164-ギルドマスタースコレス殿とハンダと私

「来てやったぞジジイ!」


 我が相棒ながらこいつ、現役最強の冒険者ハンダ-コバルトは相変わらず口が悪い。


 相手がエルフ族でも随一の自然に愛されたお方、中央冒険者ギルドギルドマスタースコレス殿だという事を百も承知でこの態度。


 二人の関係を知らぬ植物が多数存在する場所であれば、恐らく植物に巻き付かれ、蔓で打たれ、といった事にもなりかねない行いだ。まあ、こいつの場合、精霊や獣達がまあまあと取りなしてくれるのだろうが。


「相変わらず口が悪いのう。ああ、カバンシ殿には急な呼び出しを申し訳ない。特製ハーブティーで良いかな?酒でも良いですぞ。食事は?」

「おい、俺とカバンシとで扱いに差があるぞ!」

「いい加減にしろ、お前がスコレス殿に失礼な物言いをするからだ。申し訳ないのはこちらです、スコレス殿。食事は済ませております。酒はよろしければ後でご一緒できれば幸いです」


「そうですか、それでは晩に、第三王子殿下の所の茶色殿が届けて下さった秘蔵の品を出しましょう。……とりあえず要件を。これが新たに出現した物です。……よしよし、カバンシ殿にお見せしなさい」

 スコレス殿の伝令鳥、梟殿が羽毛から指輪を幾つか、それから装飾品、ベルトに付けるバックルだろうか、皿にも似た美しい細工物を卓の上に丁寧に置いた。


 第三王子殿下の魔道具、リュック殿から頂いた保存袋に入れられたそれらは、以前の物とは異なり、何と言うか、素直に取り調べを受けようとしている、そんな雰囲気を醸し出していた。


「実力を嵩上げしようとしていた者達から自ら外れ、ギルドの職員の元に飛び出して来たそうなのです。いずれも我が中央冒険者ギルドではありませんが、それぞれのマスターは信頼の置ける者達に存じます。現役最強の冒険者ハンダと相棒であられるカバンシ殿には先にお伝えしてから魔道具開発局か騎士団魔法隊にお知らせしようと思いましてな」


「成程、どっかのジジイのせいでダイヤモンド階級なんぞにさせられちまったからくそ忙しい俺と相棒を呼び出すから何かと思えば、確かに大事だな。俺らも幾つか見付けたから、いっその事、第三王子殿下にお知らせしねえか? あ、鳥! お前は賢くて可愛いなあ! ほれ、食え!」


 その梟殿は少なくともお前の三倍以上は生きておられる精霊獣殿なのだが、と言ってもハンダは気にするまい。


 まあ、高級食材とされる上トカゲの干し肉ならば、喜んでもらえるだろう。

 全く、こいつは本当に生き物には優しい奴だ。


「……いや、ハンダよ。最近、第三王子殿下は医療大臣と財務大臣のご婦々とも親しくされているらしく、茶色殿から儂にもお二人とお会いする前に殿下のお人柄に対する推薦をとご要望を頂いたのだ。あまりにもご偉功が深くなられては、あのお方の自由を妨げかねない。もしも、王族にも動いて頂くならば第三王子殿下以外の方にしなさい」


「ああ、そうかあ。確かに。じゃあ茶色殿か緑ちゃんに相談するか。ジジイの映像水晶が一番早いか?」

「そうだな。人間の世界は動けるものが動けば良い、という訳ではないからな」


「察しが良いのう。実は儂に一つ考えがありましてな。茶色殿曰く、あの指輪が修行を重ね、見事な魔道具殿になられたとの事でしてな。カバンシ殿、儂の映像水晶に向けて、第三王子殿下の精霊獣方と会話をしたいと念じてみて下さらぬか?」


 この部屋にある映像水晶は確か、王立学院の伝令水晶の様に精霊界に認められた物ではないが、自然に生じた水晶がスコレス殿のお役に立ちたいと願って進化した物ではなかっただろうか。


 まあ、スコレス殿が言われる事ならば試す価値はあるだろう。


「カバンシ殿。丁度ご連絡をと思っておりました」

『おう、何だカバちゃん? 第三王子殿下には一応お伝えしたからその件か? 実は俺もあれから指輪を見付けてさあ!』


 驚いた。少しの時間差で会話? と念話。


 会話は茶色殿、念話は緑、いや今では緑殿か?


『ご連絡の橋渡しが出来まして光栄に存じます。主には今、茶色殿と緑殿との内々のお話として一時的に腕から外して頂いておりますのでご安心下さい』

 これがあの、第三王子殿下とハンダを恐れ、怯えていた魔道具の進化した姿とは。

 驚いた。直に会えるのが楽しみだ。


「やはり。先日、茶色殿からこの水晶へと魔道具殿の魔力を入れて頂きましてな。元指輪の魔道具殿は黒白殿と呼んで差し上げると良いでしょう」

 うんうん、と満足げなスコレス殿。


「今丁度緑殿から預かりました発見物を魔道具開発局局長専属秘書殿にお届けした所です。そちらに転移いたしますので、どちらにおられるかをお知らせ下さい」

『俺は魔石と護衛対象の二人を学院に送らないといけねえからなあ。茶色殿、頼みます。……あ、ハンちゃんカバちゃん、茶色殿を見たらきっと驚くぞ?あと、緑殿、とか止めろよ? 俺達は、ダチなんだからよ!』

「ああ」「おうよ!」


 実際、この後すぐに転移された人型の茶色殿にハンダが驚き、スコレス殿と私が笑い、という一連のやり取りが起こるのだが。


 ハンダよ、魔道具殿の成長についてが、

「良かったなあ、すげえなあ!」だけなのはどうかと思うぞ?


『……ありがとうございます。皆様方、まだ私のこの連絡に関する能力は主には内密にお願い申し上げます。主に力が渡り過ぎる事を良しとするものもしないものも、いずれも煩わしいですから。殿、等とはお呼び頂かなくとも構いません。お好きになさって下さい』


 結局私は、こう会話を結ばれた黒白殿の冷静さが頼もしいなと騒がしい我が相棒を見つめながらしみじみと思わされるのだった。


 まあ、これが我が相棒の良さ、と言えなくもないのだがな。

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