第7話

「確かにあれは主人公が労働者で、労働によって報われると言う社会主義に沿ったストーリーだ。」


 「だがちょっとルサンチマンが入ってないか?この国の労働者が観たら嫌味に聞こえるだろう。」


 「…… 僕も労働者ですよ。やはり両立は難しいですね。」




 「もっとこう…… 時代に合った現実味のある物がいいな。」


 だがこの提案で物語を浮かべるのは難しい事くらい、自分でも分かっていた。 それに当初想定していた冒険活劇というのも一旦取り下げよう。




 「この国で誇れる物は何ですかね。」


 「ああ、この前メーカーに卸した戦闘機のPVは素晴らしい出来だったよ。まさに我が国が誇る傑作品と言えよう。」


 「戦闘機乗り…… うーん、例の海軍パイロット映画とネタが被るな。」


 私はセルゲイが上げていた映画を思い出した。




 「他の物と言えば戦車、軍艦、潜水艦、核ミサイル。」


 「あとウォッカ。」




 「…… 物騒な物ばかりですね。」


 「潜水艦なら、名作SF冒険小説があるぞ。既に向こうで実写映画化されてるがな。」


 「アニメならモロ被りはしないんじゃないですか?キャラクターやストーリーも改変すれば良いですし。」




 「一つの案としては残して置くけど、もっと全年齢に分かりやすい物があれば、例えば偉業みたいな。」


 「偉業?」


 「大会で優勝するとか、敵に打ち勝つとか。」


 「民主主義に勝利する共産主義か。今しがた差は開くばかりだが。」




 「ああ、あれがあった。何で思いつかなかったんだろう。」


 「また何かいいアイデアが浮かんだのかい?セルゲイ君。」


 「宇宙ですよ。」




 「宇宙競争では我が国が先行してると言われてたな。改革後の情報開示では、失敗も多数あったとポクロフスキー氏の所の新聞で見たが。」


 「ただし人類史上初の有人宇宙飛行を成し遂げた成果に嘘偽りはありません。」




  「実話ベースにするなら、開発から打ち上げまでの技術者やパイロットに傾注したストーリーだが。」


 「それでウケるのは一部の宇宙オタクくらいですかね。大多数の人間は宇宙空間での冒険や活躍が見たい筈です。」


 「所謂スペースオペラって奴だな。それも現実の世界観がベースのSF寄りの。」 




 「実在した人物をフィクションに出すのはどうなんだ実際。」


 「そこは名前だけ引用して別のキャラにするとか。」


 「動物に?」




 「いや、人間が宇宙に行く前に動物を打ち上げて実験したという話を聞いた事があるぞ。」


 「犬ですね。確か名前は…… ライカ。なんでも打ち上げて地球に戻って来た時には死んでいたとか。なんとも残酷な話ですね。」




 ここで私はアイデアを思い付いた。


 「実はライカは死んでなくて、極秘で宇宙の探索を続けているという話にしよう。」


 「なんか子供っぽいですけど、ここからスペオペに繋げる導入としては良いんじゃないですか?」


 「問題はどう話を展開させていくかだ。」




 「前に人類が始めて月面着陸して撮った写真が偽物だって都市伝説あったじゃないですか。」


 「ああ、テレビで専門家達が真面目に検証してるのを見たよ。宇宙には風が無いはずなのに国旗がはためいてるだとか。」




 「実は人類は月に行った事が無くて、ライカが月に行ったという事にしましょう。そして月には文明があって、その世界を冒険すると言う事で。」


 「なんともまぁ、ありきたりな話だがそこは脚本家の見せ所と言う事で。」




 「宇宙物の話は実際経験はありませんね。でも宇宙開発競争が熾烈になってた時代は、宇宙物の映画はよく出てましたね。」


 「特にスペオペは2大派閥があってお互いのファンボーイが衝突し合ってるとかな。」




 「他には宇宙人が地球にやってくる物とか。」


 「似たようなテーマの映画を2本撮った監督は、二本とも映画賞に受賞したようだ。あの規模のセットはとてもじゃないがウチらじゃ真似出来ない代物で、歯痒い思いをしながら観てたよ。」




 「あの、自転車に乗って空飛んだりする奴ですか?」


 「ああ、あのブヨブヨでしわくちゃな造形なのに妙に愛らしいと言うか何というか。」


 「ずっと子供の視点から映すので親近感が湧くんですかね。あの映画だと大人の方がよっぽど邪悪に見えますから。」




 「構想の話に戻ると。例えば月の文明側の中で味方の様な存在が居れば。未知の世界の孤独感とのギャップで、親近感が湧くキャラクターになるだろう。出来れば子供の方がより良い。」




 「ジュブナイルですか。キャラクターが年齢を感じさせ難い動物キャラなら行けるかも知れませんね。」




 「…………… ん、?」


 どうやら私は二人の会話を聞いている内に寝てしまったようである、しかし二人は気にも止めず話を続けていた。


 眠い目を擦りつつ窓の外を見たら今回も辺りは暗くなっていた。




 「話はまとまったかい?セルゲイ君。」


 「起きてたんですか。まぁ概ね方向性は決まりましたよ、あとはキャラの性格、特徴とプロット作ってデザインの決定ですかね。」


 「流石私が見込んだクリエイターだ、この調子でよろしく頼むよ。」


 「…… ええそうですね。」




 なんだかんだプロジェクトは軌道に乗りつつあり、このまま順調に進んでいくとそこはかとなく考えていた。

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