていると妙な衝撃を覚える。崩れる視界と、響く自分の名前。妙に風通しの良い頭。


 ライフの撃ち抜かれた頭から一つの鎖が飛び出し、フェイルズの脳天を突き刺した事によって緊張感は最大になる。リックは声を張り上げる。


「ユーズ、発動許可を!!」


「許可します」


 正式な上司からの許可を得て、自身の『R』の能力を発動する。Rick、軽い筋肉の痙攣である。効果をライフに向け発動し、何の効果も無い事を確認する。瞬時に背中に背負っていたライフルを手に持ち、ルカと一緒に銃弾の嵐を作る。


「こんなクソ雑魚な能力で、こんな化け物と一緒の魔人にすんじゃねえええええええ!!!!」


 強烈な発砲音に乗せて心の叫びを打つける。一応人間相手では効くのだ。筋肉の痙攣、一時的な行動不能効果であるのだが、効果を発動する前に無表情で銃を乱射しているルカによってほぼ全身が鎖と化したライフには意味がなかっただけである。筋肉が鎖製では痙攣もクソもないって訳である。

 全身が鎖と化し、鎖が人形を形成し始めた頃、ライフは行動を開始する。一歩前に進み、肩の部分から三本の鎖を三人の方に向け飛ばす。三者三様で攻撃を回避し、鎖は三人の背後にある壁に突き刺さる。


「もしかしてやばい? ルカ、全力で回避いいい!!」


「ひぃいいぃいいい!!??」


 突き刺した鎖が壁を利用して巻尺のように高速で接近してくる。何がライフだ、お前の人生鎖なのか異質だな。人生語る前に鎖をどうにかしろよ。鉄分余りすぎて全身から溢れてるじゃねえか、と思うリックであるが、そんな馬鹿な軽口は言えない緊迫状態である。

 高速で接近し、腕にグルグルと巻いた鎖パンチを寸前で回避する。風切り音と、擦れた頬に一筋の赤い線が浮かび上がる。


 移動速度は異常で、銃を乱射しても弾く金属音が聞こえるだけで痛みを感じている気配はない。そんな超装甲。

 攻撃力は言わずもがな、避けた先の壁に大きなヒビが入る程で一言で表せば、


「無理ゲーだろ・・・ユーズさん! これ俺たちがどうこうできる相手じゃないんすけどッ!!??」


 と、全力で助けを求めるが反応は著しくなく、


「ユーズさんのばか! あほ! 年増! 未亡人!!」


 とのルカの暴言にも反応を見せない。錯乱状態で、自我を失っている彼女は言わば壊れた会話人形のような状態であるが・・・素に戻った時が恐ろしいだろう。給料減給どころの話ではない。


 拳を構えるリック。一番の脅威を上げるとするならばそれは速度である。強烈なスピードで迫ってくるから攻撃に転じれないし、逃げるしか選択肢が選べない。強制的に死ぬ? それとも惨死? との選択肢を向けられているのと同義であるのだ。ルカは錯乱し、マガジンの交換もおぼつかないのか腰を抜かし、外へと逃げようと這いずっているので戦力外と断言する。


 壁に拳をぶつけ、威力をまだ弱められていないのかそのままの勢いで壁に激突したライフを見る。

 瓦礫を蹴飛ばすようにして出てきたライフに向けて息を吸い、呼吸を止める。そして覚悟を決める。

 相手の鎖の増幅は未だ止まっておらず、マントのように右肩から溢れる鎖は揺れ動いている事でジャラジャラと音が鳴っているし、折り込むようにして彼の装甲は強度を増していっている。


「どうにでもなれや、このクソ化け物があぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」


 佇む彼に向け拳を上げて走る。駆ける。二足を必死にかき回して全力を超えてもいいと走る。力で勝てないなら、技術で劣っているなら、後は根性だけだと。今に恨みを吐きながら、ユーズを心の底で吐き捨てながら走る。

