第二章〜㉗〜
水着売り場は、五階のフロアに展開されていた。
男性用のモノも、それなりのスペースが確保されているので、種類も多く、どこから手をつけて探せばよいのか、迷ってしまう。
そんな中、付き添い役である彼女は、デザインの好み、インナーの有無、予算などをこちらに確認すると、あっという間に数点の水着を選出してきた。
ネイビーブルーの無地のモノ、緑と黒のツートンカラーのモノ、そして、紺色に落ち着いた柄の入ったインナーメッシュ付きのモノの三種類が、候補に上がる。中でも、彼女が最後に持ってきた水着は、インナーの必要もなく、予算面でもデザイン面でも、自分の好みにピッタリと合うモノだった。
生地も速乾性のものを使っているらしく、手触りから想像するに履き心地も良さそうである。
「コレにしようと思う」
落ち着いた柄の紺の水着を手にして、彼女に告げると、
「うん! 私も、坂井には、その色と柄が似合ってると思うよ」
と、オレの選択を肯定してくれた。
的確なサポートで、スムーズに良い選択が出来たことに満足しつつ、会計を終えて、彼女のところに戻る。
(これで、日曜日の準備は整った……)
達成感に浸りながら、
「色々とオレに合う条件を考えてくれたんだな。ありがとう、小嶋! おかげで、良い買い物ができた」
素晴らしいチョイスをしてくれた付き添い役に礼の言葉を述べた。すると、彼女は、
「どういたしまして! お役に立てたみたいで、良かった」
笑顔を見せて、返答したあと、
「ねぇ、坂井。今日、色々なことを考えていた私が、いま、坂井が考えていることを当ててみようか?」
こんな謎の提案をしてきた。「ん?」と、怪訝な表情で返事を返すと、低く作った声色で、
『これで、日曜日の準備は整った! あとは、小嶋の水着姿を楽しみにするだけだな』
と、宣ったあと、クスクスと笑いながら、「どう当たってる?」などと、こちらの表情をうかがってくる。
「オレの思っていることを勝手に想像するんじゃねぇ! あと、そんなに気持ち悪いしゃべり方はしねぇ!」
反論すると、
「なんだ……坂井は、私がどんな水着を着るかなんて、興味ないんだ……」
と、そっぽを向いて、いじけたフリをする。
「いや、誰も興味がないとは言ってないが…………」
彼女の言葉を否定しようとすると、
「なに? やっぱり、興味あるんじゃない!?」
ニヤリと表情を一変させて問い詰めてこようとする。さらに、
「いや、だから、それは…………」
と、言葉に詰まると、
「まぁ、坂井がどう思ってるかは、当日の反応を見させてもらうか……」
と、余裕の表情で、会話を終えるのだった。
その後、大学図書館で調査できなかったことを少しでも補おうと、ターミナル駅周辺にある大型書店を何件かめぐり、コカリナや中央ヨーロッパの民族楽器について書かれていそうな本を探してみたが、残念ながら、大した成果は得られなかった。
それでも、彼女と二人で、書店の検索端末と書棚を行ったり来たりしながら、「ああでもないこうでもない」と、目的の本を探すことは、とても、楽しいものだった。
今日が、誕生日だという彼女も、同じ様に感じてくれていると良いのだが……。
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