Memory Library
九戸政景
プロローグ
天井まで届きそうな程に高い本棚とそこに収まった多くの本、そして幾つかの机と椅子や高所にある本を取る脚立が壁際にあるだけの図書館。
そんな図書館の中で一人の女性が本を手に歩いていたその時、不意に図書館の扉がゆっくりと開くと、女性は扉の向こうにいた人物に少し驚いた後、すぐに微笑みかける。
「ようこそ。久しぶりの来館者なので少し驚いてしまいましたが、どうぞごゆっくり」
来館者は少し警戒した様子で頷いた後、ゆっくりと図書館の中へと入り、キョロキョロと辺りを見回す。その様子に女性はクスッと笑い、静かに口を開いた。
「どうやらこの図書館には偶然いらっしゃったようですね。よろしければご説明を致しますが、いかが致しますか?」
女性の問いかけに対して来館者が頷くと、女性はコクンと頷いてから話を始めた。
「この図書館は『
人生について書かれているといっても伝記などではありません。伝記は様々な功績を残された方の性格や業績などを記した物ですが、ここにあるのは無限に存在する世界の中で生きてきた様々な方の人生そのもの。簡単に言うならば、その方の生誕から死去までに起きた全ての出来事について書かれた本なのです」
女性の言葉に来館者が首を傾げる中、女性は手に持っていた中から一冊の本を抜き出すと、それを来館者に差し出す。
「百聞は一見に如かず。まずはこちらを読んでみて下さい。きっとあなたもすぐにここにある本に対して興味を持ち、次々と読みたくなってくると思いますよ」
来館者は少し戸惑いながらも本を受け取った。見ると、本の表紙にはタイトルは無かったが、優しそうな笑みを浮かべる若い男性の姿が描かれており、その人物は少なくとも来館者にとって馴染みの無い人物だった。
「この本の表紙にはその方の全盛期の姿が描かれます。なので、この方にとってはこの頃が一番良かったという事になりますね」
来館者が納得した様子で頷くと、女性はにこりと笑いながら中心にある机と椅子を手で指し示す。
「では、どうぞごゆっくり。もしも何かご質問があれば遠慮無く申してくださいね」
それに対して来館者が頷くと、女性はそのままその場を立ち去り、来館者は椅子に近づいた。そして静かに座ると、少し緊張した面持ちで本の表紙に手をかけ、ゆっくりと本を開いた。
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