【10000PV突破!】家ではやたらとデレてくる彼女も学校ではツンデレない
赤羽 瑠
第一章 ツンデレない彼女
プロローグ
「私と付き合ってください!」
誰しもがそんな言葉から始まると思っていた。俺も例外ではなく始まるならその言葉だと思っていた……そう、思い込んでいた。それが恋愛であり交際関係というものだと。
そこから始まり、長き時を経て互いの生きてきた道を知り、理解する。その先にあるのは決別もしくは誓い。後者であればその誓いこそ、交際の理由であり意味であり、人間の本能だという事を解する。
なんて思っていた日もありました。
───あの日までは。
○
桜が散り始めた新学期、学年が変わりクラス替えという一年においての充実感を左右するとも言える最大イベントを無事に終え、落ち着きを取り戻してきた頃、昼休みを迎えた教室はその仕様へと変化していた。
「───おい、また睨まれてるぞ、
「気のせいだろ。誰かに見られてるとか自意識過剰だし世の中思っているより自分の事なんて見てないから……自分も含めて」
「俺が気まずいから聞いてんの。自意識じゃなくて他意識な? これ」
俺の後ろから感じる視線を気にしつつそう言ってくるのは、俺の友達第一号であり最後尾の
「ならお前が見られてるんじゃないのか? 毎回昼休みになってそわそわするのやめてもらえる? 俺はお弁当を落ち着いて食べたい派なんだよ」
「誰でもそうだろ───でもそれはない。俺が一人でいるときはこんな刺すような視線はどこからも感じないからな。何したのか知らんけど確実に柊真だろ」
「もし仮にそうだとするなら何用だよ」
「しらね。それは自分で聞けよ」
「それそのまま返すよ」
気にしているのはそっちだろう。
とはいえ、このあからさまな視線はさすがに俺でも気が付く。けど特にこれと言って何かされてるってわけでもないから無視しているというわけだ。
「嫌に決まってるだろ……ツンデレない女子で有名なあの
春日夏蝶。それがここ最近になって俺のことを鬼のような形相で昼休みの度に見てくるらしい女子だ。通称、ツンデレない女子。語源はあの冷たい態度からいつしかそう呼ばれるようになったと聞く。ツンデレないとは、ツンデレの半否定語。前者を肯定し、後者を否定する。つまり、ツンデレないとはツンではあるがデレない人。すなわちただのツン女子ということになる。
なお、高校二年になった俺とは昨年に続き同じクラス。特別関わり合いはなく、ただのクラスメイトとして認知して、されていると思う。
「なら、交代するか。場所」
「え?」
「ほらこっち」
俺たちは席を交代した。つまり、俺から見て俊太と春日さんが同時に映るということだ。
「……ど、どう? まだ見てるよな?」
「ん~」
と言われても下手に目が合ったりしてエンカウントするのはごめんだ。
「………」
視線を感じなくなったのは俺たちが動きを見せたから一度目を離したってところだろうか。恐る恐る覗いてみると頬杖をついて一人で外を眺めている春日さんの姿があった。
「見られてないな。やっぱり俊太なんじゃないか?」
「そう、なのかな……いや、でもそんなことあるか?」
「試しに話しかけてみれば? もしかしたら目が合うかもって見てたかもしれないし」
「そうかなぁ~」
完全に鼻の下伸ばしてる。
「さ、ほら───」
「ちょ!……ったよ。行ってくる」
やぶさかではなさそうに、席を立った俊太がなぜか机の迷路を遠回りしてを進んでいき、春日さんがいる窓際の席に辿り着いた。
「………」
しばらくして帰って来るな否や机にうつぶせて、一向に顔を上げる気配がない。
「なに? どうした?」
「………」
「おーい」
「………」
これはどうしたものか。もしかして何か言われたとかか?