 そんなリックを見て、ライフは相対するように拳を振り上げる。腕に巻き付いている何十本の鎖が轟々と擦れて鳴りながらリックに向かって振り下ろされる。


 ああ、これ死んだな。と、頭上から迫ってくる死の気配をヒシヒシと感じながらその死に向かって拳を向けた。その時、


「ごめん、上に許可貰うの遅れちゃった」


 年増で未亡人であほでばかだと思っていたユーズの申し訳なさそうな笑顔がライフの攻撃をその身で受けながら、向けてきた。

 ジェンガが崩れる音の凶悪さを増した音が響き渡り、地面に何十メートル程のヒビが彼女を中心に出来上がる。土煙が立ち込め、三人を覆う。そこから飛び出したのは腹部に蹴りを受け、蹴飛ばされたライフの姿だった。

 壁に激突し、腹部から飛び出した鎖で瓦礫から抜け出したライフは、構える前にユーズの攻撃をもろに受けてしまう。


「ユーズ、『U』の魔人です。殺す予定は無いけど、死なないように頑張れって事で」


 ユーズ、use。使う魔人である。吸収した魔人の能力を自身のものに出来る強力な能力を有する彼女は普通の戦闘では戦うことすら許されていない程重要視され、それ以上に危険視されている。

 彼女が纏うマントは拘束具の役割を担っており、行動に60%程制限が掛けられている。


 だが、そんな風には見えないほど軽快な動きで殴り飛ばしたライフを追っかけ、追撃を嫌とする鎖の静止を掴み、力尽くで引っ張って無理矢理追撃を与える。

 顔面を拳で殴り、肘で殴り、時に頭突きを繰り出すその姿は普段の冷静沈着かつ、美女の姿を忘れ去れるほど強烈なものである。どっちが悪魔か分からないほどの打撃を加え、彼女自身の拳も血まみれになり、骨が砕け散る。攻撃の頻度は遅くなっている事を感じ取ったのかライフは一瞬の隙をつき全力の鎖を放出する。

 逆さまから吐き出される濁流のような鎖の嵐にユーズの体は打ち上げられた・・・ように思えるが、


「ふむ、原因はその鎖かな? ちょっと死ぬくらい毟るね」


 そう呟き、濁流を掴み、勢いよく引っこ抜く。その瞬間、毛を毟り取る様な音が響き渡り、ライフの腹部から鎖が引っこ抜かれ、それと入れ替わるように吹き出た血が勢い良く飛び出る。

 続く様にバリバリ、と皮膚をそのまま剥がすような音と、鎖がジャラジャラと落ちる音、そして打ち上げられた魚のように暴れるライフ。

 全てを力ずくで固定し、やりたい事を押し付けるその彼女の姿は戦闘と言えず、解体と言った方が正しいものに見えてきた。


 人とも言えない化け物の解体作業にリックの吐き気は一周回って無になり、呆然としながらその光景を見ていた。


 一時間と少し、永遠かと思える位に再生する鎖を全て毟り取った結果。残ったのは全身を真っ赤に染め、筋肉の繊維が全て確認できる程に衰弱しきったライフの姿だった。

 その傍で服が汚れちゃった、と別の事に意識を向ける彼女の姿がある。


「リック、ライフを拘束して。本部に連れて帰るよ」


「・・・ユーズさん腕は」


「2回も同じこと言うのは余り好きじゃないなぁ」


 冗談じゃなく、本気の声色で言う彼女に自分も同じように皮を生きたまま剥がされる未来を覚え、直ぐに行動に移すリック。

 腰につけていた魔人用の拘束具を取り出し、痛々しい姿になった彼を一ミリの猶予もなく固定していく。


 悲鳴もあげる元気がないのか、ただ虚ろな表情で天井を見つめるその彼を見て、妙に痛々しい気持ちになりながら両手が真っ赤に染まるのも厭わず拘束を完了させる。


「よし、じゃあ帰ろうか。リックはライフを持ってきて、ルカは・・・私が連れて帰ろうか」


 道半ばで意識を失った、涎がダラダラな彼女をヒョイっと担ぎ上げ、去ろうとするユーズに思わず声をあげる。


「ユーズさん! あの、フェイリズさんは・・・」


 その言葉にキョトンとした表情を見せる。


「命令違反だよ? あー、私の力ではルカちゃん一人連れて帰るだけで精一杯なんだよね。嫌ならリックが持って帰りなよ、それ、結構酷い臭いよ?」


 特に考えたわけでもない、本音とも思えるその言葉に思わず言葉を失ってしまう。ほんの数時間前まで普通に話していた仲間なのに、その対応はなんなんだ、と憤り気持ちが湧き出るリック。フェリイズに近寄り担ぎ上げようとしゃがむが、


