「幽霊が見える」と友達に嘘をついた話

豚肉丸

本編

 小学生の頃の同級生なら覚えていると思いますが、あの頃の私って怖いものに憧れていたじゃないですか。処刑動画や死体画像を見たことを自慢したり、自分には霊が見えると嘘をついたり……まあ典型的な痛い小学生で、その頃の思い出は黒歴史と化しているんですが。

 その黒歴史の中の一つ、「霊が見えると嘘をついた」ってことの話なんですが、実はこの話には続きがありまして……この嘘のせいで、私は一生忘れられないような体験を味わう羽目になりました。


 小学校の通学路に交差点があるんですが、その交差点の横断歩道を渡った先に小さな家が建っているんですよ。数年間誰も住んでいなさそうな様子の家です。作られて数十年は経ってるんじゃないかって思うような木造建築で、壁には草などが生い茂っていて、明らかに不気味な雰囲気を醸し出していました。

 信号を待っている時、真正面に向かい合っているような位置にその家があって……必ず窓ガラスが目に入るんです。普通の家にも窓ガラスは当たり前のように張っていますし、それが特段おかしいことではないんですが、家の様子も相まってちょっと不気味でした。

 ほら、心霊番組でよく見るじゃないですか。窓ガラスに幽霊が張り付いている……!ってやつ。それがいつ起きてもおかしくないような、そんな風貌の家でした。


 さて、ある時私は横断歩道で信号が青になるのを待っている時、友達に向かって「あの家に幽霊が見えた!」と言ったんです。多分、『特別』に憧れていたんでしょう。「何か自分も特別になりたい……あっ、そうだ!幽霊が見えるって特別だ!」って考えての行動でした。

 もちろん友達は驚きました。「えっ、どこどこ?」と純粋に信じ込んでくれました。もしかしたら私に合わせてくれただけかもしれませんが。それで私は有頂点になって、本当に幽霊を目撃したかのような口ぶりで話しました。



 小学五年生の夏休み、好奇心から私はその家に入ってみました。本当に幽霊がいるか調べてみよう、と。もし幽霊がいたら友達に自慢できるし、幽霊がいなくても嘘をついて友達に話せばいいし。スタンド・バイ・ミーみたいな夏の冒険だと、青春の一ページだと考えていました。冒険と言っても私の家からその家までおよそ十分程度の距離なんですが。

 入り口にも草が生い茂っていました。私はその草を踏みながら歩き進め、ドアノブを回しました。鍵はかかっていませんでした。ギギギ、と音を鳴らしながらも、ドアは簡単に開いてくれました。


 ドアを開いた瞬間に腐臭が鼻に飛び込んできました。「ここ数年間誰も住んでいなかったから、木が腐ってるのか?」と考えながら鼻をつまんで中に入りました。

 ほこりは舞い散り、木は腐り、蟻が蠢いていました。玄関には藁の草履がありましたが、数年間一度も使ったことが無さそうなくらいにほこりが溜まっていました。

 踏み進める度にミシミシ鳴る床を歩いていると、例の部屋に着いていました。私が「幽霊が見える!」と言った例の部屋です。

 私はあの時、「おじいさんの幽霊が見えた」と友達に言っていました。「おじいさんが窓ガラスに張り付くように立っていて、私たちをじっと見つめていた」と。


 腐乱死体が床に横たわっていました。顔や手足の一部が白骨化しており、身体は黄色く腐り、ウジ虫が身体の中や外から溢れている散々な惨状でした。胃の奥から何かが込み上げてきそうになりましたが、何とか抑えました。

 恐る恐る死体に近づきました。恐怖心よりも、興奮や好奇心の方が勝っていたのです。

 おじいさんの死体でした。少しだけ残っている頭の皮膚には、白髪がちょっとだけ残されていました。

 私はポケットから携帯を取り出すと、警察に電話をかけました。警察に電話をかけることなんて初めてだったので緊張しましたが、それどころではありませんでしたから。



 結局、おじいさんは孤独死として処理されました。警察にはあの家に入った理由は「近くを通りかかった時に異臭がして」と答えました。「幽霊がいるかなと気になったから」とは絶対に言えませんでした。

 この話は友達には話していません。話のネタにするにはあまりにも不謹慎すぎますし、「本物の死体を発見した」ことを笑い話にもできませんし。幽霊程度だったらまだ笑い話にもできるんですけどね。


 この一件以来、幽霊に呪われたとか怪奇現象が起きた……って事案は特にありません。私は今もこうして元気に生きています。

 今でもたまに思い返します。私が友達に「幽霊が見えた」と言っていなければ、おじいさんの死体は発見されていなかったでしょう。もし発見されたとしても、さらに腐乱が進んでいた頃になっていたでしょう。

偶然と言うには少し出来すぎているように感じます。私は実際に幽霊を見たわけではありませんが、もしかすると本当に幽霊がいたのかもしれません。私が発した出鱈目は、案外出鱈目でも無かったり……と、そういうことを今でも考えるのです。


 結局、本当に幽霊は存在したのでしょうか。


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