己の運命を恨んだ
どこか微妙な距離感と会話の僕達はパフェを食べに行くことにした。本当は巨大パフェ5,000円くらいする店へ行くつもりが、近場の店に変わってしまった。
理由は僕が少し体調が悪く、遠出する気力が無いからだ。
チョコバナナパフェと抹茶パフェが運ばれてくる。
僕は愛想ばかりにちびちびとスプーンの隅で少しだけすくっていた。
「あれ?もしかして、ひろ甘いの苦手?!」
「たしかに……こんな改まって甘いの食べたことないな」
「いらないの?こっちは?」
「あまっ」
「抹茶はあんまり甘くないよ」
どんどん底までパフェを減らす帆乃花を見てるだけで満足だった。
「おいしい?」
「うん」
「やっぱ似合うね。帆乃花にはパフェが似合う」
「パフェが似合うって褒め言葉?」
「うん。パフェが似合うのは可愛いい人だけ」
「へえ」
少しだけ頬を赤らめる帆乃花。きっと長い間可愛いなんて言われることも無かったんだろうな……。でも本当に君は可愛い。世界で一番可愛いよ。
帆乃花が食べ終わり水を飲む。
「ひろ、しんどいの?なんだか……変だよ」
さっきから吐き気が止まらない。
「ごめん……ちょっと体調悪くて」
「……大丈夫?帰ろ」
「うん」
特別感なくパフェを食べに行く計画は幕を閉じる。申し訳なくて、なんとか取り繕いたいのに余裕がない……僕には帆乃花を気にかける余裕が無い。
僕のマンションまで一緒に帰った帆乃花は玄関先で靴を脱がない。
「じゃ 寝てね 薬のむ?」と不安げにこちらを見る。
僕は壁に手をついたまま、小さく呟いた。
「……もうちょっと居て」
何を言ってるんだろう。具合の悪さが酷くなればより心配させるのに、僕はこのまま会えなくなったらどうしようかと僕の視界から、僕の世界から君が見えなくなるのが怖かった。
「分かった」
薬を飲み、ベッドに横になる。
帆乃花は洗濯を畳んだりしてくれていた。
「……帆乃花」
「ん?」
「ありがとう」
「気にしないで。少ないね 洗濯物」
「ありがとう……僕に出逢ってくれて」
「え?」
多分僕のボソッとした声ははっきり届かなかっただろう。
「ひろ?大丈夫?」
「うん」
帆乃花はベッドの横に膝を立て僕を見守る。
「入って」
僕は帆乃花を呼ぶ。戸惑いながらも、静かにベッドに入る帆乃花。
「大丈夫?まだ痛い?」
僕の頭をゆっくり包むように手を添える。
「ひろ……優しい顔になったね」
「……そう?前は優しくなかったんだ……?」
「いつも優しいよ。でもこんなに穏やかだったかな」
「……もう、十代じゃないからね」
僕のすぐ目の前の顔が穏やかに笑った。
この布団の中は僕の楽園だった。
穏やかな楽園に咲く花のような笑顔に僕はそっと鼻を近づけた。逃げない鼻を感じてキスをした。眠ってないからバレバレのキスをした。
頭痛と薬で朦朧とする中、帆乃花をぎゅっと抱きしめて眠った。
◇
スマホがなる。起きると帆乃花はもう帰ったようで外も暗い、もう夜。
『もしもし 兄さん』
『あ
『うん。どう?頭は』
『ああ、けっこう頻繁にくる 頭痛と吐き気』
『意識障害は?』
『……ないと思う』
『明日、迎えに行くから』
『え?』
『見つかったんだ。手術できそうなドクター。紹介状とってすぐ検査』
『……手術』
弟は医大に進んだ。今はまだ学生だが僕の為にずっと走り回ってくれていた。でも、実際に診たら出来ませんって言われるだろう。
『そのまま入院とかなる?もしかして』
『たぶん』
『分かった……ありがとう』
僕は、入院準備と最期の準備をする。
準備していた帆乃花への贈り物を完成させることにした。
「はあ……もう一回会いたかった……」
リビングのテーブルに綺麗に切られたリンゴとお粥にラップをしてある。
ひろへ
起きたら食べてね。パフェで胃もたれしたかな?
頭痛は大丈夫かな。
今日はありがとう。ちゅーしてくれて♡
可愛い置き手紙があった。
今からもう一度会いたい……。
「くそ……なんなんだよ……この頭は……なんなんだよ」
僕は己の運命を恨んだ。
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