幕間59-ノートパソコン?とこれからの私達

「紙綴さん、魔力チャージとかは良いのかな?」

 紙綴さんから離れた紙さん達が異世界(元私が居た世界)に渡ってから少ししてから。


 そう言えば、と思って尋ねてみた。


 訊いたあとで、しまった、言い方を間違えた、と思ったのだけれど。


『チャージ。充電ですか。こちらだと魔力補充、となりますな。お心遣い恐縮に存じますが、この空間が既に魔力補充が可能な空間となってございます』

 ……通じた。


 紙綴さんはあちらの情報にも詳しそうだな。やっぱり、狸さんとかと遣り取りをしているからなのかな?


「そうかあ、確かにめちゃくちゃ清浄?涼やか?だもんね。……じゃあ質問。あちらのまといなニッケル君にお手紙が着いたかは確認出来るの?」

「はい、それはこちらに」


 大書店の支配人さんが示したのは、元は私のものだったノートパソコン。


「確か、データベースとか作って在庫管理なんかに活用してくれてるんだよね?」

「はい。心強い仲間です。事務作業以外にも……。ああ、届きました。ご覧下さい」


 ……え。

『株式会社カンナワ、文書受取についてのご報告』

 私も似たような遣り取りをしたよ、あちらでたくさん! 特に企業さんとの文書で!


「うそ、これ、添付ファイル?」

 信じられない!

「あちらの様式そのままではございませんが」


 開いてもらうと、そこには、かなりの分量の文字が。これ、Wi-Fiとかじゃないよね。やっぱり基地局みたいな空間を形成してるの?


 とりあえず、読んで良いんだよね? 

 私が普通に使っていた日本語だ。ビジネス文書っぽいけど。

 あ、最後の方はニッケル君からだ。まとい殿の手紙? 紙の蝶さん?

 とにかく、ちゃんと読んでくれたんだ! 嬉しいな。


 え、ちょっと待って。ニッケル君、チュン右衛門さんのこと……? 

 おめでとう! なんだけど、大丈夫なのかな。

 こちらなら人型とか、半獣人とか色々だと思うけど……。


「ご安心下さい、主殿。恐らく狸殿が人型に……」


 そうなの?

あ、本当だ。書いてある……人型! ってどうやって?


「ああ、そうですね、所有者様、こちらを」

 支配人さんが教えてくれたのは、もう一つの添付ファイル。こっちは写真だ。

 大柄な紳士と、私なんだけど私じゃない、まといなニッケル君と……若い人型の寿右衛門さん!


「これ……まさか……」


 あ、そうか。

 寿右衛門さんも元々はめちゃくちゃ賢い雀さんだから。

 チュン右衛門さんも同じく高位精霊にして高位精霊獣の狸さんに師事したの?

でも、変化の習得が早すぎない?


『狸さん……鉄輪かんなわさんの住まわれている場所には魔力が満ちているのでしょう。そして、私が遺した赤い石に選ばれた血族の末裔ニッケル……彼もあちらで魔力に目覚めましたね。そして、その思い人と成りました協力鳥殿の秀でた末裔殿。正に両者の才能が花開いたのかと。……本当に、若い頃の寿右衛門さんの様です』

 コヨミさん、本当にここにいらっしゃるみたいだ。

 AIみたいな存在なのが信じられない。


 すると、寿右衛門さんが声を掛けてくれた。

「……主殿、さすがに時が経ちすぎております。こちらに頂いた文書は紙綴殿に記録して頂きます故、一度戻りましょう。ここにあまりにも長くおられますと、また体調が」


 そして、精霊双珠殿が揺れた。


『そうだね、コヨミさんと話すとか、本を読むとかなら良いけど、黒曜石ちゃん大活躍だったから。……あ、そうだ茶色ちゃん。だけは伝えないと。……僕が言おうか?』

『お願い申し上げます』

 ……紙綴さんも? 何かな?

 もうあんまり驚くこと、ないと思うけど。


 そうだ、ニッケル君が手紙? にありがとうって。……嬉しい。


 それに、おめでとう!

 そうだよ、ニッケル君、私にとってのナーハルテ様が見付かったんだよね。

 あ、ナーハルテ様! 大国に向かわれる前にもう一度お会いできる予定なんだ!


『あー、やっぱりそうなるよ、ね……黒曜石ちゃん。悪いんだけど、白金はっきんちゃんとは……。その予定ね。ごめん。白金ちゃんね、ぶっちゃけ、分室には行けません!』


「え、何故? まさか、体調が、とかですか!」

 それなら私ができること……ここから転移すれば……。


『違う違う! 今聞いた色々たいへんなことが、ね……幻獣王様からのお達し、ってことで、結婚式に筆頭公爵家と向こうの王家に伝わるから。その時にお言葉を頂くのは白金ちゃんなんだよ。内容はまだ内密だけど、重大な、どちらかと言えば名誉なことだから、ただあちらの王家にはまだ内緒ね。って僕がここに来る前に筆頭公爵家に誓約付で伝えてきたから。今、筆頭公爵家、もっのすごい上を下への大騒ぎ。まあ、あの筆頭公爵家だから何とかしてくれるだろうけど、普通の上流貴族家なら難しい案件だろうね……白金ちゃんはとりあえず王都一のドレス店を呼びつけてとか色々、って感じかな。まあ、ドレス店も宝飾店も、何があっても飛んでくるだろうね、くらいの話だけど』


『……』

 ……ん? 黒白、どうしたのかな?


「黒白?」

『はい……。留守伝、入っております』


「主殿、お辛いでしょうが何卒。此度は幻獣王様の勅命によりペガサス殿もその場に来られるとか。カバンシ殿も本来のお姿に成られますから、錚々そうそうたるものになりましょう。……そうです、映像を撮影して頂きましょう! 精霊珠殿、お力をお貸し願えますか」


「うん、まあ、黒曜石ちゃんにはこれから紙綴ちゃんを読む、っていう大事が待っているからね。……分かった」

『……ついに、でございますね』


「写し……映像の。頂けますか?」

『……頑張るよ! 精霊珠の名にかけて! あと、黒曜石ちゃんの入学式の挨拶! それも映像にして白金ちゃんに渡せるように竜の先生に頼むよ! 正直言うと竜の先生も誓約……ううむ……みたいになってるからあんまり近づきたくないけど、場合が場合だから……ね?』


 うう、確かに。

 第三王子としては……ここまで言って頂いたら、婚約者に会いたいよう! とか言える状況じゃないよね、うん。


「分かりました。映像、頼みましたよ? あと、紙綴さん、貴方を読むのって準備とかそういうのは……」


『正直申し上げますと、お覚悟を。それのみでございます。頭巾は自身が頭巾ではなかった頃の、聖女様との真実を書いてございます故』


 なるほど、覚悟。


 覚悟、なのかあ。




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