「う、くせぇ・・・」


 ・・・無理だと判断し、合唱して頭を下げる。

 乱雑にライフを担ぎ、先を進んだユーズに追い付くために駆け足で向かう。


 半ば腐りかけの彼の姿はライフの能力か、それとも彼自身の結果なのか。今のリックには判断できないものであった。






・・・・・・・・・・


「うっ・・・こ、ここはどこだ・・・?」


 全身に感じる痛みと、ツンざすような眩い光に言葉を溢す。

 ようやって慣れてきた視界で見えたのは白衣に包んだ美女が一人と、自分の体を締め付ける拘束具の姿だった。

 謎が謎を呼んで謎が頭の中で逡巡する。答えは一切出なかった。


 そんなライフの姿を見て、意外と回復は早いのかと言葉を溢すユーズ。見学するなら無料と言ったのに着いてこなかったリックに甘さがまだあるなぁと感想を抱きながら自己紹介をする。


「私の名前はユーズ。君と同じ魔人だよ。今日から君の所有権は私な訳で、取り敢えずこの時間は君の戦闘能力に付いて知ろうと思うんだけど質問は?」


 次々に溢れて流れ込んでくる情報量に軽い目眩を覚えそうになるライフであるが、言葉を紡ぐ。


「・・・腹が、減りました」


 それに続くようにして彼の腹からグゥ〜、と腹の音が鳴る。

 その言葉と音を聞き、笑顔になるユーズ。


「根性は良し。実験を始めようか」


「え、飯は・・・?」


「君は今日から本部の犬じゃなく、私のペットだよ。返事は『うん』か『はい』しか受け付けてない。良いよね?」


 有無を言わせない迫力を感じ、ライフは首を縦に振ってしまう。



・・・・・・・


「初戦として『A』の魔人と戦ってもらいます」


「ん?」


「電車で近くまで行けますので乗っていただいて、そこからは徒歩で向かってください。殺せたら電話ください。これ運賃です」


 そう言ってユーズから一万円札と、携帯を渡される。

 ライフは受け取って、またポカーンと間抜けずらを見せる。


「え、ん?」


「先ほどまでの実験でライフ君の能力は『生きる為に戦う』だと判断しました。『A』の能力はArm。恐らく倒せるでしょう。期待して待っています」


「へ?」


 言葉を最後に部屋から追い出され、本部の門を抜ける。

 振り返ると今までに見たことがないほどに大きな建物が目に入る。


「さっきまでこの中にいたのか、俺」


 何故か9年間犬みたいに生活していたことを知られていたので、その関係で現状になっているんだろうな、と適当に判断し。まあ、変に反論して前の生活に戻っても嫌だよな、と考えて行動することにする。

 ぴっしりとキマったスーツを身につけ、戦う立場なのに革靴と営業マンみたいな姿をしているライフ。白髪の三白眼でスーツ姿とは普通の仕事はしていないだろうな、と容易に想像できる姿の彼。


 目的地までの運賃は用意されているし、その場所までのルートは携帯で見れると言う。

 初めて触るんだけど・・・と、四苦八苦しながらマップのアプリを立ち上げる。ご丁寧にルートが引かれていてわかりやすくなっていた。


「アホ正直に向かう必要はねぇわな」


 記憶は曖昧だが、自分が『L』の魔人だと言うことは理解してるし、その事実もユーズとの実験で確認している。最低でも10回は脳天を銃で撃ち抜かれてるし、四肢は30回はおさらばしている。心臓なんて撃ち抜かれていない事の方が多いくらいだ。今もう一度ユーズと戦って勝てる勝てる事は出来ないだろうが、ある程度離れたこの場所からなら余裕で逃げれる事は容易だろう。


 逃げる自分を想像し、それが成功している未来を見る。頬が自然とゆるむ。


 携帯で場所を探し、目的地まで電車で向かう。


 揺られる事数十分。馬鹿みたいな人混みにかき混ぜられながら、半分迷子になりながら駅から出る。

 暗い地下から抜けた先に見えたのは、眩い太陽の光と、ごった返した人の流れ。そして本部の建物にも負けない程の高さを誇るビル群。色が入り混じり、小学生の美術の時間位の派手やかさが見える店達。