「生きてるか~?」
「…………」
「これは……しかばねか、返事ないし」
「まだ骨にはなってねーよ」
「おはよ」
「はぁ~ただいま」
やっと起きた。顔は特にやさぐれていない。嫌なことをされたとかではなさそうだな。とはいえ、元気の
「どうした?」
「えっと、知らないらしい」
「よかったな、見られてないみたいで」
「違う」
「違う?」
「ああ。俺のことを知らなかった『あなたみたいなイモ男なんて私が知っていると思う?』だと」
「ツンデレなんじゃないのか? ほら、見てるのばれた言い訳的な?」
「バカ言え、春日はツンデレない、それにツンデレってのは赤面するものなんだよ! なんだあの冷たい顔は」
なるほど。となると見てたのはやっぱ俺になるのか。薄々気づいてはいたけど示されるとそれはそれで気になるな。余計なことするなと言われるならまだしも、睨まれるようなことをした記憶はない。
「それは災難だったな。これやるから元気出せって」
俺は自作のお弁当の中から一つを厳選して俊太にあげた。
「おぉ! メンチカツじゃん。柊真のメンチはなぜか上手いんだよなぁ~」
「それはどうも」
「れも、おまれすおいおな~」
「食べ終わってから話せ」
すると俊太は口に入れたメンチカツを何度か噛んだ後で、んっと喉を鳴らして話題を戻してきた。
「お前すごいよな~。毎日弁当作るなんて」
「まぁ、そうするしかないからな」
「……悪ぃ」
「いいよ、今更だろ」
「確かに」
俊太が失言とばかりに謝って来たのには理由がある、それは俺には親がいないという事だ。いや、いないというのは少し語弊があるな。同じ家に住んでいないということであって、死に別れたとか、捨てられたとか特別ひどい扱いを受けてきたという訳ではない。いつか親の転勤で引っ越すことになった時、俺は一人で大丈夫だからここにいさせてほしいと頼んだところ、二つ返事で承諾してくれた。もともと仕事マニアだった両親からすると邪念がなくなったとでも言うべきなのだろう。それでも幼い頃から愛情を貰って生きてきたからこうして道を踏み外さないで生きていける。今でも、生活費はバイトだけでは難しいだろうと俺を心配して毎月お金が振り込まれてくるが、できるだけそのお金は使わないように上手いことやりくりしている。
「ま、そういうのを含めて柊真はすごいよ」
「そんなに褒めてもメンチは出ないぞ?」
「あぁ~まじか~」
「お弁当のメンチもなくなったし、誰かさんにメンチも切られてるみたいだし」
さて、こんなことをしている間にもまた視線を感じるようになってしまった。むしろこっちから返してみるか。と思い、お弁当を片付けた後、俺は俊太の横からひょいっと顔を出してみた。すると当然こちらを見ている春日さんとは目が合う訳で、冷たい視線を送られてくるかと思いきや。
「───っ!?」
一瞬、驚いたような表情をしてすぐさまそっぽを向いた。
「なんだあれ……」
「ん?どうした?」
「いや、なんでもない」
ほんとになんだ?用があるなら春日さんの性格上すぐに言ってくると思うんだけど。
それから悩むのをやめ、程なくした頃。
「───次の授業何だっけ?」
昼休みも終わり際、そんな声があちこちに響き渡る。一番近くで聞こえたのは女子の声だ。
「次? えっとね」
二人組でいた女子の聞かれた方の女子がスマホの画面を見て何かを確認していた。おそらく時間割を写真に収めているのだろう。
「移動だね、理科室」
理科室か。俺らも早めに移動しておくか。
とまあ、このようにいつもこんな会話をしている人がいるから俺は時間割を忘れることは無い。ありがとう女子高生。
「俊太、そろそろ移動するか」
「おう!」
その後、無事に理科室に辿り着いたのだが、俺は再び教室に向かっていた。授業で必須ともいえる筆箱を忘れたからだ。俊太から借りればいいのだが時間にもまだ余裕があったため時間つぶしとして戻ることにした。
「食後の運動だな、これは」
理科室から教室まではいくつも階段があり、普段から運動したり体を動かす部活に入ってる人じゃなければ多少息が荒くなるほどだ。もちろん俺も呼吸が荒い。
「───あれ、鍵開いてる」
移動教室の際は教室の鍵を閉めるのが基本。クラスメイトがすれ違う様子もなかったから全員移動してるはずだし、担当の人が閉め忘れたのか。
この学校ではそういうルールだから代わりに俺が閉めるかとため息をしながら教室のドアを開けると。
「……え?」
そう驚きを口にしたのは俺じゃない。つまり教室にはまだ人がいた。
「………」
気まずくなるのを避けるために念のため無視して自分の席に向かって必要なものを取りに行った。その間も俺の方を見てなにやら言いたそうな雰囲気を出していた。
移動はしないのかと少し気になることはあったが無事に筆箱を救出できたからそのまま理科室に戻ろうとしたが足を止めた。止められた。
「ちょっと待ちなさいよ。無視とか最低」
「待ったら授業に遅刻するけど? どっちが最低?」
「何それ」
「とりあえず鍵よろしく」
おそらくこうして声を聞いたのは約一年ぶり。入学式直後の自己紹介で聞いた以来だと思う。
毒舌な人はあまりあったことはないけど案外話しやすいもんだな。変に気を遣わなくていいというか。
「あなたがやりなさいよ」
「教室にいたのはそっちでしょ? それとも鍵の閉め方わかんない?」
さすがにそれはないだろう。小中高と学校には鍵があるし、家もまた然り。いくら春日さんが他人とのコミュニケーションをあまりとらず、誰が相手でも冷たくあしらうデリカシーの鍵が外れているからって知らないはずがない。
「………」
数秒の沈黙の後コクリ、と頷いた。皮肉で言ったつもりなのだが。まじかよ……
「そっか、じゃあ鍵は閉めとくから早く行きなよ。遅れるよ?」
「ふんっ!」
お礼も無し……か、まぁこんなものだろう。
そして、春日さんを先に教室から出した後、俺は教室の鍵をもって外に出た。するとそこにはもう春日さんの姿はなかった。
「───話が通じない相手ではなさそうだけど、人に強く当たる理由はいまいち分からないな」
特に理由もないんだろうけど……
直後、授業の予鈴が鳴った。つまり授業開始の二分前ということになる。
「やべ、急ぐか」
鍵がしまったことを確認してから急いで理科室へと移動する。ここからならギリギリで間に合うかもしれない距離。そして階段に続く廊下を曲がりきったところに人の気配があった……ような気がした。急いでたという事もあり気のせいかもしれないがその俺の背中をみて誰かがポツリとつぶやいた。
「ありがとう」
と、艶やかな黒い髪を耳にかけ、風になびかせた彼女は微笑みながらそう言った。
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