ドケチ自衛官カップル駐屯地を満喫します 外伝

防人2曹

外伝1 鳴無家の年末年始宮崎旅行 前編

「パパァ、お帰りなさーい!」

「パパ、おかえんなたーい!」


 啓太が帰宅して玄関を開けると、今年4歳になる恵子と2歳になる啓聡が玄関に飛び出してきた。

 鳴無家は、啓太と恵里菜が結婚して営外者になったときに住みはじめた賃貸物件と同じ家に住んでいた。

 3年前に部内幹候で三等陸尉に昇進した啓太は原隊の第304基地通信中隊電話隊の隊長として復帰していた。

 

「恵子、啓聡、ただいま」


 制服姿の啓太は手に持った制帽を被ると走って飛び込んでくる恵子と啓聡を両腕を広げて受け止める。

 数年前に紫紺色に変わった制服の冬服第一種と外套に身を包んだ啓太にそれぞれ片手で抱き上げられた恵子と啓聡はキャッキャと笑いながら喜んでいる。

 啓太は二人の子供を抱きかかえながらリビングに入っていくと、夕食の用意をしていた恵里菜が洗った手をエプロンで拭きながらキッチンから出てくる。

 

「あ、パパ。おかえりなさい」


 恵子が生まれてから、啓太と恵里菜は「パパ」「ママ」と呼び合うようにしていた。

 

「あ、ママ。ただいま」


 啓太は子供たちを抱きかかえたまま恵里菜の唇に「ただいま」のキスをする。

 こうすることで仲のいい親であることを子供たちに教えることにもつながるからというのはで、結婚してから「行ってきます」「ただいま」で都度キスをするのが習慣になっていることでもあったので、当然恵子にとっても啓聡にとってもごく当たり前の光景でもあるのだった。

 

「あ、パパァ、わたしにもキスしてー」


 と左腕に抱きかかえられている恵子が催促してくるので、啓太は恵子のぷにぷにの頬にキスをした。

 

「ブー! パパ、キスは唇なんだよー!」


 と恵子は啓太の顔を両手でつかんで啓太の唇にキスをする恵子。

 おませさんな恵子である。

 

「じゃあ、ヒロくんにはママがしてあげようねえ」


 と恵里菜は啓聡の頬にキスをする。母親にキスをされた啓聡はくすぐったそうにしながらもキャッキャと嬉しそうにしている。

 

「ほら、2人共。パパから降りてあげないと、パパお着替えできないでしょ?」


 と恵里菜が言うと、恵子も啓聡も「はーい」と1人ずつ恵里菜におろしてもらう姉弟。

 二人の子供をおろした啓太は制帽を脱ぐと、「わたしが持ってあげるー!」という恵子の頭にかぶせると、手に付けていた手袋を両手を広げて待っている啓聡に渡した。

 2人共嬉しそうに大事に持つと、両親を追って2階に上がる。

 啓太と恵里菜は寝室に入ると、啓太から受け取った外套と上着を受け取った恵里菜がそれぞれをハンガーにかけていく。そして子供たちが持ってきた制帽と手袋を恵里菜は「ありがとう」と言いながら2人の頭を撫でて受け取ると制帽を帽子掛けにかけ、受け取った手袋を手袋ハンガーにかけていく。

 

「あ、今年の年末年始は宮崎に行かないか?」


 と啓太が恵里菜に言うと、即座に

 

「宮崎ってどこー?」

「宮崎ってなにー?」


 と恵子と啓聡が食いつく。

 

「いいの?」


 元自衛官である恵里菜は幹部となった啓太の立場も考えてそう確認する恵里菜。

 

「いいよ。中隊長には行動計画案を出して許可も取ってあるから」


 と啓太が言うと、恵里菜の表情にパッと花が咲き啓太に抱き着く恵里菜。

 二人がハグし合ってるなか、足元で恵子と啓聡が「宮崎ってどこ、何?」と聞いてくるので、啓太と恵里菜はしゃがんで二人の子供に「宮崎はパパとママが初めて一緒に旅行したところで、結婚式を挙げたところ」だと説明すると、啓聡はよくわからないと首をひねっているものの、最近さらにになってきた恵子はぴょんぴょん飛んで、

 

「行きたい行きたい行きたーい!」


 と大喜び。

 そんな姉の恵子につられて、よく理解しないまま恵子と同じく「行きたい」という啓聡。

 二人を抱き上げたバカップル夫婦は、

 

「じゃあ、宮崎旅行の計画を立てよう!」

「「「「おー!」」」」


 と、4人一斉に拳を上に突き上げたのだが――

 

 バリンッ!!

