74-ギルドマスタースコレスさんと元邪竜斬りハンダさんの試合と私達

 コヨミ王国冒険者ギルドは中央、一、二の三つ。方角ではなく、最古のギルドが中央で後は成立順。

 もしも今後ギルドを設営したいという届けが出た場合は全ギルドマスターと金階級冒険者の八割の賛同を得ないといけないらしい。


 階級は下から鉄、青銅、銅、銀、金、ダイヤモンド、ウルトラ。

 ウルトラはほぼ伝説級で、ダイヤモンド階級の冒険者が引退後にもらうのが通例だったのを初の現役取得者になるのでは、と専らの噂だった邪竜斬りこと金階級最年少取得者ハンダ-カーボン、現在ハンダ-コバルトさん。


 この方がついに現役復帰されるのですが、その件で中央冒険者ギルドマスター、エルフのスコレスさんと揉めました。


「じゃから、年寄りの言うことは聞けと言うとる! お前のダイヤモンド階級取得は決定しておった事! 復帰するなら取得じゃ! 分かったか!」

「分かるか! 金階級でやらせろ! 引退して金階級も返す、って言ったのに引退はさせねえ、一時的に、だ、その上階級返上もさせねえは、とかしやがったのはジジイだろが! ダイヤモンド階級なんぞ知るか! とりあえず仕切り直して金階級に決まってらあ! 今はまだ早いだろうが!」

「早くはない、遅すぎじゃくれてやると言ったのに、いらねえ、とかぬかしおって! しかも、知るか、とは何じゃ! 下級貴族どもを黙らせるには手っ取り早かろうが!」


「うるせえ、なら勝負だ!」

「言ったな若造! 儂の植物魔法は治癒だけではないぞ!」


「かかってこいや! 腰痛が出ても知らねえからな!」


 ……みたいな感じで、まずギルドマスタースコレスさん対ハンダさん、の現状確認という名前の試合が始まってしまいました。


 審判は本当に帰って来た千斎・フォン・クリプトン大将閣下です。


「いやあ、部下に物的証拠を押しつけ……無事に届けた甲斐がありました。まさか、植物魔法の大家、スコレス様の魔法と元邪竜斬りのハンダ殿の試合が見られるとは!」


 押し付け、って言っちゃってますが。部下さん、ごめんなさい。


 あ、ここは中央冒険者ギルド階級試験用試合場です。


 伝説の植物魔法の大家、スコレスさんが念入りに術を掛けた蔓達が試合場の壁、屋根、全てを覆っています。

 試合場内外のガラス、木材、ドーム式の天井等にも勿論魔法が浸透しています。今は天井は空いています。

 存分に暴れられる、とハンダさんが喜んでいました。


 尚、観客は審判の千斎さん以外はカバンシさんと私だけです。

 ナーハルテ様は別室で銀階級取得の為の筆記試験。寿右衛門さんと緑簾さんは何かの審査中。召喚獣にも色々あるみたいです。

 リュックさんとリュックちゃんも寿右衛門さんと緑簾さんのところです。


 私は結局、何階級なのかまだ教えられていません。


 一番下の鉄階級は採取専門だったな、確か。多分これはいける……筈。


「では、最終確認です。カバンシ殿はどうされますか」


「これはハンダが悪い。この場合は年長者スコレス殿に従うべきだ。よって、俺は共には戦わない。ハンダが勝手に戦えばよい」


「という訳で、本当に開始いたします!」


「儂と共に! 緑よ!」


 わずか二言、のスコレスさん。


 それだけで、綺麗に敷き詰められた試合場の土の中から、ボコボコとたくさんの木の芽が生えて、一瞬で大樹になった。


 目で追うのがやっと。すごい成長速度。


「追えているならば大したものだ。王子殿下、自信をお持ちなさい」

 カバンシさんが褒めてくれた。


「うらあ!」

 気合いだけで大樹の枝をなぎ払うハンダさん、こちらも、すごい。


 でも、枝全ての木の実が散弾銃みたいにバババババ、って当たってるの、大丈夫なの?痛そう。


「あれは大丈夫です。ハンダ殿は、闘気の膜で全て弾いています」

「視覚に魔力を集中させて下さい。そうすれば、あいつを覆う物が浮かびます」


 視覚に魔力を集中。

 難しいけど、やってみたら、ぼんやりとしたものがハンダさんの体全体にある、かな? 位には見ることができた。

 確かに、木の実たちはハンダさんの体に触れられずに、ポトポトと、全て落下している。


「やるな若造!」

「あんたもな、ジジイ!」


 木の実を避けながら、手刀で枝を払いまくる。魔力じゃないんだよね、本当に信じられない。


「大したものよ。じゃが、甘い!」

 スコレスさんが叫ぶ。


 すると、壁を覆っていた蔓達がハンダさんを縛り付けた!

