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 結婚の直前、母親が酒を飲んだ勢いで、相手の両親に電話を掛けた。



 「あなた方のところの息子は、義理の母にあたる私に対して、娘の近況や今後の生活についての連絡を何も寄越さないのはどういった了見なのか。娘を大切にする気がないなら、こちらにも考えがある」


 娘は婚約相手の親から食事や旅行に何度も連れて行ってもらっており、非常に手厚く優遇されていた。にも関わらず、自分の母親がそう言っていると相談を受け、激怒した。


 すぐに母親に電話をかけるも、元々の癇癪持ちに酒の酔いが加わってまともな問答も出来ず、娘は二度と婚約相手に電話を掛けないよう母親にきつく言いつけて一方的に電話を切った。母親からは数分置きに「私が至らないのが悪いんでしょう」という旨のメッセ―ジが届いていたが、全て無視した。


 婚約相手に電話で何度も謝罪し、結婚の解消についても提案したが、彼は優しく受け入れてくれた。


 電話を切り、私は泣いた。声を出して一人でわんわん泣いた。



 ずっと俯瞰で見てきた世界で、私はこの時、初めて当事者になった。

 色んな感情が押し寄せて、俯瞰で自分を見ることが出来なくなった。



 私は一生幸せになれないのだと、この時、確信した。


 この親が生きている限り、私の幸せは壊され、この親が死んでも、それらが修復することは無い。


 毒を持つ親から産まれた子供の体には、親の毒が染み付いているのだ。


 毒蛾の子供は、蝶にはなれない。



 私は、毒蛾の繭なのだ。

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