鷹VS伊吹

「いい、俺は見てるだけでいいって」

「ぼんやり見てんじゃねえよお前も参加しやがれ! てめぇが殺人鬼ぶっ倒てくれよ……!!」


 見るからに乗り気じゃなさそうな鷹を伊吹が戦わせようとしているのだが、遠くから見ると大きい男が美少女をしつこく客引きしているように見える……


「なんで乗り気じゃねえんだよ」

「え、何なのお前ら寒くないの?」

「動いたら暖かくなってくるだろうが!」

「伊吹ほとんど動いてないじゃん」


 ごもっともだ。 鷹、かなり嫌がってるから無理強いでも無駄だろう。 大人しくボコボコにされに来たらいいのに。


「じゃあ、俺が勝ったら殺人鬼をぶっ倒せ、てめぇが勝ったら好きにしろ」

「……いいよ」


 鷹はあっさり条件をのんだらしい。 ……というか、なんで伊吹はそんなに私に勝ちたいんだ? そもそも鷹が私に勝てたとして、それは伊吹が私に勝ったことにはならないだろ。


 そんなこんなで始まった鷹と伊吹の異母兄弟対決だが、結果は見えている。 私がでかでかと書いてやった〝ざこ〟を額に貼り付けた男が鷹に勝てるわけが無い。……ざこだもの。


「いきまーす」


 鷹がふわりと打った羽根を無駄に高い身長を活かして高く打ち返す伊吹。


 鷹が打ち返した羽根は伊吹の額にある傷痕を隠している前髪を風圧でさらい、次の瞬間には後方の積雪に小さな穴を開けていた。


 伊吹は目をぱちくりさせたあと、雪に埋まった羽根を二度見する。


「……は?」

「ごめん伊吹。 負けたくないから回転かけた」


 袖の中に羽子板ごと両手を収納し、すました顔で挑発する鷹。 普段はおっとりしているように見えるが、実は負けん気が強い部分が剥き出しになっている……いや、寒いのか。


「は?回転? 何をどうやったら回るんだよ、羽根が。 あとさりげなく喧嘩売るんじゃねえよ」

「羽根は回そうとしたら回るけど……」

「あぁ? なに言ってんだこいつ、なんで回ってるのが分かっ……思い出したぞ。 てめぇ確かめちゃくちゃ目が良かっただろ! 俺たちが見えてない細部まで見えてるって訳か」


 確かに鷹は櫓から人探しするのも早いし、肉眼で光素や敵が放った魔術の流れが見えているらしいので目はかなりいい方だろう。


「待て待て、なんで私まで見えてない前提なんだ?」

「知るか。 鷹はどこまで細かく見えてんだよ」

「羽根が回転してるのとか、してないのとか色々」

「は?」


 と、伊吹は間抜けた声を出しながら眉を顰めた。


「見えるだろ、私でも見えるぞ」

「いや見えねえよ気色悪い」


 ……普段から目付きが悪い点からすると、もしかすると伊吹は弱いんじゃなくて、視力が悪いから反応できていないだけなのかもしれない。


「あの、書いてもいい?」

「ああ、おう……」


 鷹は硯の墨液に筆をひたひたさせながら伊吹に尋ねて、大袈裟にバツ印を書き込んだ。

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