第7話―前悪の呪い07―

「で、どうして隊伍たいごを組もうとしないんだ?」


傭兵エスティマは筋骨隆々と鍛えられており顔つきは武人らしい勇ましさのある中年期の男性であった。


「それは…」


見晴らしのよさそうなに茂みの中を進んで見えた開けた場所に会話をしていた。

先天的な異能とされるアストラパーツ。

どれも所有者を高めてくれる異能また加護とされているが何故かシザーリオだけはマイナス要素として効力を発揮させる。

傭兵エスティマは村を出る際に出店で買ってきたリンゴをかじる。

咀嚼して飲み込んでから彼はシザーリオの言い淀んだ言葉に迷いがあるようだと態度から理解した。それが常識的に考えて、あるはずがないアストラパーツが悪い方向に弱体化しているなど想像すらにしない。


「そんな実力で魔物退治をしようなど無鉄砲にも程があるなぁ。素人がよくおかしがちにやる。これに懲りて戦闘業を辞めるのも選択の一つだ」


素人と評されて癪に障るものの言い返せないのが情けないと感じていた。

迷いの森という名称から遭難するのを前提にして何日分かの食料や道具など毒など解毒剤と薬草も揃える必要があった。騎士として勉学や軍学もしてきたシザーリオは油断が生存率が下げると頭で理解していた。

知識としてあったが実感や細かいところまで承知していなかった。


「…いえ、そういう訳にはいきません。

戦闘業で成功させる夢が…目標があるんです。その為に泥臭い努力を欠かせません」


シザーリオには憧憬しょうけいとする騎士道が胸中に抱いている。


「ふーん、そうか。

その努力が本当の努力ならなぁ」


「どういう…意味ですか」


「ハッ、そう怒るなよ兄ちゃん。

別に侮蔑とかけなしているわけじゃねぇんだ。努力している奴というのは、わざわざ努力とは言わない」


「例外もありますよ」


「何事も例外は、あるんだ。

つまりだ。オレが言いたいのは日課とする鍛錬たんれんが生活の一環となれば努力とは思わない。その行為を第三者が努力に移る。

その一方に努力している言う奴というのは生活の一環と違って任務のようなものだ」


何故こんな話を聞かなければならないんだとシザーリオは無為に時間が過ぎっていくことに虚無感になっていた。

助けられたとはいえ見知らぬ人から戦闘と努力の哲学的な定義を語り始めたのだった。

恩義があるからエスティマに無視する訳にはいかず相槌を打つなどして対応。

気が滅入っていたが間、髪を容れずな言葉の数々に逸らそうとしていなかった。


「どうして任務?」


完遂かんすいした任務をこれ以上はしない。畑仕事なら収穫し穀物もそうだし

売られた商品を一々と覚えていないように」


「あっ――」


「それを果たせば誰かが促されない限りには、やろうとしない。

振り返ろうともされないなら努力して目的を果たせば継続するか?つまり、その努力は一時的なものだ。

習慣をして身につけておけよ少年。ほれ」


リンゴを放り投げられてシザーリオは慌てて受け取る。せめて合図や言葉してから投げて渡してほしいと非難的な目を向ける。

されどエスティマの振る舞いからして豪放な人柄なのは容姿からも見て取れる。


「あっ、どうも。……はい、心得ておきたいと思います」


シザーリオは思う。少なくとも俺はエスティマという傭兵の言葉に感銘かんめいした。努力はしていくものじゃなく習慣の一環にと心の奥にと刻むのであった。


「けど騎士だけは、やめておけ。あれは人を腐らせる」


そう言ったあとエスティマは新しく出したリンゴをそのまま口に放り込んで豪快に咀嚼をする。


「腐らせるって、そんなことあるわけ無いじゃあないですか!」


聞き捨てならない言葉にシザーリオは激昂してエスティマに噛み付いて反論した。


「がっはは。わりぃ、わりぃ。だがな騎士よりも衛兵とかにしておけ。そうじゃないと戦場ではない場所で魂が腐敗させる」


「腐敗なんかは…ありませんよ」


シザーリオは否定しようとしたが脳裏によぎった上官がした一方的な追放による暴挙。

黙り込んでしまった青年のシザーリオを傭兵は私情的になりすぎたかと自省をする。


「まぁ、なんでもいい。とりあえず何するか知らねぇが頑張ってやれや。じゃあなぁ」


忠告をこの辺にしてエスティマは大剣を背負い直して、その場を離れようとした。

茂みに歩を進んでいくのを目で追っていたシザーリオは決意する。その背中を追って近づいて頭を深々と下げて声高に言う。


「剣の稽古をお願いします。

俺の師になっていただけませんか!」


「はぁ、なんだって?」


あまりにも急なお願いを受けて振り返ったエスティマは困惑して応えに窮したのだった。

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