「てめえ、ジジイ! 壁の蔓はギルドの備品だろが!」


 ハンダさんがめちゃくちゃ叫ぶ。

 一応、かなり切り倒してはいるけれど、本数が多い。

 だから。


「……10。カウントテン。勝者、ギルドマスタースコレス殿!」

 やっぱり。

 これは試合だから、カウントがあるんだ。


「ずりいぞジジイ!」

 壁に戻っていった蔓達から解放されたハンダさん、叫ぶ叫ぶ。


「ハンダ、見苦しいぞ。この場にスコレス殿の魔力が満ちている事はお前も承知していた筈。試合場での試合である事を常に意識されていたギルドマスター殿の勝利だ」


 カバンシさんに諭されて、むくれながらあぐらをかくハンダさん。


「まあ、確かにそうだ。しょうがねえ、煮るなり焼くなり好きにしろ、ジジイ!」


「煮たり焼いたりはせぬが、これは受け取れ。ダイヤモンド階級取得者の証、特製のダイヤモンドを埋めた小刀じゃ。お前がきちんと筋を通してダイヤモンド階級に上がろうとした事は分かっておる。儂に負けたのじゃから、仕方なくで良いから安心して受け取れ!」


 そしてこちらはカバンシ殿に。とスコレスさんがカバンシさんに渡したのは、金階級取得者の証の小刀。

 小刀とは言っても、持っているだけでかなりの対魔力・物理効果があるのが分かるし、多分、刀自体の攻撃力が普通の小刀のそれじゃない。

 ダイヤモンド階級の方は、更にすごい物だという事が伝わってくる。


 ハンダさん、復帰後いきなりダイヤモンド階級だと他の冒険者さん達に申し訳ないと思ってたのかな。義理堅い。


 ハンダさんも、それをお見通しなスコレスさんも何だかすごく理解し合っている感じだ。


 多分、カバンシさんもその辺りは分かってはいるけれど一応、だったのだろう。


「金階級取得者、ダイヤモンド階級取得者に余計な武器は邪魔になりますから。小刀がよいのですよ。投げてもよし、果物を剥くのもよし」


 千斎さんに言われて、納得。

 持ち主の魔力を覚える特殊な金属で出来ている為、もうハンダさん、カバンシさん以外には使えない。投げたら持ち主の元に。指示があれば待機、だって。すごい!


 やっぱりものすごいんだね、金階級、そしてダイヤモンド階級。


 そうだ、ハンダさんがそれしか持っていないと言っていた小刀、あれは金階級の証の物だったんだね。


「さあて、俺がダイヤモンド階級にさせられたからには、王子殿下も銀階級になってもらわなきゃな」


「そうですな。しかしながら、儂はちょっと失礼して、水分補給を。年寄りに対するいたわりの気持ちがない者を相手にすると疲れますわい」


「うるせえジジイ! てめえ、手加減なんかしたら、俺でもやべえわ! 年寄りらしくしてからそんな寝言言いやがれ! てめえは強すぎなんだ、茶でもすすってろ!」


「労りの気持ちはどうした。蔓でまた縛られたいのか?」

「早くその枯れた体に水分ぶち込んで来いや!」


「言われんでもそうするわ! 王子殿下、ハンダ以外の皆様方、少しお待ちを。戻りましたらこの場を整えますでな」


「「「分かりました」」」

「早く行っちまえ! ついでに甘いものでも食ってきやがれ!」


 笑顔のスコレスさん。叫ぶハンダさん。


 でも、通じ合ってる。それが分かる。

 このお二人、めちゃくちゃ仲良し。


 ジジイって呼ぶのも呼ばれるのも、仲の良さあっての事。いい感じ。糖分も補給しなさいよ、ってこどだよね。


 ジジィ、とか、他の人が呼んだらボコボコにされるね、お二人から。


 ただ、さっきのハンダさん、何て言いました? 銀階級?


 ……。


 何でそうなるの!






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