第一章6 『疑問』
――――――アスラル共和国。
俺はリーマン草原からアスラル共和国に戻っていた。そのアスラル共和国はハジマリの街とも言われている。新規プレイヤーがダイブした先がハジマリの広場に飛ばされるので、それに因んでそう呼ばれている。
この国はかなり
俺は懐かしい街並みを見て、にこやかに微笑みながら歩いていた。この街は随分と久しぶりに感じる。トッププレイヤーとなると中々最初の街には訪れなくなる。しかし、俺の場合は訪れなくなった明確な理由がある。それは――この街の中央に位置する噴水広場に原因がある。
アスラル共和国には年一回毎に更新される銅像が存在する。二年連続、噴水広場で同じ銅像が立っている。ギルド白銀の巨塔のサン、レイン、アイク、アンリ、サラの五人の銅像だ。
今となっては何故か……懐かしい思い出だ。銅像を眺めていると俺と同じようにモデル黒猫の
「ねえねえ、お母さん! あれ勇者のパーティだね」
「そうよ!」
「大きくなったら、絶対にお嫁さんになる!」
「ふふふっ、じゃあ苦手なモノは無くさないとね」
「むぅ〜」
NPCでもこんな会話を当たり前の様にするのだからアルカディアは凄まじい。これはリアルを捨ててM廃人になる人もいるはずだ。何年もプレイしている俺ですら、未だにそう感じる。
M廃人:リアルを捨てアルカディアに潜り続ける者。
アルカディアは12歳になるとプレイする事ができる。これはかなり厳しく管理がされている。俺は12歳からこのゲームに潜っている。お金を稼ぐために――――とりあえずは冒険者ギルドだな。
ハジマリの街と呼ばれている事もあって、アスラル共和国の冒険者ギルドは二階建てで広大である。
アルカディアはサーバーが一つしかない。なので多くの新規プレイヤーがこの冒険者ギルドに出入りする。それに伴い、ここで働いているギルド職員も多くいる。NPCとプレイヤー関係なく働き、冒険者ギルドに訪れた人は空港みたいに人が捌かれている。
スタート地点のハジマリの広場にも多くの人が居た。だからこそ、これだけは……未だに疑問が残っていた。ティアはなぜ――俺を選んで蹴ったのだ。ティアの行動が不可解で仕方なかった。たまたま、偶然か――――
アルカディアは全世界で遊ばれている。その為、アースは地球をモチーフにしている。地図はリアルと同一である。もちろん海外勢も存在する。アメリカ、中国、ロシア、イギリスなど、殆どの国が楽しんでいる。その為、国によってスタート地点は変わる。
アメリカ在住の人がアルカディアにログインした場合、リアルと同じ、アメリカをモチーフとした場所にダイブされる。これをAフロアと言う。アルカディアでは、現実世界の国を〇〇フロアと呼ぶ、地図だけは同じである。アメリカの場合はワシントンD.Cに位置する場所、カルマ共和国がハジマリの街だ。
アスラル共和国はリアルでいう、愛知県に位置する場所にある。例えば、現実世界では日本の愛知県と言うが、アルカディアではDDフロアのアスラル共和国と呼ぶ。
アルカディアの言語は一つで共通化されており、その言語に名前はない。見る分も書く分も自動で変換される。
――――サラを探すのが、大変な理由。サラがリアルでは何人なのか分からないのだ。アメリカなのかドイツなのかそれとも――――こんな感じである。ギルドマスターのレインが日本人の為、アスラル共和国に銅像が立っている。
しかし、それ以外は同じギルドメンバーなのに現実世界の情報が分からない。いや――俺自身がリアルの事はあまり話さなかった。
地球をモチーフにしているアースだけでも大変なのに、未来をイメージして作られた星、シルスまで探す範囲があると――考えるだけで頭が痛い。だが希望はある。それは向こうから――サラからのアクションだ。
俺がインしなくなったって事が分かれば、ギルドの白銀の巨塔のメンバーは不思議に思うだろう――そうすれば早いものだ。
サラを見つけなくても、白銀の巨塔のメンバーに会えれば何かしらの次のアクションが出来る。数日経てばきっと――――その時の俺はそう淡い期待を抱いていた。
「よし、申請だ」
俺はカウンターへと向かった。待ち時間は一切ない。直ぐにギルド職員に応対してもらえた。
ファンタジー路線のアースでも、大都市のギルドカウンターで対応をする者は必ずHDPだ。HDPとはNPCとは違い、ホログラフィックキャラクターで人格はない。他と見分けやすくする為にHDPと言われる者はホログラフィックキャラクターである。
冒険者ギルドで案内してくれる女性のHDPの名前は、ルーシーと言い、無表情で人気を博している。青髪、青眼で種族は一応
「冒険者登録ですね!」
と言いながら愛想笑いも勿論しない、無表情のルーシーである。
「はい!」
カウンターで受付していると耳にすぅ〜と入ってくる。
「なぁなぁ! さっき見たかよ」
「あぁ! リーマン草原の謎の閃光だろ?」
「あれは新しいイベントか?」
「わからねぇ。マジでやべぇよな」
この話は――――俺だ。やはり、マジックバレットは危険だ――かなり目立つ。
「なぁなぁ、聞いたかよ!」
「お前のなぁなぁでわかったわ」
「ビビったよな!」
「あぁ、マジでビビった」
あのレールガン以上にビビる話か、俺はイケナイと思いながらも聞き耳を立ててしまう。
「白銀の巨塔のメンバーのサンが引退だってなぁ」
「あぁ! しかも、賢者のサラは脱退だもんな」
「二枚賢者が抜けるか〜」
「でも、もう補充したみたいだぜ!」
「まぁ、トッププレイヤーのギルドは入れ替えが早いって事だろ」
――――えっ……。サラが脱退。そして、俺が引退って事になっている。まだ数日しか経っていないのに……。補充だと――――
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