第一章10 『2090年東京』

 俺はログアウトされ目を覚ました。十二時間ログイン不可か……まあ仕方ない。


 頬をちょんちょんされている。次はむにむに移行される。俺の頬を可愛がっている正体は妹の桜だ。可憐な笑みを見せながら、俺の頬を味わっている、黒髪ロングでハイパー美少女である。


「お兄様、おはようございます」

「あぁ、おはよう」


 俺がログアウトして戻って来る時は、柳生家の決まりの挨拶は「おはよう」である。そして、必ずカプセル近くの椅子に掛けて俺を待っている。俺はその理由に気づいている。


 それは――――俺達の家族の神隠しが原因だろう。


 2060年に開発運営会社MOがアルカディアを発表した。全世界で初めてのフルダイブシステムのゲームである。アルカディアは今までのゲームと格が違い、圧倒的なリアリティがあった。


 そのアルカディアを開発したのは桜の祖父母である、和泉総一郎と奥様の静江だ。そのゲームに全世界の人々は熱狂した。しかし、人々は直ぐに悲嘆にくれる事になる。それは2065年に和泉総一郎と静江は神隠しにあってしまう。この科学がかなり進んだ現代でだ。


 その事件は世界中に衝撃が走った。アルカディアを開発した二人が消えた。とても有名な二人の人間が消えたことに人類は恐怖した。最初は二人が消えた事に注目されていた。


 しかし、徐々にゲームを開発した二人が消えたという事で……アルカディアの運営がちゃんとされるのか――それに恐怖が移っていった。人々の杞憂はよそにその後も問題なくアルカディアは運営された。


 その時ピックアップされたのは、二人が消えたと言うよりも、アルカディアがちゃんと運営されるのかが、視点になってしまったのだ。当時17歳の息子を残して。その息子は桜の父親である和泉一織である。


 和泉一織は美幸という女性と結婚し2075年で子供を産む。俺が生まれたのは2074年である。

 俺の父親の柳生田海斗、母親の穂奈美と和泉家とは昔から仲が良く桜とは幼い頃からよく遊んでいた。それは俺の祖父が桜の祖父と親友だからである。


 しかし、それも束の間だった。今から5年前、2085年。


 俺の親、そして、桜の親が神隠しにあった。しかも今回の神隠しは、全世界で合わせて数千人の人が神隠しにあった。世間はやっと2065年の事を思い出し、検証を始めた。


 しかし、神隠しの原因やいなくなった人達は、現在でも見つかっていない。それから神隠しは起こっていない世間ではそう言われている――


 だが俺の2歳上の姉が消えたのだ。神隠しにあったのに不思議なのはニュースにすらならない。そして、なぜか失踪申請もおりない。――――


 俺と桜は血を繋がっていないが大切な家族だ。そして俺がログアウトして椅子に掛けて待っている理由は、俺がいなくなるか心配だからだろう。


「桜、俺はいなくならないぞ」


 と言い俺は桜の目を見つめる。また俺の頬をむにゅむにゅする桜。桜は俺の一言で理解して直ぐに告げる。


「お兄様、私がここに座っている理由は心配だからではありません。ただ、ただ、お兄様の頬を私のモノにするためですよ」

「なんだよ、それ」


「ふふふっ」と笑いながら桜はそう告げると椅子から立ち上がり。部屋から出ていった。


「お兄様はニブチンですね」




 俺はある事を調べるために連絡する事を決めた。俺は左手につけている金色のブレスレットPCに触れる。


『誰にコールされますか?』


「正堂さんに繋いでくれ」


『かしこまりました』


 音声システムで登録してある名前をAIに言うと、自動的に電話がかかる。相手に繋がると同時に、赤色の片耳ヘッドホンの形をしたホログラフィックが右耳に現れる。


 音声自動認証AIはかなり進んでおり。何百電話帳登録があったとしても、同一名だとしても、ほぼ百パーセントで自分が思っている相手に繋がる。これは本当に不思議である。


『太陽くん、どうかしたかい?』


「少し時間が欲しい。会って話せないでしょうか?」


か、夕方で良ければいつもの場所で』


「それでお願いする」


『わかった。じゃあまたね、太陽くん』


 俺は通話を切り、リビングへと向かう。しかし色々考えすぎて、感情を爆発させすぎたせいで、お腹が空いてしまった。


「桜、ちょっと出かけてくる」


 その言葉に反応し、俺をじっと見つめる桜だった。


「どうしてですか?」

「――――お腹が空いて」

「お兄様なら、私が何かお作りします」


 俺は少し焦る。俺はMKのチーズバーガーとチキンナゲットが食べたい。


「たまには外食もいいかなって」


 俺はしどろもどろになりながら言葉を続ける。だって桜の目線が強いんだもん。


「なら宅配ドローンをお願いすればいいじゃないですか?」

「それは……」


 俺の性格を知っている桜はそう言うだろう。わざわざお店に出向いて飯を食わず、ドローンで送って貰えば早いし楽だ。


「さっきゲーム内で十二時間のログイン禁止を受けてしまい。せっかくなら桜と出かけるのもいいかなって」


 俺はチラチラっと桜を見る。すると、桜は満面の笑みをしていた。


「お兄様!! 外食ですよ〜お兄様! 早く行きましょう」

「おっおう!」


 俺は直ぐに準備をし和風御殿から車に乗り込む。


 日本は15歳になると車に乗れる。ブレスレットPCからライセンスを申請するだけで直ぐに乗れる。ライセンスは申請して10分ぐらいで許可が下りる。15歳になれば誰でも車には乗れる、簡単だ。完全自動運転だからである。


 車に乗る際はライセンスが入っているブレスレットPCをつけている人が運転席でなければならない。まぁ、運転はしないが。俺達は車に乗り込む。音声システムが起動する。


『どこに行かれますか?』


 助手席でニコニコしている桜が告げる。


「お兄様! 一風堂に行きましょう!」

「あぁ最近桜が行きたいって言う和食料理屋さんか」

「お兄様にも是非、あのお味を知って欲しいのです」


 MKのチーズバーガーとチキンナゲットが食べたい。お腹空いた〜どう切り抜けようか。


「あぁ!」

「ふふふっ」


『では案内を開始します』


 車の中はハンドルもアクセルも何にもない。あるのは大きなモニターだけ。俺は横になりながらボーッしている。ボーッした俺は欲に負け音声認識に言葉を投げようとした。


「MK──」


『行先を変更します』


 すると、桜のハイライトが消えて鬼の形相になる。


「お兄様!! ファストフードで、す、か?!!!」

「いや、一風堂でお願いします」


『案内をそのままにします』


「一風堂、楽しみだな〜」

「じ――――」


 鬼の形相は消えたが桜の目線が痛い……。そして、そのまま和食料理屋に向かうのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る