207-カバンシ兄ちゃんとあたし達

『セレン様、今宜しいでしょうか』


 あ、ナーハルテ様? 

 念話でも美しいお声だなあ。第三王子殿下じゃなくても聞き惚れちゃいそう。


 今日はこちらで治療院(いずれは病院になる予定)に勤務をしてもらえる事になった皆さん(医療大臣閣下が推薦された医療班の皆さん!)がついに辺境区に入って下さったので、これから三日程かけてお母さん主導で引き継ぎを開始する日。


 今回はね、辺境区に近い街(十とか十一辺り)出身の半獣人の医師さんとか、地方出身で辺境区勤務を希望された魔法医師さんとか、医師とか魔法医師として優秀な方(勿論大事な事だけど)という以外にも辺境区としては画期的な事が更に! って具合だから、住民の皆さんも大歓迎な雰囲気。


 まあ、先発隊的な存在だったあたし達も頑張ったから、って少しなら自惚れても良いかな、って感じでとても満足な任務になりました!


 これが終わればいよいよ皆で王都に戻る事になる。


 何回か交替しながら転移魔法で移動の予定だから、もしかしたら野営もあるかも、な感じ。

 でもね、人員が凄いから! 野営にはならないんじゃ? って気もする。

 あ、でも野営はそれはそれで正直ちょっと楽しみ。


 スズオミ様と一緒に購入した色々は孤児院にお預けしたので、あの頼りになるドワーフの先生や猫獣人のちびちゃん達が孤児院だけでなく辺境区の皆の為に満遍なく役立ててくれる筈。


 あとね、聖教会本部宛にお手紙書いてくれる、って言ってくれてる子もいたんだよ!

 嬉しいぞ!


 そんな感じでいよいよだな、と気合を入れていた所にナーハルテ様の念話。

 これは張り切るよね。


『はい、勿論です。どうしました?』


『わたくしが拝借しておりますお部屋にいらして頂けますか。カバンシ様からの通信なのです。セレン様をお呼びになっておられます』


 カバンシ兄ちゃんが?

 分かりました、と王立学院では基本的には禁じられている(選抜クラス生は個人の判断で可。あと勿論緊急時は誰でも例外ね)敷地内転移をさせてもらった。


 目指すのはこの建物の中では一番安全性が高い(窓が少な目、鍵が新しいとか)お部屋だ。


 朱色様は確かお部屋に防犯魔法を掛けまくってから私のお母さんのお手伝いに向かって下さっていた筈。


 転移魔法、確かに慌ただしいし、驚く人もいるだろうから普通は禁止になると思う。

 でもやっぱり便利。使用可なら使いたいよね。


 そうだ、朱色様が戻られる迄はあたしがお部屋でナーハルテ様をお守りしようっと。

 決めた!


『はい、あたしだよ。兄ちゃん?』


 さすがの朱色様の魔法に加えてナーハルテ様が高度な音声漏洩防止魔法を掛けて下さっていたからカバンシ兄ちゃんにがんがん話しかける。


『お前、ナーハルテ様の御前だろう? その言葉遣い……まあ、仕方ない、本題だ。明日私は竜の姿で辺境伯閣下にハンダからの文をお届けする。用事が終わったら皆さんをまとめてお送りするから、予定より早く向こうに着くぞ。ああ、王国内の自由飛行許可も頂いている。前回同様、辺境区は割と大型の獣や竜に慣れているから特に問題は無かろう。何か必要な物はあるか? 馬車五台分位なら持って行くぞ』


『え、それって、また馬車、て言うか荷車だ今回は……とかまとめて全部兄ちゃんの背中にって事?』


 確かに今回の旅程は行きはともかく帰りはさっきも言った様に宿泊所を取らない予定だったから、宿泊予定先にご迷惑とかそういうのは無いのだけれど。


 あ、そもそも第二王子殿下が同じ方法で戻られたから良いのかな。


『そうですか、カバンシ殿が。では、かなりの速度になりますね』


 あれ、ナーハルテ様? 

 相変わらずめちゃくちゃお美しい控え目な笑顔が何だか可愛らしいぞ?


 あ、そうか!


『ありがとう兄ちゃん! もし可能なら備蓄可能な小麦粉とかお米とかお味噌とかたくさん持って来て! よろしく! あ、はい分かりました! あとは品質が良いけど王都には出せない木材を筆頭公爵家が供出して下さる筈だって! ナーハルテ様が諸々準備できたら兄ちゃんに直接ご連絡して下さるって! うん、うん、ちゃんとお礼はお伝えするから、うん、とりあえずじゃあね!』


 さすがはナーハルテ様。


 第三王子殿下好きな人に会える、って嬉しい感情と辺境区の皆の為に出来る事を同時に考えられるって凄い。


 あたしも好きな人が出来たらこういう風になりたいなあ。


 なれたら良いな。


 お相手は? って訊かないでねお願いだから。


 この手の話題ではあたしはいつもこういう感じだなあ。


 婚約者候補さん? も兄ちゃんとか緑さんとかほぼ身内枠ですよ、うん。


 まあ、これからに期待、って事で!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る