地球最後のネコ派なボク。
首領・アリマジュタローネ
地球最後のネコ派なボク。
地球が滅亡するとNYASAが発表して数十年が経過した。
とはいえどみんながみんな地球から出ていって、火星に住んだわけでにゃくて、ボクのように取り残されたヤツもいた。取り残されたというか見捨てられたって感じだけど。
ボクはネコ。
公園に住むネコ。
名前はにゃい。
飼い主はいにゃい。
だからたぶん地球と共に滅亡する。
※ ※ ※
ニンゲンたちが忙しなく、準備を始めたけど、ボクの生活はにゃにも変わらなかった。
いつも通りあくびをして、ダラダラと過ごすだけ。
食べ物はニンゲンたちがたくさん残していったので、そこを別のネコに探してもらって、お腹が空いたら食べるだけである。
どうせみんな死ぬってわかっている。
ボクだってもう17歳だ。
最近は目も見えなくなってきている。
ニンゲンたちはネコのことを愛玩動物と思っているだろうけれど、こっちからしてみたら都合の良い食べ物をくれる人としか思えにゃい。
にゃーと鳴けば「可愛い」と寄ってきて餌をくれる。
大人しくしていれば痛い目を見ることはにゃい。
奴らに逆らえば怖いってことは動物たち全員が知っていた。
動物界の頂点に君臨していた彼らがいなくなるってことは、元の自然に戻るということ。
ある意味楽である。
「子供なんて産まなければよかった」
ハトがそうぼやいている。
確かに今から隕石が落ちてきて、ボクらみんな全滅してしまうのだからそう思うのは仕方ないことであろう。
しかしにゃがら、生命というものは誕生した瞬間から終わりが決まっている。
親がそれを決める権利にゃんてそこにはにゃい。
受精してしまった時点で親の責任であり、産まれてしまった時点で子供の責任である。
誰も悪くにゃい。
「疲れるだけだったポー」
にゃんだ。体力的な問題か……。
しかしながら、ボクはオスなので子供がいた経験がにゃいし、孕んだ経験もにゃいので、多くは語れにゃい。
どこから我々が誕生したのか、そのメカニズムすらも理解し難い。
ニンゲンたちは“神”なるものというものがいたと口々に言っていたけれど、最近はその“神”に悪口を言う人もいる。
「あー、神よ!どうして我々を見捨てるのか……」
「神よ。救いをください。どうか、この青い地球が昔のように生活できますように!」
「火星に行った奴らが地獄に堕ちますように!」
無駄な願ゃいだとつくづく思う。
我々はみんなもうすぐ死ぬ。
どうしてそれを受け入れた状態で足掻くのか。
そんなにも命というものが恋しいのか。
にゃんともバカらしい。
※ ※ ※
にゃんだかなぁ〜という感じである。にゃんとも愚かな奴らだ。
隕石が地球に墜ちるということがわかってから、このセカイは大きく荒れた。
偉いニンゲンたちが先にロケットに乗り込んで、貧乏なニンゲンたちが批判して、平等を唱えていた。
たくさんの争いが起きていた。
みんなそんなに死ぬのが怖いのか。
腹が立ったのが、そのストレスをボクらネコたちのような同族にぶつけてきたものたちもいた。
食おうとしてきた奴らもいたから蹴り飛ばしてやった。
一部のニンゲンしか働かなくなって、このセカイには終末が訪れた。
飢餓でニンゲンたちは死んでいった。
隕石がついそこまで近づいているのを見て、自ら死を選んだニンゲンもいた。
愛を語り合いながら心中していくカップルたちもいた。
ボクらはそれを見ながらニンゲンたちの崩壊するサマを鼻で笑っていた。
※ ※ ※
どうやらニンゲンたちには理想の死に方というものがあるらしい。
彼らは寿命を全うして、子孫を残して、それなりに幸せを享受して、眠るように死にたいらしい。
にゃいを都合の良いことを言っているのか。
危ない機械や兵器を作り上げて好き勝手に過ごしていたくせに綺麗事にゃんて吐かないでほしいものだ。
車という大きな鉄の塊が同族たちを何匹も轢き殺していった。
にゃんとも危険なものを作っておいて、更にそれでニンゲン同士がぶつかり合う。意味がわからにゃい。
さっさと死んでしまえばいい。
違う惑星に避難したところで、過酷な状況であることに違いはにゃい。
どこに行こうが元の生活は保証されにゃい。
未知のウイルスが蔓延するかもしれないし、地球のよりも遥かに大きな災害が起きるかもしれにゃい。
全ては環境を汚してきた奴らのバチである。
因果応報。
今がどれだけ恵まれているのかを知らにゃいで生きているから、大きな問題に直面したときにバカみたいに騒ぎ立てるのだ。
諦めてこの状況を受け入れればいいのに。
にゃっにゃっにゃっ。
神も仏もこのセカイには存在しにゃい。
あるのは過酷な現実だけ。
夢なんて見るにゃ。
みんなもうじきお陀仏だ。
ボクもようやく……母さんたちに会える。
※ ※ ※
お昼なのか、夜なのか、もうすっかりわからなくなってきたとき、誰かがボクの頭に触れた。
見ると帽子を被った女性とすらりとした男性が立っていた。
二人ともボクに笑いかけている。
「ネコ好きだったよね、ショウジ」
「うん。ボクはいま地球最後のネコ派の男かもしれない」
「だったら、私は地球最後のネコ派の女ね」
「ははは、それは言えてるねっ」
二人が笑い合っている。
おかしい。ここにはニンゲンたちはいにゃいはず。みんな避難するか、絶望して隠れ家を探しにいった。
もうすぐ地球が滅亡するのに、なんで……。
「ネコちゃんおいで」
ニンゲンが手を伸ばしているので、ボクはしぶしぶ近づいてゆく。
ゴロニャーと鳴く。
「ごめんね。餌は持ってなくて。足がこんな感じになっててさ、もう歩けないんだ」
車椅子に座ったニンゲンの膝に座りこむ。
髪の長いニンゲンは悲しそうに微笑んでいた。
にゃんだ。最後の晩餐におシャケを期待していたのに……。
「もしもお金があったのならロケットに乗れたのかな。隕石が落ちてこなかったらこうやって二人でネコちゃんを抱きながら、幸せな家庭を築けたのかな……」
「大丈夫だよ。大丈夫」
「こわいよ……わたし。死にたくないよっ……!」
「大丈夫……!大丈夫だからっ!」
ニンゲンが肩に手を回して抱き合っている。
涙を流している。
ボクはジッとそれを見ている。
「もし生まれ変わっても……私はまたあなたと一緒に過ごしたい」
「僕もだよ」
「男の子一人と女の子一人で……それとさ、ネコを飼って、二人がおじいちゃんとおばあちゃんになるまで……」
「……っ……!」
ニャンとも儚ゃいラブストーリーである。
ニンゲンたちは賢く、愚かで、変だ。
みんなもうすぐ死ぬ。愛すべき人と最期を迎えられるだなんて、とても幸せなことだと思わないのかにゃ?
ニンゲンの考えることはわからにゃい。
「愛してるよキミカ」
「さようならショウジ」
隕石が落ちてくる地球最後の日。
ボクはニンゲンの膝の上であくびをしながら、その時を待った。
地球最後のネコ派なボク。 首領・アリマジュタローネ @arimazyutaroune
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