貧乏神と福の神
平 遊
第1話 謎の祠
(あ~・・・・オレ、ほんとに就職できんのかな、こんなんで)
何とか一次の書類選考を通過し、面接にまでこぎつけた会社から送られてきた、いわゆる『お祈りメール』。
このメールを見るのはもう何度目だろうか。
数える事すら、嫌になる。
(今回は結構、自信あったんだけどな)
クタクタになったリクルートスーツをクリーニング店に持ち込んだ帰り道。
溜め息を吐いた
(もし、一等が当たったら・・・・就職なんてしなくたって、食っていけんじゃね?!)
弱気になった時にこそ、人は大きな夢に縋ってしまうものなのだろうか。
吸い寄せられるように、希一の足は宝くじ売り場へと向かい始める。
ほぼ同時に、反対方向から現れた人影がもう1人。
危うくぶつかりそうになった相手は、なんと希一と同じ大学に通う友人、
「なんだよ、真人。お前もか」
「えっ、キイっちゃんも?!」
希一に同じく、真人も現在就職活動に苦戦中。
内定を手にすることができていない者同士、宝くじ売り場の前で偶然バッタリ顔を合わせるなんて、これはもう、苦笑を浮かべるしかないだろう。
真人は、大学に入ってから出会った、今や希一にとっては同志とも言える親友。
相談して決めた訳でも無いのに、選択した一般教養の授業はほぼ同じ。
ゼミも同じで、バイト先まで一緒。
おまけに、彼女いない歴=年齢、というところまで一緒とくる。
お互い現役で大学に入っているから年は同じはずなのだが、どちらかと言えば内向的な真人は、学内で唯一、希一の事を『キイっちゃん』などと呼び、何故か希一を兄貴分のように慕っていた。
だが、多少パチンコや競馬などのギャンブルを嗜む希一とは異なり、真人は真面目そのもので、誘ったところであまり乗っては来ない。
飲みに誘っても、それほど大酒を飲む方では無く、どちらかと言うと、酔った希一の愚痴の聞き役となってくれることが多い。
そんな、真面目が服を着て歩いているような真人だから、希一は真人が宝くじ売り場に現れた事自体に、驚いていた。
(真人が宝くじなんて、珍しい事もあるもんだなぁ)
「ま、買わなきゃ当たらねぇからな」
「うん。そうだよ。買わなきゃ、当たらないんだよ」
希一の独り言のような言葉に、真人も独り言のような呟きを返す。
買ったって、そう簡単に当たる訳じゃないけどな。
そう口にしようとした希一は、思い詰めたような横顔の真人に、口を噤んだ。
(こいつも相当、追い詰められているんだろうか)
就職活動に専念するためにバイトのシフトを減らしていた希一も真人も、懐に余裕がある訳ではなかったが。
お互いになけなしのお金で宝くじを購入すると、
「じゃあな」
「またねー」
お互いに手を振り、宝くじ売り場を後にしたのだった。
(あれっ?こんなとこに、こんなんあったっけ?)
独り暮らしのアパートへの帰り道。
道端に捨てられていた空き缶を拾ってゴミ箱へ捨てようと屈んだ希一は、生い茂る雑草に隠された小さな祠の存在に気が付いた。
随分と古そうなその祠は、今ではお参りする人もいないのか、賽銭箱もお供えものを乗せる台すら、朽ちて壊れそうになっている。
割と頻繁に通る道であるにも関わらず、今さらながらに気付いた事に、希一の胸に、驚きと、少しの申し訳無さが沸き起こった。
(せっかくだから、お参りでも、して行くか)
何の神様を奉っている祠なのかは分からなかったけれど。
今まで気付きもしていなかったお詫びの気持ちも込めて、希一は祠の前の賽銭箱に財布の中の小銭を投げ入れ、深々と頭を下げて一礼し、両手を合わせて目を閉じる。
だが。
(美人な彼女がほしい。就職したい。宝くじ当たりたい。金持ちになりたい)
頭に浮かぶのは、悲しいかな、素直な願望と言う名の欲求ばかり。
ハッとして目を開け、慌てて頭を振ると、希一はもう一度手を合わせて目を閉じた。
(やべっ。違う違う。すんません、今まで全然気づかなくて。これからはちょいちょい、お参りに来ます)
合わせた手を離し、再度深々と一礼して、希一は祠を後にする。
何やら声が聞こえたような気がして振り返ったが、そこには誰の姿も無く。
気のせいかと、希一はそのままアパートへと戻ったのだった。
『姉さん、これが最後の機会よ、きっと』
『そうね。彼に託してみましょう』
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