幕間-5 地竜と元邪竜斬りの会話

「おーし、これで最後かな」


 八の街の平野に積み上げられた魔石の回収作業。

 元魔物、魔獣だったりした連中まで総出で手伝ってくれたから早く終わった。


 人型の時は人見知りなカバンシには悪いが、あいつには王都で俺の召喚獣である竜の人型の役、それから俺の分身、そいつも含めた二人分の対応をしてもらっている。


 まあ、聖魔法大導師様が付いていて下さるから大丈夫だろう。緑ちゃん(第三王子殿下の鬼族の召喚獣。強い)もボディガードとして名乗り出てくれて、有難い。


 実は、ここだけの話だが、どこから聞きつけやがったのか、セレンが聖女候補ではなく聖女になり得る可能性がある存在だとして、内外からハエみてえな連中が探りを入れて来ているらしい。


 だから俺は、冒険者崩れの連中もそんな奴等からの刺客かと思った程だ。

 実際はそうではなく、分かりやすく愚かな連中の差し金だったのだが、うまい具合に第三王子殿下、筆頭公爵令嬢様、それだけでもものすごいのに、聖魔法大導師様という超大物まで引っ張り出せた。


 これで、聖女を気にする馬鹿共は、少なくとも善良な街の人々を人質にしようとは思わなくなっただろう。

 聖女信仰を持つ連中にとって、聖魔法大導師様と言えば聖教会の大司教様と並ぶ双璧だ。恐れ多い、なんてもんじゃない筈だ。

 逆に、そういった連中に対抗する奴らについては俺みたいにある程度動きやすい人間なら、割と探りやすいのだ。


 もしも、ここまで見透かしてセレンを王都の聖教会本部と王立学院に迎えた上で、敢えて普通クラスに加入させて第三王子殿下達とのコネを作らせたのなら、誰が考えた計画なのか、と空恐ろしい気持ちになる。

 本気で背筋が寒くなる。ひゅっ、と冷たい風を感じる位に。


 俺も最初は普通クラス以上には貴族連中が多いからと、普通クラスの最上位クラスになったのだろうと考えてはいたのだが。

 もし、裏で糸を引いている人物がいるとしたら、あの外見と中身(多分女性)が違う第三王子殿下かとも思った。

 しかし、あの方は多分、策は練る事ができても実行はできない性質の方だ。

 恐らく、仲間にもそんな策はさせたがらない。

 しかも、セレンの編入前の第三王子殿下のやらかしの数々を考えたら、いくら何でも今の殿下とは違いすぎる。

 演技だとしたら諸刃の剣であり過ぎる。

 だから多分、黒幕がいるとしても、他の誰かだろう。まあ、その誰かが味方なのはかなりの安心材料だが。


 そんなこんなで、今の俺は嫌だ嫌だで逃げていた叙爵はともかく、邪竜斬りのカーボンと呼ばれた冒険者業に復帰して、いずれはダイヤモンド階級に昇格し、セレンを守りやすい地位に就きたい、と考えている。


 その時は必要ならば邪竜斬りのハンダ-コバルトとも名乗るつもりだ。わざわざ自分から邪竜斬りと名乗らないといけない様な事があればだが。


 因みにダイヤモンド階級になれば低い階級の貴族連中よりも立場は上になる。

 最初は当然金階級だ。まさか、あの中央冒険者ギルドのがダイヤモンド階級にすぐなれほれなれ、とか何とか言うとは思えねえしな。


 普通の国ならば不敬にもなるだろうが、何と女王陛下と王配殿下は爵位の件を留保として下さり、問題なしと判断されれば再びの叙爵をと約束して下さった。


 竜を討伐する事を至高とする様な国から何か接触があれば、いつでも王宮われわれを頼りなさい、と言われた王配殿下のお言葉と、頷いて下さった女王陛下のご尊顔は忘れない。


 王立学院への編入前、セレンに何かあったら俺は暴れるぞ、という失礼な文書を公式書類としてくれた聖教会本部は信頼できる、と俺は思っていた。

 そして、今は更にその思いを強くしている。


 そして、俺が今一番考えたくない、しかし考えなければならない事、それは、面倒くさいし、めちゃくちゃ嫌だが、セレンにも婚約者なんてもんが必要かもなあ、という事だ。


 元々聖女候補の内から目を付けて、という胸くそ悪い話は聖女信仰の強い国では割とある事だ。

 ……思い出したくもねえくらいにムカつくあの国とかな。


 だがそれが、本当に聖女様になる可能性が高い聖女候補だった場合は? 


 考えたくもねえが、考えないといけない。嫌だよなあ、本当に。


「なあ、けいよ。お前はつがいとかはいるのか?」


 この平野のボス、地竜と大トカゲという二つの種族の父と母を持つ生き物に聞いてみた。


 すると、

『僕はまだ100歳にもなりませんから。200歳位になってから考えます』

 そう言われた。


 本当にな、それくらい長く親元にいてくれたらいいよなあ。

 そうはいかねえから、考えねえとなあ。


 爵位なら侯爵位かねえ。聖女様と釣り合うお家と言ったら。もう少し下でも良いのか?


 分からねえ。


 ……ああ、本当に。


 考えたくねえなあ!

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