モデル

夏伐

第1話 窓

 私の武器は針と糸。

 私の陣地以外は毒素で覆われている。


 陣地、私たち家族が住んでいる一軒家の二階部分。それ以外は全部毒素の海だから、息が出来なくなる。


 部屋には友達がいる。

 小さい頃に買ってもらった女の子の人形。


 そういう人形の服を作ってネットで売っている。たまに、ぬいぐるみなんかも作っていたりする。材料は通販で。玄関に向かう時はずっと息を止めている。


 唯一外につながっているのは窓だ。

 窓の中には綺麗な海が広がっている。

 その海で私はやっと自由に息をして言葉を発することができる。

 あるとき、私と同じように人形の服を作っている人からメッセージが届いた。


「今度会いませんか? うちの子をお見せしたいです」


 その人とは普段から仲良くしていて、個人的なメッセージのやり取りや人形の写真を撮ってお互いに送りあっていた。

 でも、外には出たくない。

 私は正直にそれを伝えた。


「あの、やっぱり外はまだ……」


「そうですか……。またお誘いしますね♪」


 気を悪くしないだろうか。不安がお腹をつついた。


「これがうちの子です」


 すぐに届いたメッセージには画像が添付されていた。

 ズラリとならぶ、死因不明な人形たち。

 そこで一番大きく映っていた人形は私にそっくりだった。

 他の人形にも不思議なリアリティがある。


「かわいいですね」


 私にそっくりな事を除いては。

 他の子もとてもチャーミングだ。やっぱりこの人とは気が合うと思った。


「そうでしょう? あなたをモデルにしたんです。この子は不安でお腹に腫瘍が出来て、でも外には出れないので治療も出来ずに死んだんです。この子をあなたに見せたくって!」


 私は外に出ていない。

 本当の窓もカーテンでふさいでしまっている。

 寒気がして私はパソコンのコンセントを引き抜いた。


 人間が怖いおかげで個人情報はほとんど教えていない。家を特定はされていないはずだ。だが……。


 底知れない恐怖が私に押し寄せた。

 これなら毒素の中にいた方がマシか……。

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