高校時代の君と僕
君との出会い
「あれ なにしてんの?」
僕は終電過ぎた駅のバスターミナルで通学でよく見る他校の女子を見つけた。話したこともない。かといって、こんな時間に無防備にベンチに座る女子高生を無視もできない。その子はどんな子か、純粋無垢な女子高生に見える。かなり可愛い部類に入るだろう。と言うことはやっぱり放置するのは気が引ける。
万が一おかしな不良に、絡まれたら?
万が一おかしなおじさんに連れて行かれたら?
万が一酔っ払いになんかされたら?
だから、僕は声をかけた。
返事がないからもう一度声をかける。
「あのさ 迎えに来るの?親とか、塾の帰り?」
「家から出てきたの」
「ふうん……え?」
彼女の行き場の無い鬱憤に蓋をしたような憂いを含んだ目は、出したり引っ込めたりするローファーのつま先をただ追っていた。
「あのさ、バス待っててももう来ないよ」
「うん 知ってる。」
「ずっといる気?」
「そう言う君は?何してるのこんな夜に」
「こんな夜にぽつんといる子と一緒かな 多分」
僕は原付だった。彼女を乗せて家まで送ろうかと考えたが、家から出てきたのをまた戻すのは残酷な選択だ。
それに、僕は原付の後ろに女の子は乗せないポリシーがある。まあそもそも原付ニケツは違反だけど。
「じゃあさ、あっちに行こう」
「……あっちって?」
僕が何処かに連れ込んでなんかするとでも思ったのか、警戒したような目つきでこちらを見上げる。
「ずっとバス停居るつもり?ここ目立つよ。何もしないし。僕そんなに何かしそうかな……?電話、ブンブン言ってるけど放置して大丈夫なの?」
「…………うん」
何に対してのうんか分からないが膝に乗った携帯を手に持って彼女は立ち上がった。
僕らは駅の駐車場の下にある無機質なコンクリートの場所へ行く。
冷たいベンチにただ移動しただけ。
何にもない空間。それが僕らにはピッタリだった気がした。
初夏とはいえ肌寒い夜。
制服のブレザーを名前も知らない子に震えながら与える義理はない。
僕の隣にいる家出人は制服のスカートから見える膝上に鳥肌全開で震えていた。
「寒い?」
「……寒い」
上着を脱ごうとしては見たがやっぱり恐ろしく寒い気がする。
「やっぱ寒すぎだわ。上着貸せないからさ、僕ごと上着付きで温めてあげようか?」
「やっぱりそういう事言う人なんだ。いいよ、帰って。適当に時間潰すし。おかまいなく。」
「なんだ、朝はニコニコ楽しそうに楽しくも無いのに笑顔振りまいてさ、今は随分ときついね」
そうだ。僕は通学の電車でいつもこの子に目が行った。可愛いからだけじゃ無い、無理して笑ってる感を軽蔑したからかもしれない。
しかし、今僕は彼女からすればストーカーもどきな発言をした事となった。
「君こそ、朝はだるそうにその長めの前髪払って自分だけ世の中の全て分かったみたいな顔してるし。それで僕っていうなんて、なんか怖い」
彼女が僕を認識していたんだ……怖い?ってなんだよ。
「僕ってダメなの?ま、いっか。」
こっぱずかしさと気まずさと夜のテンションがかけ合わさり僕は滅多に振りまかないはずの笑顔を向けていたみたいだ。
「笑ったの初めてみた」
「そう?そりゃあ電車で一人で笑わないし。どう、可愛だろ?」
「……ふ」
彼女は視線を僕から逸らしてふっと思い出し笑いみたいにふいた。
「名前は?僕は佐々木」
「なんか違う。」
「は?」
「……佐々木って今聞きたくなかった。」
何を言い出すんだろうか……人の名字を否定するなど。まあきっと何かあっての夜なら大目に見よう。
「
「じゃ、ひろ?または、ふーみん?」
「…………」
「私は
ほのか……名前を聞いてなんだか謎が溶けたような気分になった。何一つ謎めいてなど無いのに、彼女の固有名詞を聞いてしっくり来た。そうか、だから帆乃花は佐々木を聞きたくなかったんだ。
「な、帆乃花ちゃん、家出人からアドバイス。」
「帆乃花ちゃんてなんか怖いよ。ナンパ野郎みたい」
「なに……いちいち注文が多いなあ。帆乃花、あのさ、家には帰ろう。夜遊びは良くても家に帰らないのは駄目だよ」
自分で言って驚いた。夜遊び満開の自分が言うのは間違っている。だけど、帆乃花は帰るべきだと思った。僕の住む世界とは違う場所に居る人間に見えたからだ。
「じゃあ、今日だけ……今日は帰らない」
「連絡だけ入れたら?警察沙汰なるよ」
「……うん」
「それからさ、寒いんだけど」
「……うん」
僕は帆乃花が親に連絡してる間、自販機であったか〜いお茶とコーンスープを買った。
「あ、自販機あったんだ。」
財布を出す帆乃花。案外いや、やっぱり律儀なのか朝の彼女が垣間見える。
「ほら、どっち?いらないしお金。」
帆乃花はコーンスープを取った。
「ああ、でもスープの後やっぱりお茶飲みたくなりそう〜おしるこもあるの知ってた?ここの自販機。誰買うんだろうね」
ごちゃごちゃ言って迷ってる彼女の隣で僕はお茶に口をつけた。いちごミルクも売ってたことは胸の奥にしまった。
朝方まで目がしょぼしょぼしながらも適当な話をし続け、結局寄り添うように僕は帆乃花の肩を温めるように摩っていた。
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