 

 という音と共に突然部屋が暗くなった。

 4人ともに真上のシーリングライトを見る。


「あ――」と固まる啓太。

「え?」と恵里菜。

「わ! 真っ暗!」と啓聡。

「あーあ……」と恵子。


 犯人は啓太であった。

 啓太が拳を突き上げた際、シーリングライトのカバーを突き上げてしまい、中の蛍光灯を割ってしまったのである。

 

「パパ、上には気を付けようね」


 と啓太に抱っこされたまま真顔でいう愛娘に「はい、すみません」と謝罪する父啓太であった。

 部隊では隊長を務める啓太であったが、愛娘から見たヒエラルキーは一番下に下落した瞬間であった。

 その後啓太は恵里菜に手伝ってもらいながらシーリングライトの蛍光灯を予備のものと交換して復旧させたのだがその場を見ていない恵子にとって最底辺になった啓太のヒエラルキーはそのままなのであった。

 

 

 

 翌日、お隣吉田夫人の茜と一緒に吉田一曹宅の次男敏文と恵子を幼稚園に送り出した後、恵里菜はまだ幼稚園には行けない啓聡と一緒に宮崎旅行の計画を立てることにした。

 旅行は4泊5日にしてどこを優先的に回るかを決める。ただ宮崎は子供たちが遊べるようなテーマパークはないため、史跡巡りをするか神社巡りをするか、日本一と言われる青い海を見に行くかになるのだが、時期は冬であるため海水浴というわけにはいかないが、「宮崎の海岸を家族で歩きたい」という夢を持っていた恵里菜は宿泊先を決めてそこから車で移動できる先を決めることにした。

 啓太が帰宅後、恵里菜が決めた旅行スケジュールに決定した。旅立ちは啓太が休暇に入った翌日である。

 

 

 啓太の休暇前のクリスマスの朝――。

 目覚めた恵子と啓聡が枕元の大きな靴下の中にプレゼントの箱を見つけて大喜び。

 

「パパ、ママ! 見て見て! サンタさんからのプレゼントがきてたんだよ!」

「パパ、ママ! 僕にもきてた!」


 子供二人はリビングの床に座って大興奮で包装紙をびりびりに破いていく。

 そして――

 

「あ、クマさんだ! 見て見て! クマさんのぬいぐるみだよー!」


 と大はしゃぎの恵子。

 そしてなかなか包装紙が破れなくて半泣きで苦労しながら包装紙をやっとのことで外した啓聡は、

 

「わ、ラジコンだ! パパ! 戦車のラジコンだよ!! 見て見てー!」


 子供達はプレゼントの中身に大興奮。恵子はクマさんを抱きしめながらぴょんぴょん、啓聡も恵子に触発されてまだ開けてない戦車のラジコンを箱ごと必死に持ってぴょんぴょん。

 子供ってかわいいよね――。

 

 

 

 ☆☆☆ ☆☆☆

 

 

 

 そして休暇を迎えて出発の朝6時――。

 宮崎へは自家用車で行くことにした鳴無家はすでに全員が起床し、準備万端。

 

「パパ、早く早く!」


 と啓太を急かす恵子を啓太はなだめる。

 

けいちゃん、まだ朝早いから静かにね。静かにできる人」


 と啓太が言うと、左手を口に当てて右手を挙げると「はーい」と小さな声で応える恵子。

 

「うん、恵ちゃんはいい子だねー」


 と啓太が恵子の頭を撫でると、

 

「エヘヘ、パパに褒められた」


 とご満悦の表情を浮かべる恵子。

 対して啓聡は起きてはいるのだがまだ眠たそうにしている。

 

「俺荷物積んでくるから、ママは子供たちをお願いするわ」

「了解、隊長殿」


 と元自衛官らしいびしっとした挙手の敬礼をする恵里菜。その母親の真似をする恵子と眠そうにしながらも必死に挙手の敬礼をする啓聡に、啓太も挙手の敬礼で答礼して荷物を車に積み始めた。

 7人乗りのフ〇ードの3列目を前日に起こしておいたので、そこに荷物を積んでいく啓太。恵子が生まれる前にも二人で旅行とかもしたのだが、その時は荷物なんて二人分だったけど、今は四人分の荷物。啓聡ももうおむつは卒業しているのだが、念のためにと数枚入れているし、替えの下着も結構入れているのでその分荷物がかさんでいたりもするのだが、ぶっちゃけこんな荷物災害派遣で出動するとなった時の荷物に比べたら高が知れている量でもあるので、積載もあっという間に終えてしまう啓太。

 そんな父親をみていた恵子は、

 

