ケース3 殺人罪
【ケース3】
被告人 郷原 才地
性別 男
年齢 29歳
職業 会社員
罪状 殺人罪
犯行日 2073年10月29日
〈聴取記録〉2073年10月29日未明、警察に通報あり。通報者は郷原と名乗り「人殺したけど死体ジャマだから警察で処分して」と電話越しに発言。ただちに警察が出動。被告人が住むマンションの一室で流血し倒れている男性を発見。その場で死亡が確認された。
検死の結果、全身の打撲痕が認められ死因は頭部外傷。警察が駆けつけた時、被告人は同じ部屋にいた。任意同行のちに逮捕となる。
通報のとおり、取調べでも堂々と自白。動機については「気に食わない同僚だった。最初は俺の方がダントツで成績が良かったのに、最近アイツに抜かれた。しかも最初はデブだったくせにダイエットしやがって。腹が立ったから仲良くするフリして家に呼んで気がすむまで殴ったら死んだ」と述べた。悪びれる様子は一切なかった。
被告人は小学生時代から成績優秀。飛び級制度があれば、すぐに認められるだろうと言われるほどだった。しかし人間関係については度々問題を起こす。上級生の靴に画鋲をいれる、下級生のみぞおちを殴る、同級生を罵る等。これらは被告人自身の証言である。「中学ん時クラスに超デブな奴いたなぁ。確か、前田とかなんとか? まあ多少殴ったかもしんないけど覚えてねーや。あ、証拠は残さないようにしたし、先生は俺のこと信頼してたからバレなかった」と笑いながら発言。
当時の教師数人にも聴取を行ったが「言うことをよく聞き頭も良かった。常にニコニコしていていい子だった」と語り、被告人が証言した行動については「全く知らない」と言う。
〈裁判記録〉2073年12月1日初公判。開廷されると同時に被告人は真っ先に「軽犯罪法、軽犯罪法」と要求。「減量したら無罪になるんだから裁判やる必要なくね?」と発言。申請を拒否できない裁判所は協議を開始。被告人の現在の体重は64.5キログラム。指示体重はマイナス30キログラムの「34.5キログラム」と言い渡された。
指示体重は裁判官及び裁判員の示す数字の平均値となる。なかにはマイナス40キログラムと示す者もいた。
被告人はその場で不服を申し立てたが認められず。声を荒らげたため退廷を命じられた。
〈調査記録〉2074年1月1日第二回公判。被告人は出廷しなかった。被告人は食事はおろか水も飲まない生活を送った結果、第二回公判を迎える前に死亡した。
被告人の部屋は玄関扉が頑丈に閉ざされており、破壊しての調査となった。食料はひとつも無く、キッチン、浴室、洗面所、トイレ等、水が得られる部分は全て工具を使用し塞がれていた。外に通じる部分も雨水を飲まないためか封鎖の細工が施されていた。被告人は部屋の真ん中に倒れており、その場で死亡を確認。事件性は無し。
調査の結果、すべて被告人自身が行った事であった。しかし部屋内部から破壊しようとした形跡も残っており、被告人自身が飢えに耐えられなかった様子が窺える。衰弱した身体で破壊することは極めて困難。脱出は失敗に終わり餓死したと結論づけられた。
被疑者死亡のまま書類送検。記録は以上とする。
了
軽犯罪法 麦野 夕陽 @mugino
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