135-王立学院魔道具品評会最終日の私(3)

「すごいねぇ。いつか、僕達も洗ってもらえるかな?」


 隠蔽と音声に関する魔法の解除をしなかった事は正解だった。

 

 金にも銀にも見える髪と目。愛らしさの権化の様なお姿……。

 本当に変化されてるんですけれど。

 やっぱり、の気配のこのお方。

 久し振りですね、人型の精霊珠殿。

 ……あれ、でも。


「あらら、本当にいらしたのねえ」

「まさか、第三王子殿下、精霊珠殿ともお親しいのですか?」

 余裕の朱々さんに、こちらこそが本来の反応、戸惑いのジンクさん。


 どうしよう、精霊獣以外の皆さんが、平伏するべきなのか、礼だけで良いのかを迷われてるよ……。

 カルサイト君なんて、一世一代の告白で晴れて両思い! なのに、顔面蒼白。

 ……何か、ごめん。


「いや、皆、平伏なんてしなくて良いし、礼もいらないよ。僕が勝手に来たんだから。楽にしてね。あ、一応、自己紹介ね。精霊珠だよ」

 うん、さすがにここにいる皆には伝わりますから。

 この、漂う大物感。


 朱々さんも相当高位の精霊獣さんだけれども、何て言うか、人型として生活するのに慣れていらっしゃるから、人らしい擬態がお上手なんだよね。


「失礼ながら、和の精霊珠殿であられますか?」

 質問しても大丈夫、な筈。知の精霊珠殿も大らかな方だったし。


「すごいねえ、良く分かったね! 学院の関連行事だから知の方がそれっぽいかと思ったんだけど、まあいいや。さすがは、えーと、こ、白金しろがね王子君!」

 ありがとうございます、黒曜石王子(またはコヨミさんの末裔ちゃん! かな?)と呼ばないようにして下さって。


「失礼ながら、和の精霊珠殿、召喚大会の際には知の精霊珠殿に多大なるお力添えを頂戴しました事を、誠に有難く存じます。若輩ながら、筆頭公爵家当主に代わりまして、厚く直々に御礼を申し上げます無礼をお許し下さい。筆頭公爵家の第三女、ナーハルテ・フォン・プラティウムに存じます」 

 ナーハルテ様の静かなそれは、息を呑むくらいに美しい礼だった。


「和の精霊珠殿、楽にと仰ったけれど、この礼は受けて差し上げて。あたくしの召喚主で、白様の魔力譲渡も頂いている子よ。そして、第三王子殿下の婚約者でもあるの」

 朱々さんが言うと、和の精霊珠殿は鷹揚に肯いた。

「うん、朱色ちゃん、大丈夫。確かにこの礼は受けたよ、ありがとう、知にも伝わったからね。それから、君は白金王子君のお嫁さんになる人なんだから、僕達にとっても大切な人だよ。それから、知も、君の事を褒めていたよ」


「有難きお言葉、痛み入りましてございます」

 お嫁さん。お嫁さん!

 ……頑張れ私、堪えろ私。

 にやけずに仕事してくれ、私の表情筋。ナーハルテ様の筆頭公爵令嬢様らしい謹厳たるお美しさを見習え!


「皆の事は知から聞いているから自己紹介はいらないよ。……そこの聖女候補の紫の子。聖魔法大導師さんはお友達だから色々分かっているつもりだよ」

『僕もこの術式は使いたいな。いいかな』


『あばばばば。……どうぞお使い下さい!』

 セレンさん、気持ちは分かるけどあばばばば、って。

「ありがとう、君は面白いねえ。君にもこれから頑張ってもらわないといけないかも知れない。よろしくね」


「は、は、は、は、はい! 聖女候補の自覚を忘れず、誠心誠意励みます!」

 セレンさん、偉いよ。それでもきちんと礼の形が取れている。

『背中……りそう……』

 っていうのは聞こえなかったよ、うん。


「ああ、そうだ。白金はっきんの子。僕に言われた、って事にして、今日から全属性所有者を名乗りなさい。……君、前は違ったみたいだけれど、今はもう聖魔力を使えるよ。この事は大司教さんと聖魔法大導師さんも知ってるから安心してね。紫の子も、聞いておいて。白金の子は特別に、聖女候補は名乗っても名乗らなくてもどちらでも良いよ。ああ、僕がこうして認めたから、自覚無しの強力な補助魔法の発動は減っていくと思うよ。あと、必要に応じた自動発動は残る筈」


