第16話 さようなら我がパーティ

「このパーティは、解散だ」


 誰が口を開くより早く手を挙げ黙らせる。こいつらに口を開かせれば収拾がつかなくなるのは身に染みている。


「まず、結局パーティで1度も仕事ができなかったこと、本当にすまなかったと思っている。お前らの1年を無駄にしてしまった。これで責任を取れるとはおもっていないが、謝る。これからは、各々自由にやってくれ」


「「「「……」」」」


「あぁ、みんなはこのパーティを続けたって構わないんだぞ。1年も練習したんだ、きっと俺がいなくても上手くいく」


「「「「……」」」」


「じゃあ、全員他所様にだけは迷惑かけないようにな。これからの全員の無事を祈ってる」


 じゃあ解散、と席を立ったところで、がしっとミアが腰にへばりついてきた。

 今までの間やけに静かに俺の話を聞いてくれていると思っていた全員をみれば、スイは号泣しニコラは頭を抱えアイナは無表情で固まっていた。そこまでショックを受けることか、これ。

 俺たちは元々ダンジョン踏破のために集められた即席パーティだったのが、あまりの人間としての危なさに馴染むまで1年かかったと言うだけの話だ。仕事が終わったら解散するのは、当たり前だ。


「お兄ちゃん、ジェラルドの約束のダンジョン、潜るでしょ。パーティで行くって言った」


「あぁ、それはあと2年は行かないからな。これだけやったら、俺もさすがにクールダウンの時期だ。何年か後、もしまだ俺の事を覚えてたら協力してくれな」


「……やだ。今がいい」


「元々全員ダンジョンでは名の知れた冒険者だったんだろ? 一年前に戻るだけだ、ミア。俺もそうする」


「やだ」


「おい、ロイ。クールダウンとして俺らと浅いダンジョンをうろちょろするってのは、ナシなのか」


「うっうっうっ……うぅ~~!!」


「……ロイさん」


 いや、なんでこんなに別れを惜しまれてるんだ俺。確かに、俺だって1年間もチームワークを叫んだ相手にはそこそこの思い入れもある。だが、仕事は仕事だ。


 この時。俺の精神状態は。


 普通に正常だった。冷静に、プロの冒険者としてこいつらとはここでお別れだと割り切っていた。ほんのちょっとの解放感があったのは認める。


「悪いな。俺は、地上の冒険者なんだ」


「なんだってロイ程の実力者が、ダンジョンに潜らないんだ! 地上の冒険者なんて、憲兵に見下されて終わりなんだぞ!」


「地上の依頼も、誰かが受けなきゃなんねえからだ。ただでさえ俺は、1年も依頼を受けてない。俺は、間に合わないのは嫌なんだよ」


 びくっ、とミアが震えて、恐る恐る俺の腰から離れた。どうしたんだ急に。


「まあ、とりあえずそういう訳だから。全員達者でな!」


 そこで、俺は清々しい気持ちで手を振り店を出た。おそらく相当いい笑顔だったと思う。


 これで、俺のダンジョン攻略は終わりを告げた。本業の方に気持ちを切り替え、走り出した。


 地上を、駆け抜けた。




 この時。


 俺はこれからもこいつらが、今までのようにダンジョンへ潜る冒険者として輝かしい未来を歩むと、信じて疑っていなかった。

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