第6話 メンバーはアイドルマスター!? (3/3)

 場所は変わり、プレハブ小屋。

 朝食を摂り、十分な休憩時間を満喫した両者は「アイドル」の為のレッスンをする事に決めたのだ。


 ラキの考えとしては、自分の踊りのキレや歌唱力を取り戻すと同時に、アヤがどれ程の実力なのかを見る目的があった。

 アヤとしても憧れのアイドル「三栗ラキ」に見てもらえる、とノリ気だ。


「えっと、この曲でやりたいとかって何かないかな?」


 マネージャーが用意しているCDフォルダを手に取り中を軽く開く。

 相当な枚数収納できる筈なのだが、どうして、どうしてかSTaBの時のCDしか入っていなかった。振り返り用とかではなく、ただ純粋に保管してあるだけ・・・? と考えてしまうラキ。


 他のアイドルの曲でも、自分の自信がある曲で良いよ。と、そんな意味で言ったあの言葉を思い返し、少し気まずくなる。これでSTaB以外の曲を言われたらどうしよう、と考えていると、そんな迷いを吹っ飛ばすような元気の良さでアヤが叫んだ。


「『キミとワタシの恋愛空模様』をやりたいと考えています!! 何か一つ、と言われて心苦しいけど、一番あたしが救われた曲だから! もちろん、STsBの踊りも歌も完璧だけど? 三栗ラキのシングルも全て網羅しているけど? それでも『キミとワタシの恋愛空模様』をやりたいと思います!!!!」


「うぉ・・・う、うん、今かけるからちょっと待ってね・・・」


「はい!!」


 元気のいい返事をし、気分アゲアゲな様子で鏡に映った自分を確認しながら軽い振り付けを踊ってみせる。その一瞬だけでも「あ、踊れるなこの子」と判断できてしまうものだったが、まぁ、見せてくれるなら見ても問題はない。そう考え微笑ましい気持ちで収録されているCDを探す。


 『キミとワタシの恋愛恋模様』は、STaBとして2つ目にリリースした恋愛ソングである。キミとワタシの甘酸っぱい、中学校生活を舞台にした歌で、ファン層にはとても評判の良かったものである。

 だが、世間としての評価は「良くあるラブソング」として留まっており、そこまでの知名度があるかと言われれば無い。


 深く、歌詞を見て、そして歌っている人選を考えて、頭を良く回転させて考えてみると、その全てが全てに意味のあるものだったと気付ける隠された名作なのだが、そこまで深く考える必要のある曲をアイドルが出さないだろう。の裏目を狙ったために大滑りしたのである。

 総評としてはSTaB厄介ファンがにわかに「え、この曲を深く知らないとか笑止千万でござるwww デビュー曲から最新曲まで暗唱出来るようになるまでファンを語らないで欲しいでござるよwww』とコピペみたいに言われる原因となった曲だ。

 悪い意味で目立った曲でもある。


 そんな過去を持つ曲なのだが、ラキとしてデビューしてから数ヶ月は世間の評価に無頓着だった為、そこまで悪い感情はなく、アイドルを引退しても自分から調べる事は無かった事で「あー、確かそんな曲もあったよね〜」で済んでいる。


 これで、ラキがその事に付いて知っていたらアヤに対する評価は濁流のように急降下だったし、アヤとしても関係に亀裂が走る事案でもあった。結果としてはラキはその事に付いて知らなかったし、アヤはそんな悪評はそもそも目に入らないように脳神経が自動的にシャットアウトしていたので、両者ともに無傷だった。



 そんな過去話がある『キミとワタシの恋愛空模様』なのだが、現在収録されているCDを探し出すのに大苦戦していた。


「えっと、vol.4だっけ? うーん、でもこんなデザインじゃ無かったしどれだろう・・・」


 声に出して悩んでいると救いの声が飛んできた。


「『vol.3』、『STaBのすゝめ』、『えらいこっちゃ東京2018(STaB version)』に収録されています。『えらいこっちゃ』は現在廃盤になっており、若干のプレミアが付いている為希少価値はとても高いです。ですが音質としては『STaBのすゝめ』と変わらないので、曲だけ聞きたいって方はそれでも可です」


