第一章2  『ハジマリ』

 俺は狼狽することなく直ぐにアルカディアの管理運営会社MOに連絡をした。それから数日が経ち、MOからの返事は貴方のアカウントは完全に消去されてます。

 どうしてそうなったのか不明。アカウントの復元は不可能。その後もMOからの返事は不明のみ……それだった。


 MOも今回の件は本当に判らないみたいだ。こんな事は今までに事例がない。万が一、アカウントを消去されたとしても復元はできる。今回はそれができない。それはアルカディアに何かしらのバグが存在していると言うことである。


 その明瞭をMOは明らかにしない、公にもしなかった。ハッキリとした証左が分かるまでMOは包み隠す様子だった。もし、公になれば全世界は大混乱になる。


 アルカディアのトッププレイヤーのアカウントが消えた。いや、どのプレイヤーが消えたとしても問題になる。それはその人が丸々消えたと同じ事である。公になれば直ぐに喧伝されるのは間違いなかった。


 その後のMOの対応は早かった――――MOは俺に口止めにかかった。MOが俺に提示したのは前キャラクターが所持していた、数十倍の金をリアルマネーで渡された。

 

 そして、なぜか数日経った後、メールにて新しいアカウントが俺に送られた。俺はそれを呑むしかなった。――――この件は隠蔽された。


 俺には後悔がある。自分のキャラクターに関しては思い入れはある。しかし……マネーを十分過ぎるほど貰えた。今後の生活費は全く心配がない程に――――


 一つ心残りがあるとすれば――それは……同じギルド白銀の巨塔のメンバーのサラだ。サラとはアルカディアでしか面識がない。もちろん、では一切関わり合いがない。


 幾許のエリアがあるアルカディアで人を探すとなると、何年かかるか想像もできない。しかもサラは目立つのが嫌いで、一切足跡を残さない。


 ――――けど探したい。それは……俺はサラに惚れているから。


「お兄様! 元気ないですね」

「……そうか」


 俺の好きなホットミルクをテーブルにそっと出してくれる桜。俺の舌はお子ちゃまで、コーヒーは飲めないのだ。

 桜には寂寥感が見えていたのだろうか。俺はいつも通り接していたつもりだが。


「お兄様! 諦めずに最初から頑張りましょう。お兄様なら絶対に大丈夫です。ゼロからスタートは逆に楽しいかもしれませんよ」

「あぁ、そうだな!」


 桜は俺の双眸をじっと見つめ、叱咤した。その言葉はいつも俺のガソリンになっている。桜の言う通りポジティブに行こう。邁進する理由がまだ俺にはある。


 次は何の職にしようか――アルカディアは一人一つのアカウントのみとなる。キャラクターの削除は一切出来ない。


 ステータスの振り直しや、戻すことも出来ない。これは人生と同じである。ゲームだが過去を直すことが簡単には出来ない。


 俺の前の職業は賢者だった。そして、俺のステータスはこうだった。


 ===============

 PN:サン<人族ヒューマン

 LV:99 JOB:賢者

 HP:3894/3894

 MP:9753/9753

 STR:53

 INT:999

 VIT:456

 AGI:999

 DEX:75

 CRT:125

 LUK:999

 ===============


 俺はアルカディアでお金を稼ぐ為に、ドロップ率などに影響が出るLUKにステータスポイントを全振りをしていた。


 それはシーカーになりたかったからである。シーカーとは、アルカディアでお金を稼ぐのに効率が一番いい職である。


 しかしながら安易に魔法使ってみたいと途中で思い。無知にそっちの道を選んでしまった。そして俺は職業の変更は出来ないと後で知り、後悔した。


 その後とりあえず、LUKと魔法攻撃に影響するINT、攻撃速度と回避に影響するAGIさえ振っておけば余裕だ――と思っていたが……余裕ではなかった。……それはただの火力バカだった。


 後衛なのに回避に振り、魔職なのに攻撃速度を上げる……命中と魔法詠唱速度に影響するDEXを後回しにしていたせいで、スキルの詠唱速度がかなり遅い。


 唯一の救いは、スキルディレイが短い初級魔法でも火力がかなりあったので、まぁまぁ……マシだったはず。今考えてると……すごい、いや、かなりのステ振りだったと思う。


 そう思い浮かべると、今回やり直しが出来るのは僥倖だったのかもしれない。


 とりあえず――次の職業はシーカーだ。俺はゲーム部屋に向かい、カプセルに入りダイブした。久しぶりのワクワクを知らずに感じながら――――



 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。



 ===============

 ようこそアルカディアへ。

 新たな世界がそこに。

 ===============


 声の主はアルカディアの広告キャラクターのルナだ。ルナは四種族の一つの機械人形メカである。ルナは青髪、碧瞳の壮絶人気キャラクターだ。アルカディアでは音声のみしか登場しないが。


 アルカディアは惑星が二つある。一つはRPGと同じような剣と魔法の惑星。もう一つは文明がかなり進化した惑星である。どちらの惑星に行ったとしても職業は変わらない。


 アルカディアのキャラメイクは見た目の根本も変えられない。骨格を変えたり、鼻を小さくしたり、年齢を変える、そういうのは全く出来ない。


 現実世界のオリジナルから変えていく事しかできない。出来る事は身長の変化、体重の増減、目の色を変える、髪の色、髪の長さを変える。


 前の俺のアカウントのサンってキャラクターは身長を185センチくらいにして、髪は銀髪ロングヘアー、瞳はグリーンにしたかな。若気の至りさ――――きっと、まぁ、幼い頃に作ったキャラクターだから仕方がない。


 ===============

 キャラメイクをお願いします。

 ===============

 

 さて今回はどうしようか。のんびりやるつもりだが、急ぐ必要も全くない。わざわざトッププレイヤーを目指したりはしない。

 サラを探すには、ある程度は強くなった方がいいのか? 仕方ない、一番選ばれている方法でスタートするか。


 ――――それは現実世界と同じ姿。


 アルカディアは、現実世界と同じ姿が一番選択がされている。それは、虚無感に陥らない為である。


 リアルの憧れをキャラメイクに入れすぎると、アルカディアから現実世界に戻ると酷い虚無感に陥るらしい。なので、現実世界と同じ姿が多いみたいだ。その原因は一番は恋愛絡みが多いらしいが……。


 後は広大なファンタジーを現実世界の姿のキャラクターで楽しみたいってのもある。まぁ――もちろんお金の絡みもある。


 アルカディアにダイブすると先ずは誰もが職業は冒険者だ。レベルが15になると一次職のウォーリアかメイジを選択が可能となる。俺はウォーリアを選択してシーカーの道を行く。


 ===============

 これでよろしいですか?

 ===============


 俺はそう考えながら画面が進んでいく。

 ――――OKだ。


 ===============

 ではよい――

 ===============

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る