8-幻の御方とわたくし
夢を見ました。
不思議な材質の薄い板に包まれた、箱に似た魔道具の中に、わたくしは存在しておりました。
……どうやら、精霊獣召喚大会の日の様です。記憶と良く似た、少し違いのある光景。
わたくしは大きな方を召喚しておりました。愛らしいポフポフとされた鳥のお姿ではなく、凛々しい白い獣のお姿ではありましたが、纏われている雰囲気であの白い大きな方である事が分かりました。
「やった! すごくカッコいい白い召喚獣さん来てくれた! ナーハルテ様、これで皆助かりますよね?」
箱の外から、どなたか若い女性のお声が聞こえました。
わたくしを案じて下さっているのでしょうか。
大丈夫です。皆様助かりますよ。白い大きな方は我々を助けて下さいます。ご安心下さいませ。
わたくしを案じて下さった方にそのようにお返事を差し上げようとしても、声が発せられません。かろうじて示す事ができたのはあの言葉だけでした。
「お願い致します。貴方様のご同輩に安らかにお戻り頂けますよう、お力をお貸し下さい」
『心得た』
白い大きな方は、瞬時に消え去られました。一陣の突風の如き雄々しさであられます。
白い大きな方のご勇姿をきちんと見届けようと致しましたが、姿勢を保つ事ができませんでした。
わたくしはこれ程疲弊していたのですね。仕方がございません。魔力の残存を考えずに力を使ったのは初めてです。
それでも、最後に、魔道具の外から声を出された御方を拝見する事ができました。
黒曜石に似た、髪と瞳の女性。わたくしとおなじ位のお歳でしょうか。
婚約の顔合わせで女王陛下から許可を頂戴し拝見致しました王宮の国宝、初代国王陛下のご肖像の面影が感じられる不思議な御方は泣いておられました。
「ナーハルテ様ぁなんで貴女だけが頑張るのぉ。周りを頼ってよぉ。て言うか、私が貴女をお助けしたいぃ」
黒曜石の御方は、わたくしを思って泣いておられたのです。……お優しい御方。
どうかお泣きにならないで。
彼方の御方の涙を拭って差し上げたくて、なけなしの力を振り絞り、手を伸ばそうとしましたが、魔道具の中の住人であるわたくしは、自分の意思で体を動かせません。
「まぬけ王子もさぁ、ナーハルテ様にちゃんと自分の気持ちを伝えて、尊敬しているけど結婚は難しいって婚約破棄してもらって、友達にでもなればいいんだよ! あんたが意外とまぬけじゃない、むしろ割といい奴だって、分かりにくいんだから! あぁ、ナーハルテ様、気絶してしまわれた……あ、良かった。知の精霊珠さんが保護してくれた……」
……わたくしはまた意識を失ってしまったのですね。
それにしましても、あの御方はなぜ、あれ程までにわたくしの事を思って下さるのでしょうか?
……何故でしょう。あの御方の事を考えますと、胸が苦しいのです。初めてお見かけした方なのに、どうして?
目を覚ませましたら、偉大なる白い大きな方にお訊きすれば、あの黒曜石の御方を知る事がかないますでしょうか?
わたくしは、早く目を覚ましたく存じます。
その様に願いましたら、
『了解した』
あの白い大きな方のお声が聞こえました。
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