「畏まりました。尊きお言葉、頂戴しましてございます」

「聖女候補として承りました」

 ナーハルテ様は勿論なんだけれど、益々すごいよ、セレンさん。あばばばば、は何処へ?


「……素晴らしい場に立ち会えました幸甚をコヨミ王国魔道具開発局局長として厚く御礼申し上げます。ジンク・フォン・テラヘルツに存じます」


「うん。いつも面白い物をたくさん開発したり、開発者を見守ったりしてくれてありがとう。資金が必要なら僕から財務局に言うからその時は願ってね」

「誠に、お心遣いに感謝申し上げます」

 ジンクさんとギベオンさんが、ピシッとした礼を取る。


 それにしても、驚いた。


 ナーハルテ様の聖魔力の事は、この形の告知なら全く不自然ではない。

 何しろ、精霊珠殿達は本当に自由であられる方々。その方々の一方がお認めになった聖魔力。多分知の方もご存じだろう。どうこう言える人がいるとは思えない。聖教会本部の双璧さんも控えておられるし。


 多分、発動していなかった生来の聖魔力の素養が成長されて使用可能になったという形になるのだと思う。

 ナーハルテ様の聖魔力現出の理由。

 その一つ、白様が助力されたこと、の方は名誉なことだけれど、異世界から私が転生したから、の方は、皆に知らせるべきことではないからね。この告知なら、もしかして、なんて思われる事もないだろう。ありがたいなあ。


「あ、白金の子。君のご両親には聖教会本部から特別な伝令鳥が飛んでるからね。君の場合は必要ないかも知れないけれど、技術なんかを習得したければ聖教会本部に通うとか工夫してね。ただ、君に任せるから好きにしていいよ。指導者を探してくれても良い」

「寛大なお心遣いに感謝申し上げます」

 うーん、本当にナーハルテ様の所作はお美しい。


『良かったあ。ナーハルテ様に聖魔力ってお似合いですもんね。内密じゃなくなってあたしも楽になりました』

『そうですな』

『そうだね』

 セレンさんと寿右衛門さんと念話をしていたら、和の精霊珠殿は寿右衛門さんに声を掛けた。


「そうそう、茶色ちゃんも色々活躍してるね」

『有難きお言葉に存じます』

「こ、白金王子君の魔道具も増えたねえ。頑張ってね」


『う、はい』『微力ながら主にお仕え申し上げる所存にございます』

 リュックさん、緊張。黒白は凛々しい。 

「白金ちゃんの魔道具もね」

『はい!』『……はい』

 リュックちゃんは元気。百黒は、神妙。


「あとは、そうだな。ええと、この洗う魔道具を開発した子、赤炭色せっかいしょくちゃん、って呼んで良いかな?」

「……あ、は、は、はい、どうぞ、御心のままに。申し遅れました、魔道具開発局副局長が長子、カルサイト・フォン・ウレックスと申します。ご尊顔を拝する機会を、誠にありがとうございます」

 さすがは副局長令息にして侯爵令息。きちんとしたご挨拶。


「うん、畏まらなくて良いよ。赤灰色ちゃん。それでね局長君、僕には投票権っていうのはないけれど、この魔道具をすごいね、って大々的に褒めたいんだけど、どうしたら良いかなあ」


「……和の精霊珠殿御自ら、でございますか」

「すごいわねえ」

『名誉な事ですな』

 ジンクさんが引きつっている。

 精霊獣さん達は、呑気。


 カルサイト君とナイカさんは、呆然。言葉、出ないよね。


 ……皆さん、頑張って下さい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る