琴乃VS鷹

 不貞腐れながら雪だるまを作る伊吹をよそに、琴乃との安定した打ち合いに正直嫌気がさしていた。 伊吹はさっき俺が勝ったら好きにしろと言ったのに、結局やいやい言われて琴乃と羽根突している。 もう少し暖かければ楽しめただろうけど、あいにく今はすごく寒い。 こちらから身を引けばいいのかもしれないが、この極寒の中ほぼ氷水で顔を洗う羽目になるのは御免だ。


 とはいえ、相手は人並外れた動体視力と身体能力を持つ時雨琴乃だ。 少し回転をつける程度では普通に打ち返されてしまう。 もっと思いきり駆け引きする必要がある。


 大きな弧を描くように羽根を高く打ち琴乃を後方へ下がらせてから、返ってきた羽根を素早く真っ直ぐ打ち落とした。


「はい雑魚〜!!」

「うるせー!!」


 琴乃は驚異的な速度で足元の雪を固めると、伊吹の額目掛けて雪玉を投げつけた。 伊吹も馬鹿じゃないなら挑発しなきゃいいのに……


「……おい鷹、筆貸せ」

「えっ、俺が勝ったのに出しゃばるなよ」

「うるせえ。てめぇ〇か‪✕‬しか書かねえじゃねえか。 俺じゃあいつに勝てねえんだよ」


 と、右手から筆を引っこ抜かれた。 上から引っこ抜かれたので墨汁が手にべっとり付いてしまい、思わずムッとしてしまう。


「なんで伊吹が書くんだよこの全敗雑魚男!」

「てめぇだって鷹に負けてるじゃねえか」

「お前には負けてないもんね!」


 無理やり琴乃の頬に馬という字を書いている間に、手に付着した墨を伊吹の羽織の裾で拭ってやった。 もちろん気付かれていない。


「なぁ鷹、なんて書いてる?」

「〝馬鹿〟って」

「……てめぇ、なんで俺のときは言うんだよ」

「ああ、ごめん」


 伊吹に心のこもっていない謝罪をすると、琴乃は羽子板をくるりと回して逆手に持つ。 そして伊吹が鹿を書き終えた瞬間に、相方の後頭部を羽子板でぶん殴った。


「……おいごら伊吹、やけに画数多いなと思ったら何書いてくれてんだよ!!」

「痛っ!! 事実を書いただけだろうが! 人の額にでかでかと〝ざこ〟って書いたくせして、些細なことでカッカしてんじゃねえよ!」

「私は平仮名で書いたからまだ愛嬌があるだろ!」


 ……だめだこりゃ。 二人が揉めているのを横目に羽子板と羽根を回収して、一足先に屋敷に戻った。




****


「なんじゃこりゃ、羽織にめちゃくちゃ墨ついてんだけど……てめぇか!?」

「違う違う!私じゃない!!」

「鷹が人の羽織で墨拭くわけねえだろ」



 おわり

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