「ママ、わたしね、将来パパと結婚するの」


 と母親に言ったのだが、子供の言う事なのに、

 

「パパはママの旦那様だから、恵ちゃんが取っちゃダメなんだよ」


 とマジ回答するやっぱりズレた恵里菜であった。

 そしてマジ回答された恵子はというと、その場でぽかんとするのであった。

 

 

 

 全員が車に乗り、啓太の運転で旅行スタート。

 助手席にはチャイルドシートに乗る恵子、中席には恵里菜が助手席側に座り、運転席側にはチャイルドシートに啓聡が座っている。

 まだ早朝であるためそんなに車の量も多くない福岡市内の国道を南下して太宰府インターで九州自動車道に乗った。

 高速に乗り、時速90キロでクルーズコントロールを入れた啓太はアクセルから足を離してブレーキペダルの前に足をおいた。

 高速通り過ぎる景色に恵子も啓聡も大興奮。朝眠そうにしていた啓聡も車にのってしばらくすると完全に目を覚ましたのである。

 途中、広川と北熊本のサービスエリアに停まり、トイレや朝食を取った。

 朝食は前日から恵里菜が用意していたサンドイッチであった。

 恵子や啓聡様には小さくカットしたお子様用の四角いサンドイッチ、啓太と恵里菜には二等分にした三角サンドイッチを用意して、車内で食べた。食事の時ばかりは恵子も中席の真ん中に座ってチャイルドシートでちょっと高いところに座っている啓聡の世話なんぞを焼きながらしっかりお姉ちゃんもしていた。そんな恵子に啓太も恵里菜もほっこりしたり。

 北熊本を出ると、嘉島ジャンクションから九州中央道の片側一車線無料区間に入り、山都中島西インターを降りると、そこから国道445号線で南下して国道218号線で一路高千穂峡へ向かった。数年前に起こった熊本地震によってまだ完全復活したわけではない高千穂峡の貸しボートであったが、この日は貸しボートに乗れるというので、鳴無一家はボートを借りることにした。

 

「あら、ご家族4人なんですね。定員は3名なんですが、今だと親子の確認が取れれば2艇で1艇分のお値段になりますがいかがでしょう?」


 と受付のお姉さんに言われた啓太は恵里菜と恵子、啓聡に聞いて、2艇借りることを伝えると親子の確認を取るというので、啓太は自衛官診療証を、恵里菜は恵子、啓聡の名前ものった防衛省組合員証を提示して2艇借りた。

 啓太のボートに恵子が、恵里菜のボートに啓聡が乗り、ボートを出した。まだ朝早く、ボートに乗るのも今日が一番目だという事もあって、ほぼ貸し切り状態で川を進む。途中滝の近くに行くと、恵子が「写真撮る」というので、デジカメを恵子に渡して恵子がパシャリ。啓太が見てみると、恵子の指のアップがすべてを持って行ってしまっていたので、ボートを下げて、恵子、恵里菜、啓聡が全員入るところで滝をバックにパシャリ。3人ともにピースサインでニッコリ笑顔であった。

 すると、恵子が啓太とツーショットで写りたいというので、恵子を抱くようにして滝をバックにシャッターを押した瞬間、恵子が啓太のほっぺにキスをして、その瞬間が激写されていた。

 恵子はそれで大満足で啓太の言う通りに以降おとなしくしていた。

 

 30分フルに使って五ヶ瀬川の渓谷を堪能した鳴無一家は、しばらく高千穂峡と五ヶ瀬川を見て回って、10時を過ぎたあたりで高千穂峡を後にして、延岡市経由で東九州自動車道で西都インターで下りると、西都原古墳群を見に行った。

 車内ではボートで大興奮だった子供達含めて恵里菜も熟睡。この日のためにと持ってきていたアン〇ンマンや機関車トー〇スのDVDもほぼ垂れ流し状態であったのだが、これが啓太の眠気防止にもなっていたようであった。

 

 西都原古墳群に着いた鳴無一家は、たくさんある古墳をみて子供達は大はしゃぎ、資料館に入っても大はしゃぎ思想だったので、事前におとなしくしてたら旅行中良いことあるよとエサで釣っておとなしくさせてから資料館に入った。古墳群で出土した品の数々をみて、啓太と恵里菜は学校では教えてくれないけど子供達のためになる教育をしていこうと誓い合うのであった。

 

 西都原古墳群をあとにした一行は、そこからバイパスに乗り、一ッ葉有料道路に乗って一路南下。途中宮崎空港のそばを通って、飛行機の発着を休憩がてらしばらく見てから旅中お世話になる、啓太と恵里菜が婚前旅行と結婚式でお世話になった青島グランドホテルへと向かった。

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