第一回羽根突き対決

紫咲ソルト

琴乃VS伊吹

 羽根突き──それは、正月に行われる伝統的な遊戯。 無患子ムクロジの種に色鮮やかな羽がついたものを羽子板で打ち合う。 厄をはね、子どもの健康と成長を願うという意味があるらしいのだが……


 寒空の下、俺は不憫にも、やけに乗り気な琴乃と相変わらず喧嘩腰な伊吹の羽根突き勝負に付き合わされていた。 寒いので着物の懐に手を引っ込めて、二人の口喧嘩を傍観している。 正直、どう考えても琴乃が勝つとしか思えないのに、なんでわざわざ雪が積もった時雨城の庭で羽根突きなんかしないといけないんだ……こうなったら早く終わらせて炬燵に入ろう……。


「いくぞー」


 琴乃は羽根を上へと放り投げて、羽子板で打った。 カツンと小気味の良い音が響く。 伊吹が弧を描いて飛んできた羽根を打ち返すと、琴乃は獲物を狙う獣の如く鋭い目で羽根を捉え、ほぼ垂直に落とした。 ……瞬殺だ。


「てめっ、低いんだよ! 打ち合うのが羽根突きだろうが! 全力で地面に撃ち落としてんじゃねえよ!」

「伊吹、大人しく負けを認めろ。 私の勝ちだ」


 揉める二人を他所に、硯で墨を磨りおろして墨液を作る。


「鷹、筆貸して」

「ん」


 琴乃は硯に筆を浸すと、敗北した男を見るなり目を細めた。


「伊吹、デカい、縮め」

「クソちびが。 人間が縮むわけねえだろバーカ」

「そうか」


 琴乃はすかさず胸ぐらを掴み、足をすくって伊吹の体勢を崩す。 身長差を暴力で解決させた琴乃は、さらさらとした筆使いで伊吹の額に〝ざこ〟と書き込んだ。


「……おい、てめぇ、平仮名で雑魚って書いただろ」

「やだなー、私がそんな酷いこと書くわけないじゃないかー!」


 爽やかな笑顔で伊吹をどつく琴乃。 ……いやいや、でかでかと書いてるし。

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