 さも当然かのように、読み上げAIかと聞き間違える程に正確な情報が耳に入った。


「あ、ありがと。・・・あ、えらいこっちゃ見つけた。これで良いよね」


「え、えらいこっちゃ現像!!??」


 と、目を見開いて驚き、ラキの手元のフォルダを覗き見ようと近付いたのだが、曲のイントロが流れたことで接近は叶わなかった。

 軽やかなピアノ、囁くようなフルート、小鳥の囀りのようなギター。それらが折り重なって2人の恋が歌われる。




・・・・・・・・


 結論だけ言って仕舞えば彼女、遠宮アヤは完璧に踊れ、そして歌唱力もあった。

 他のアイドルがカバーするとこんな感じになるのか、と素直にリリース出来る程の実力はある、とラキは判断したのだ。まぁ、ラキのパートだけ声真似が入っていたのが気になる次第であるが凄く上手だと言う結論には変わらない。


 そんな完璧なアイドルを演じて見せたアヤにせがまれて、デュエット曲である『2人は夢見る乙女なの』をやってみる事になった。


「2年前の曲、踊れるかなぁ・・・?」


「大丈夫! 踊れなくてもあたしがサポートするから!! こう、全身を預けるようなイメージで実践して貰えば・・・例えるなら舞踏会みたいな感じで!!」


「はいはじめまーす」


 鼻息荒く話すアヤを無視し、ラキは開始のボタンを押す。この曲はイントロがなく、数秒の無音の後にいきなり歌パートがある。

 2人が背を合わせ、タイミングを見計らってAメロを歌い出そうとした瞬間、扉が勢いよく開いた。


「すまない2人共!! メンバーが1人迷子になったみたいだから少し屋敷を離れる! その間に2人と親睦を深めてくれ、2人入場ッ!!」


 バァーン、と開かれた扉に意気揚々と声高々に宣言するマネージャーの姿と、彼に押し出されるようにして入ってくる2人。


「そのテンションなのね・・・えっと、白峰透華しらみねとうか。よ、ろ・・・し・・・って、ど、どうしてラキがここに居るのっ!?」


 白髪に青のメッシュのワンポイントがチャーミングな元アイドル、透華が自己紹介しながら驚く。

 アイドル辞めたんじゃ・・・と、口籠る透華を押し退けるようにしてマネージャーの頭1つ分程低い身長の、だけど女の子にしては高身長の彼女が口を開く。


「えー、本当だー、ラキちゃんよろしくね、私は奈々木凉ななきすずだよー。気軽にスズちゃんって呼んでねー」


 長い茶髪を結ばず流しているすずが笑顔で手を振る。その表情は笑顔なのだが、向いている方向がラキ一直線である。アヤの存在そっちのけだ。


 そんな2人の登場におっかなびっくり、大体のびっくりの原因はマネージャーであるが、そんな心拍数の高鳴りを感じながら挨拶を返す。


「・・・三栗ラキです、よろしくお願いします」


「えっと、遠宮アヤです。よろしくお願いします・・・」


 片方は「やば、なんでラキが? 引退したんじゃ? 辞めたのになんでここに?」と、独り言をゴモゴモ言って、もう片方はずっとニコニコしている。微笑んだ表情が徐々に反目でラキの方を見つめ始めているのをアヤは感じ取り、生物的な恐怖を感じる事になる。


「ヒィ・・・」


 と、背筋が凍る何かを感じていると、それに負けじ劣らず、凍った背筋を溶かすように激しくマネージャーが叫んだ。その叫びは永久凍土さえも溶かし尽くすだろう。日本列島は海の中である。


「最後のメンバーいんじゃん! 全然ラキと一緒にいるじゃん! 何、なになに、勝手に俺を置いて行っちゃうとかなんなん? ネオ初めてのお使い!?」


 そんな日本も今では第2のアトランティスです。


 マネージャーの叫びを完全に冷めた目で見る4人。そんな4人に対し、


「な、なんだそのクズを見るような目は! そ、そんな目で俺を見るなぁ!!」


 と、ワナワナ震えて扉を勢い良く閉めた。

 謎の空気感で『2人は夢見る乙女なの』のサビが流れる。アップテンポで、テンションが上がるような曲調である。空気感までは一新できなかったが。

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