「これが都会かぁ。想像してた以上に蟻の巣なんだな、働き蟻がうじゃうじゃ湧いてらぁ」


 そんな事を呟きながらハットグなるものを買うために移動する。


「ハットグ一つください」


「どのような種類に致しますか?」


 指差されたテーブルに磔にされているメニュー表を見る。言語が入り混じりすぎて甲骨文字みたいになっているなぁ、と思い読み取る事を諦める。


「店員さんのおすすめで」


「おすすめですか・・・なら、こちらとかがおすすめですね!」


 提示された金額に万札を差し出し、お釣りをポッケに突っ込む。

 待って、出されたゴツゴツな棒を受け取る。


「ソースは隣のテーブルに置いてありますので、ご自由にどうぞー!」


 見るとはちみつ、ケチャップ、マスタード、辛そうなソース、と様々な種類のものが置いてある。考えて、迷って全部かけることにした。


「あー、まじぃや」


 レインボーは見た目100点だが味は0点である。今後は虹を見ても美味しそうと思う事はあっても、食べたいなーとは思うことがないだろうと断言する瞬間であった。


 喉が渇いたのでタピオカを飲んでみることにする。


 調べてみると有名店が近くにある事が分かった。

 数分歩き、道行く人が奇抜すぎる格好をしている事に目がいった。

 短パン半袖だったり、ソフトクリームを頭に乗せていたり、穴あきの服を着ていたり。小さい時は黒髪の人しか周りに居なかったので、自分の髪色はおかしいな、と思う事があったが、それ以上におかしい髪色の人がいるので余り気にならなくなった。


 近くにあった店に入る。


「いらっしゃっせー」


 目がチカチカする内装に、好きで着ているのかな? と疑問に思うほどの格好をしている店員。それを見て関わりたくないなー、と思うライフ。

 学校に通った事がないので、計算とか読み書きが若干苦手であるが簡単な算数は出来る。出来るが故に店内の服の桁がおかしいことに気付く。


「こんなバカな柄で4,000円? 何かの募金か?」


 コラボで何かをしているとしか思えない変なデザインである。まだライフ自身がデザインした方がこれよりも何千倍も良いものができると思っているし、なんならこれの製作者は小学生だよな? と考えているほどである。

 そんな事を思っていると奇抜な格好の店員が近づいてきた。


「いらっしゃい。おにーさんこれ選ぶの? いいよ、これ。凄く良い見た目だし、使いやすいよ」


「別に見てるだけなんで」


 手に持った服を元の場所に戻そうとすると、その店員がずいっ、と前に出て服を取る。


「えー、そうなの、勿体無いよ。ほら今ならこのサングラス合わせるよ、UVカット付いてるよこれ。でもって500円引きもしちゃうよ、買ってかない?」


「お得?」


「お得よー」


 現在の所持金4,950円也。


・・・・・・




 タピオカミルクティーを飲みながら次はどこ行こうかと歩いていると幅寄せするようにして黒塗りの車が近付いてきた。

 助手席の窓がウィーンと開き、見覚えのある顔が出てきた。


「サングラスでアロハシャツ。タピオカにハットグ買っちゃったねぇ。小旅行でお金渡した訳じゃないんだけど」


「やっべ」


 サングラスをズラし、顔を確認する。ユーズであった。


 方向を転換し、車と逆方向に走り出す。一歩二歩、と駆けた辺りで首根っこを掴まれる。


「そこら辺の教育してなかったからそれは私の不手際だよねぇ」


「そっすね。あ、タピオカ飲みます?」


「いや、直通だよ」


 渡したタピオカを近くのゴミ箱に投げ捨てられ、後部座席のドアが開き投げ入れられる。思いっきり車の天井に頭をぶつけてしまったライフだったが、そんな心配を一歳見せずに車は発進する。

 走る事数分。静かな空間と、外の景色に開きていたライフが疑問を口に出す。


「もしかして見張ってました?」


「まぁ、そうだね。携帯って位置情報見れるからね」


 瞬間、窓を開けて携帯を投げ飛ばす。橋の上だったようで、川に着水間違いなしだろう。


「その内体内にGPS埋め込もうね」


「GPSってなんすか」


「君の位置を知ることが出来る機械の事だね」


 窓から逃げ出そうとするライフでが、ユーズの剛腕で引き戻された。シートベルトを二重で固定され、隣にユーズが座る事になった。

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