チェックアウトの時間。直前に目が覚めた。

 床で掛け布団に包まって眠っている兄を起こす。

 先に支度を終えたのは、兄だった。

 

 フロントで鍵を返し、車に乗り込む。

 エンジン始動する。空調から生暖かい風が吹いた。

 私は助手席でのびをしてからシートベルトを締める。車が動き出す。私は助手席の窓を開けた。


 窓から吹き込む、乾いた風。


「何か食べに行こうか」


 兄は、左手で髭の剃り残しを気にしながら私に尋ねた。

 なんでもいいよ、と答えるつもりで口を開き、昨日焼肉を食べ損ねたことを思い出した。

 

「焼肉」

「朝から?」

「もう昼だよ」


 大きくハンドルを切り、急旋回。後ろの車からクラクションを鳴らされた。

 兄は運転が好きだった。

 でも、あまり得意ではなかった。

 

 

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