35-少しだけ昔の私と今の私達
昔から、他人と関わる事が好きではなかった。
幸い、それはそれで、という家族とは割と上手くいっていて、他人よりはできた勉強をそれなりにして、名門と言われる女子高校の付属中学校に合格し、付属高校に進学した。
他人の害になる事をしてそれが公になると面倒くさい、だからやらない。という程度の事は理解している他人達との学校生活は、まあ、こなせる範囲のものだった。
その中で一人だけ、なぜか関わってくる他人がいた。生徒会の役員だという彼女は、必須なので仕方なく在籍していた物理部の活動実績を作れと言ってきたのだ。
顧問の偏屈な物理教師と一人だけの部員の私。
生徒会の役員は、予算を出したいから何かしろと言う。理由が尤もだ、と教師は面白がり、私は仕方なく、これならやってもいいかという研究をまとめたら、役員がそれを何かのコンクールに出してしまった。
そして、何だか大きい賞をもらった。実は権威のあるコンクールだったらしい。
その後は、高校卒業までの間、偏屈教師と私は放課後を静かな物理教室で過ごすことができた。癪ではあるが、役員のおかげだった。
結局、行けるなら行っておけと偏屈教師にも勧められた大学(名門と言われるこの女子高校でも一目置かれる進学先)に合格して、卒業式を迎えた。
もともと、休めるぎりぎりまで学校生活は休んでいたし、出たくなければ卒業式も休めばいいという家族のありがたい申し出もあったが、元役員にだけは挨拶をしようかと思ったのだ。
ところが、元役員はたくさんの人間に囲まれていた。私を見て、声を掛けようとしてくれていたようだったが、それは嫌だと何故か思ったのだ。
それからは、偏屈教師の友人という指導教授(やっぱり偏屈だった)の勧めで大学院に進み、大学院修了後、大学准教授職に就けるまでになった。
思いがけず(本当に!)権力者だった指導教授のおかげで、研究一筋ゼミ生なしという准教授生活を続けていたのだが、意外にもやる気のある女子学生が現れ、ゼミ生になった。
学問への姿勢と事務能力の高さと人柄を実に珍しく私
先生がご不審に思われるかと存じまして、と会社のメアド。中々の会社だ。
同居中の姉だという。過保護だなとは思ったが、自分の人間性に問題点が多々ある事は自覚しているので、保護者に会ってみる事にした。
保護者からこいつは駄目だとNGが出たらこの就職話はなくなるだろうが、まさか彼女がゼミを辞める事はないだろう。
……そう思っていたのだが。
高校時代ただ一人だけ、名前が記憶にある生徒。そう、おせっかいな生徒会の元役員。名前で気付かなかったのかと私が言えば、お互い様と言い返された。
私はやっと、理解した。
……あの卒業式の日、私は
それからなんやかんやで私とそのゼミ生(今は実に有能な准教授秘書さんだ)の姉は恋愛関係になり、現在に至る。
あの子に大切な人間(男女問わず)ができるまで、と関係を教えるのを延期していたが、さすがにいいかげん
ちなみに私は彼女をこよみん姉と呼び、こよみん姉は私を先生と呼ぶ。
別に構わないがこよみんは体調不良なのか、と聞いたらそうでもないがとにかく頼む、と。
多少の疑問はあったが、大学に出勤したら少なくとも半年分の秘書業務が終わっていた。さすがの彼女でもあり得ない仕事量。
気に入るかなと思い私が連休前にこよみんにプレゼントした乙女ゲーム『キミミチ』にどはまりしていた(連休中にこよみん姉宛に連絡がきたから一緒にいた私も知っている)から、彼女にそんな暇はなかったはずなのに。
そもそも、普段から有能な仕事ぶりだから連休中は仕事を忘れてゆっくり『キミミチ』を楽しんでほしかったのだ。
何があったのだ、と連絡したらこよみん姉はとにかく今は聞かないでくれと言うから何とか聞かずに我慢していたが、ようやく明日は連休後の初めての休みの日だ。
……コンコン。バタバタ。
今日か明日にはそろそろ何か連絡してくれてもいいだろう、してくれなければこっちからしてやる、と思いながら研究室にいたら、突然、何故か雀が窓ガラスを突いてきた。
……バタバタバタッ!
激しいリアクション。
ケガでもしているのかと窓を開けてやったら、電源がオンになっていたパソコンに一目散。器用にキーボードを叩く。
『こよみまといさまのおねえさまにたいへんなことがおこりますどうかいつしよにいらしてください』
……見事なくちばし打法。小文字を打たないところに緊迫感がある。
暦まとい様のお姉様は一人しかいない。
どうやら、恋人の一大事らしい。
鍵だけはきちんと掛けて、雀と共に行くことにする。あ、パソコンのバックアップもちゃんとしてからだ。
……もしもがあると、
今の私の他人との関わりのボーダーラインは、暦姉妹限定で、かなり低い。
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