第二章〜④〜
昨日と同じく、生徒の数が少ない学食で席を確保したオレは、待ち人の到着まで、今朝からの一連の流れを思い返しながら、彼女に問いただす内容を確認していた。
(今日の教室内での気味の悪いノリは、なんだったのか?)
(友人と出掛けるプールに、オレを呼ぶのは何故なのか?)
(夏休み中、他のことでもオレを呼び出すつもりなのか?)
などなど、気になることは他にもあるが、自分の精神的安定を図るために、まずは、これらの疑問を解消しておきたかった。
そんなことをツラツラと考えていると、
「お待たせ! アレ、まだ何も買ってないの? 私を待たずに食べてて良かったのに」
と、言いながら小嶋夏海が現れた。
これまた、昨日と同じくと言いたいところだったが、左手に、やきそばパンとパックのドリンクを器用に持った彼女には、前日の様子と変わっているところが一つあった。
「どうしたんだ? テニスボールなんか持ってきて」
彼女への返答よりも、気になった疑問を先にぶつけると、
「ちょっと、実験に使ってみたくて……廊下から校庭を見たら、このボールが落ちてて、誰も取りに来ないみたいだから借りて来ちゃった。あとで、テニス部に返しに行くから、心配しないで」
と、悪びれる様子もなく、平然と答える。
(実験って、ナニに使うつもりだ!?)
またも疑問が増えたことに、釈然としない想いを抱えながらも、彼女の言葉を思い出して、
「そっか……じゃあ、オレもメシ買って来るわ」
ことわりを入れて、前日と同じく、きつねうどんを買うべく券売機に向かい、カウンターで、うどんを受け取り、席に戻った。
昨日とは違い、話しておくべき内容は、雑談に近いカタチの方が聞きやすいと判断したオレは、席に着いて、
「食べながらでイイから、聞かせてくれないか? 今日の教室内での妙なノリは、いったい何のつもりなんだ?」
最初の疑問を小嶋夏海にブツけてみた。
彼女は、やきそばパンのビニール包装を開きながら、
「別に……夏休み中は、坂井と会う機会が増えることになりそうだから、今のうちに、仲の良さを周りにアピールしておいた方が良いと思っただけ。前振りなしに、私と坂井が二人でいるところをクラスの人間に見られたら、言い訳というか理由を伝えるのが面倒でしょ? 夏休み前に、『アイツら、仲が良いのか?』と周りに思わせておけば、余計な追及もされないんじゃないかと考えたの」
と、自身の見解をよどみなく答える。
しかし、淡々と語る彼女の返答に、聞き捨てならない箇所が、いくつもある。
まずは、順序が前後してしまうが、夏休み中に小嶋夏海と会う頻度のことだ。
「ちょっと、待て! いま、『夏休み中は、会う機会が増えることになりそう』と言ったが、夏休みは、オレを頻繁に呼び出すつもりなのか?」
「坂井の持ってるコカリナの能力は、とても興味深いもの! 私としては、毎日でも機能の検証や、時間停止の間にどんな現象が起きるかの実験をしたいところだけど……まぁ、坂井にも都合があるだろうし、週末くらいは、実験を休んでも良いかな? ウチの両親も土日は家に居ないしね」
最後の言葉は、つぶやくように語ったので良く聞き取れない部分もあったが、自分の懸念が的中してしまい、オレは、頭を抱える。
「マジかよ……ちなみに、拒否権は無いのか?」
そうたずねると、彼女は、なにを当たり前のことを聞いているのか、という風に、
「なんのために、昨日、契約書を作ったと思ってるの? 契約書の④と⑤の項目を確認してみたら?」
アッサリと返答する。
スマホを取り出して、メッセージアプリの前日の履歴を確認すると、
・④Bは、Cの機能の謎を解明するために、Aに協力を惜しまないこと。
・⑤Bによって、②③④の契約が守られなかった場合、Aは学校関係者にBのAに対する行為を告発する。
と、書かれてあった。
今更ながらに、小嶋夏海の用意周到さを再確認したオレは、深いため息をついて、「わかったよ……」とだけ返答すると、手を付けずにいたうどんを一口すする。
健全なる男子高校生なら、好意を持っている女子から、「夏休みには、毎日のように会いたい」などと言われた日には、今日の康之や哲夫のように浮かれた気分にもなるだろうがーーーーーー。
残念ながら、小嶋夏海という人間の本性を知ってしまった今となっては、ただただ、迷惑この上ない気持ちになるだけである。
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