87-魔馬インディゴと私達

「うわ。つやっつや」


 密度は濃かったけれど、過ぎた時間はそれ程でもなかった今日。

 その間に魔馬インディゴは丁寧にブラッシングしてもらい、魔道具なので釘打ちではなく貼り付け型の馬蹄まで、脚八本分全てがピカピカに磨かれていた。


 認識阻害魔法が途中から切れたから、いきなりこのきれいな藍色になった筈なのに、驚かれずに丁寧に対応してもらえて良かったねえ。


「第三、いえお坊ちゃま、この魔馬は魔馬用化粧室の使い方も完璧でした。自分で浄化魔法を掛けてくれたそうです。それに、他の魔馬達の諍いも仲裁してくれて。本当に、こちらがお金を払いたい位です。本当によろしいのですか? あんなにお代を頂いてしまって」

 厩務員さんの代わりにインディゴを連れてきてくれたテルルさんに、緊張しながら言われた。


 寿右衛門さんが、良い技術だったのでチップを渡しました、と言ってたからなあ。

 張り込んだね、インディゴの頭に乗っている寿右衛門さん。


 コヨミ王国のチップ文化は、必須ではありません。今回の寿右衛門さんの様に、特別に気に入りましたとか、そんな時だけで大丈夫。


 居酒屋関山にもお渡ししようとしたけれど、店長カンザンさんから丁重に辞退されてしまいました。

 次回、たくさん飲食して下さい、だって。そうします。


『はい、かなりの技術です。私も羽をいてもらいました』

 寿右衛門さんからの高評価。

 本当に、生き物好きで対応完璧な厩務員さんだったんだね。


 あ、賢い魔馬達は、一般の乗り合い馬車の馬達と違って排泄物を収納する為の馬用携帯魔道具(透明な仕様。外も中身も)を身に付ける事をよしとしないので、その代わり、人が公衆トイレを使用するためにきちんと決まった場所で排泄行為ができるんだって。


 時には、自分で魔力をコントロールして、厩舎等の決まった所に着くまで行為を我慢するらしい。

 賢い! 稀に、普通の馬でも賢い子はそれができるみたい。


 ライオネア様の愛馬とかそんな感じなのでは? 会った事はまだないけれどね。


「大丈夫ですよテルルさん。むしろ、このつやつやっぷり! ますます素敵になって、乗せてもらうのが楽しみです」

 いや、お坊ちゃま、丁寧語はやめて下さい本当に! と恐縮しまくりのテルルさん。


 また耳の力を借りるかも知れないし、他にもギルドにはお世話になる事もあるかも知れませんから、金銭はその分と思って下さい、と言ったらやっと納得してくれた。


「いよう、テルル! お前本当に冒険者以外の仕事はできる奴だよなあ!」

 多分褒めてるハンダさん。


 こちらに残るんだから仲良くね。

「仕方ないだろう? 認識阻害魔法で姿を変えてる馬なんて秘密裏の調査役とかで慣れてるから厩務担当も気にならなかったみてえだけど、第三王子殿下とご婚約者の筆頭公爵令嬢様と王国騎士団の魔法隊の隊長さんと本物の邪竜斬りとその召喚竜、まだ他にもたくさんのすげえ召喚獣殿達って、そりゃ緊張するだろうさ! だから俺が魔馬を引いてきたんだよ」


「そいつはご苦労。元邪竜斬りが褒めてやろう」

「いらねえよ!」

 良かった。やっぱり仲良しだ。


『お待たせいたしました。高貴なるお方様達』


「いやあ、見ていた私も痛快でした」 

『あの容赦ない治癒は、さすがはお師匠様の血統よね』

 橡が、何だかやり切った感じで、千斎さんは楽しそうで、朱々さんは仕方ない、という感じ。


『あたくしの人型のお師匠様がこの狐さんの始祖様なのよ』

 はあはあ、なるほど。

 でも、朱々さんがいてくれたからお仕置きも少しは手加減されたのかな。


「そういえば、インディゴの乗り心地ってめちゃくちゃ良かったんですけど、鞍とかないのは何故なんですか?あと、手綱しか付いてないし」

 前世の競馬中継の馬達もすごくきれいだったけれど、手綱とか以外にも頭絡とうらくだっけ。

 それから鞍とかあと鞭とか。

 鞭はインディゴにはいらないね絶対。


 必要だとしたら、万が一の魔法による精神支配を退ける為にとか、やむを得ず用だと思う。


「ああ、魔馬の場合は自分が認めた人間以外は背に乗せませんから、魔力を用いて乗り心地を良くしてくれているのです。どうしても意に沿わない場合は鞍を着けるように魔馬自らが人に要求します。勿論、怪我人等には気遣いますよ」

 千斎さんが教えてくれた。

 なるほどなるほど。


 朱々さんは見送ってくれた後、精霊界に戻って白様に報告だって。

 カバンシさんは、人型? 竜姿? どちらで帰るのかな。


「ああ、ひとっ飛びでもいいが、お二人のどちらかをお乗せするのはやぶさかではないぞ」

 え。それはまた魅力的な。

 でも、インディゴにも、もう一度乗りたいし。


『主殿のご婚約者様をお乗せするのは嬉しい、と申しております』

 え、そうなの寿右衛門さん、インディゴも。


「わたくしが乗せて頂いてもよろしいのですか? こんなに美しい藍色の魔馬は、見たことがございませんわ」


 ナーハルテ様、きらきら笑顔。素敵。

 うーん、確かに私もカバンシさんにも乗りたいのは勿論なんだけどね。


『いや、主様、インディゴに二人で乗るのはデートの時でいいじゃん! カバちゃん、俺も乗っていいか? チビ鬼になるからよ』

 あ、そうか。デート。


 あと、チビ鬼って召喚大会の時の映像水晶のかわいい緑簾さんだよね。

 白様が映像を差し替えて下さった、あの!


 緑簾さん、ありがとう。

 これで心置きなくカバンシさんに乗せてもらって、中央冒険者ギルドにさようならができるよ。


「あ、ジジイだ。よし、荷物を積んで、見送りだな!」

 スコレスさんの姿も見える。


 さようならなのに寂しくないのは、それだけ充実していたから。


 そして、次回があるから、だね!




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