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「しかし、長い戦いだったな。二分が六回あっただけだし、実際に戦った時間は、十二分しか経ってないはずなのにな」

「多分、あの途中のワンマンライブが長かったんだと思うけど……」

 あの熱い戦い、だったかどうかはともかくとしてモグラ叩き一回戦から開けて朝になっていた。

 登校時、家の前では過奈が待っていてくれていた。

「しかし、あの後……なんで相手のスコアがゼロになったんだ?」

 四万十さんとのモグラ叩きは、0対1で私の勝ちになった。

「ああ、浄化の力は遡及するんだよ。だから、あの口臭によるモグラへのダメージも過去に遡って無効になったの」

「へぇ……」

 意味が分からんと言いたげな表情だった。

「向こうからは感謝されてたし勝ったし、まあ良いんだろうなあ」

「そうだね、向こうの部長、北川さんも丁寧にお礼してくれてたよね」

 その割に、家に帰ったら「南海女子のミトンとかいうやつはデブ」っていうスレが立ってたんだけど。

「私ってもしかして太ってる?」

「しかし、あのスティック誰のだったんだろうな」

「明らかに話題そらしたよね」

「太ってるか太ってないかは、客観視してきめる問題だからな」

「いやだから、その客観視を聞いてるんだけど……」

 過奈がこちらをチラリとみたが、何も言わなかった。だけど目を大きく開いて「あはは……」と乾いた声で笑っている彼女は、答えているも同然だった。

「そんなの、あの衣装になった時の、たるみきった腹を見れば分かるんですけどー!」

 目の前には流星群(メテオ・シャワー)の大川さんが、腕を組んで立っていた。

「死ね、ミトンのたるみきった腹に挟まれて死ね」

「ちょっと、私の腹がたるみきっている前提で話をすすめるのはやめてよ」自分のおなかをさする。「やっぱ、夜中にカレーうどん食べる習慣やめたほうがいいかな?」

「どうでもいいんですけどー!」

 大川さんが近づいてきた。

「まあ、あんた達に一応、青がどうなったか言っておこうかと思ってきてやったわけよ」

「青? ああ、四万十青か、すさまじい口臭はマシにはなったのか?」

「あれ以降さっぱりなんですけどー、だから、いつ口臭がすさまじくなるか分からないでしょ、だからモグラ叩き部が引き取ることにしたみたいなんですけどー」

「そのまま、密室で口臭が復活して死ね」

 相変わらず過奈は、大川さんに死んでほしいというスタイルは変わらないらしい。

「でも、モグラ叩き部に入れたんですね、よかったですね」

「べ、別に、来年以降人が少なくなるし、仕方がないだけなんですけどー!」

「なんだよそのテンプレツンデレ、バリエーションの少なさを悔いながら死ね」

「しかし、あんた達、次の対戦高校、分かってるの?」大川さんが鼻をならせた。「個人高知最強、悪循環(ワーキング・プワー)の奈半利礼(なはりれい)いる、土塾高校に勝てると思ってるわけー?」

「勝手に複線張らせるか、死ね」

「もう会話にならないんですけどー!」

 怒りながら帰ってしまった。いちいち、四万十さんの現状を伝えに現れてくれるあたり、きっと彼女なりに気を使ったのだろうけど、過奈には無意味だった。

 小学生の頃から、サンタさんからのクリスマスプレゼントも「サンタさんってろくなもんくれないね」と言いながら、次の日にゴミ箱に捨てるような奴である。

「大川さんのこと嫌いなの?」

「デブンは、あいつのこと好きなのか?」

「うーん、どうだろう……ん、今デブって言わなかった?」

「言ってない」

 嘘つけよ、と言おうとして、目の前に魔法陣が現れる。思わず身構える。

「わぁ、なんだこれ!」

 地面に急に現れた地面からは、手が伸びてきた。こんなこと出来る知り合いは、一人しかいない。

「あれ、先輩何してるんですか?」

「誰だこいつ」

 魔法陣から這い上がってきたのは、魔法少女部の先輩だった。

「すみみ先輩!」

「ふぇぇ……」

 彼女の名前は、仁淀川すみみ、という変な名前。まあミトンとかいう変な名前の私がいえることではないけれども。

「もしかして、魔法少女部の先輩か?」

「そだけど、違うんです!」

 容姿は少し鮎先輩に似ているけれども、中身はまったく異なり、なんというか弱々しい。

「魔法少女部がなくなっちゃったんだって!」

「えぇ!?」

「部長から電話があってね、魔法少女としての活動は部はなくなっちゃうんだって」

「よかったじゃん、これでモグラ叩き部に入れるな」

 過奈がさらりと言うと、すみみ先輩がふぇぇーと泣き出してしまった。

 確かに、魔法少女部が無くなれば、モグラ叩き部に入れない理由は無くなるけど……

「寂しくなるよー、ただでさえ、友達少ないのにー」

「じゃあ、先輩も一緒に入れよ」

「へ?」

 すみみ先輩がくるりと回った。きらきらと、その周辺がきらめいた。魔法の効果だろうか。

「ほ、本当に私も入っていいのかな?」

「いいんじゃないですかね……」

「やったー!」

 そういうと、魔法陣に入ってどこか行ってしまった。まあ魔法陣だせるくらいだし、モグラ叩きも簡単に出来そうな気がするけど。

「でも、そっちは姉、どうなったの?」

「それが鈴姉、よくわからないんだよ。急に部活、好きにしてもいいとか言い出すし」

「なあ、もしかして、昨日のスティックって……」

「え?」

「いや、なんでもないわ」

 過奈が首を振った。

 モグラ叩き部か……

 紆余曲折あったけど結局入ることになったモグラ叩き部。見上げると私の未来を暗示するように、青空が広がっていた。

「うわ、すごい早さで曇りだした」急いで過奈が傘を取り出す。「というか雨まで振ってきたじゃねーか、やばいな、急ぐぞ」

「えぇ……」

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