カイムの空
縁肇
第1話 カイム、拾い物をする(途中執筆)
「キラキラ光る、夜空の星よ」
灰色の空。けたたましい落下音と衝撃音。
私、カイム・フライトは歌を口ずさみ、ゴミ山から大きい塊を仰け反って引っ張り出していた。
「瞬きしてはみんなが消える」
たくさんの悲鳴が木霊する。私の横を親子が通り過ぎようとしたが落下物が直撃する。私は爆風で世界が一回転した。その最中、親子は流れ星の様に八方に体と血が飛び散り、視界が赤く染まる。頭に強い衝撃を受け気絶した。
「はっ!」
どのくらい経ったか目が覚めると辺りは焼け野原。肉の焼ける臭いが鼻についた。私は即座に体の状態を確認する。手は動く。爪が剥がれて痛い。頭を触るとの血がべっとり付き意識が少し遠のいた。気をしっかり持ち直し、確認の続きを開始。金髪が焦げて短髪になってた。ああ、長髪が似合うって褒めてくれてたのに、兄さんに怒られる。衣服が真黒。耐熱繊維の服を3重に着込んだが、薄い膨らみが露出してしまった。兄さんが見たら卒倒する。「ふしだらだぁ〜」と父親みたい泣かれる。兄さん今は緊急事態だから許して欲しい。次に足に手を伸ばした瞬間。
「やばっ、義足が折れてる」
左足がくの字に曲がってる。私も体をくの字になって困った。カーボン製の特注品をあっさり変形させるとは。今回のお星様は相当に堅固な鎧をお持ちのようだ。思わず、口元が緩んでしまう。
状況は芳しくない。でも、最悪じゃない。
右足、両手、体は動く。杖になる物さえあれば移動出来る。ライバルは先の落下衝撃でかなり減ったはず。手に入れるのは私だ。動け。動かせ。
体に鞭を打ち、這いつくばって杖の材料を探した。ここはゴミ山、宝の山だ。されど、宝になるのはほんの一部で、使えない物が大半。特にこの星の墓場とも呼ばれた廃棄場は生還率50%以下の危険地帯。定期に空からのゴミが降ってくる。普通は先の親子の様にミンチにされ生き残れない。その点、私には庭みたいなものだ。ちょっと油断して足を折ってしまったが。家でくつろい出たら急の来客に足をつまずてコケた様なもの。そう。私は決して馬鹿ではない。
気を取り直して、辺りを捜索する。手頃な布が見つけ胸元に巻く。兄さんの安堵な表情が浮かんだ。続いて、使えそうな金属片を数本手に取り、足に充てがうも長さや太さが足りなかったり、形も合わない。どれもこれも駄目だ。
おかしい。私の庭なのに把握してるはずなのに。苛立ちって金属片を投げ飛ばす。運良くも金属片は遠くの方へと転がっていく。すると、もぞもぞと、動く気配がした。
「…………」
私は無言でそれを見つめる。
気配がデカくなり、出てきたのは小さな動物だった。
「かわいい」
夢食いのバグを思わせる愛くるしさだが、廃油を被っており、息が苦しそうだ。
「油を落とさなきゃ。何か」
辺りを見渡すと腐った水溜まり、油溜まりしかなく洗うには適さない。持ち物を確認してると胸元の布切れが目に入る。
私は溜息をつくと布を外して油を拭き取った。
この生き物をバグちゃんと名付ける。バグちゃんはとても気持ち良さそうだが、私は胸元がスースーして気持ち悪いが仕方がない。早く着替えたい。バグちゃんから油を綺麗拭き取ると抱きつかれた。この子物凄く温かい。寒さから自然と抱き返す。まだ、足に適した材料が見つからないが癒やしと天然湯たんぽを獲得出来たのは身体精神的にも大きい。やる気も出た所でバグちゃんを降ろそうしたが、この子離れない。そして、バグちゃんの肌が私の肌色と同化していく。
「お星さまの子……ですか」
この子はまだ幼体。成体はこの10倍は大きくなるし、何より親が探してるはず。見つかれば私は戦わねばならない。
「可愛くないな」
殺すのは可愛くない。私のポリシーに反するから。
唸り声が聞こえた。寒風を打ち消す咆哮に身がたじろぐ。予感は的中。バグちゃんの巨体。成体がこちらに向かってくる。瞳の色は赤。完全に敵視されてる。バグちゃんは親に反応して可愛い甘え声を出した。すると親バグちゃんが反応、瞳が黄色の点滅表示になるが私と目が合うと赤に戻り、速度が上がった。油に火を注いだらしい。バグちゃんの馬鹿。穏便に返せないじゃないか。ここで親を殺せば子は復讐に私を襲うだろうからさて、困った。
スターダスト。空から降りた怪物。私がお星様と呼ぶ材料様だ。お星様は私を見つけると突進してきた。周りの熱された岩を破壊しまくる姿は削岩機そのものだ。私は熱地に両手をつき、逆立ちする。折れた義足を迫りくるお星様に向け、衝撃に備えた。義足をお星様の側面に衝突した。私は体を弓なりし、棒高跳びのように衝撃力を利用して高く舞った。背中に乗ることに成功した。
「乗り物ゲットです」
ゴツゴツしてるが安定した乗り心地だ。これで家に帰れれば解決なのだが。このお星様様さっきから身体をあちらこちらにぶつけまくっている。熱された岩肌に巨大な芋虫の型が押されてスタンプラリーのようで見てる分には楽しい。もしかして方向音痴かしらなどと楽観視してると私側に岩壁が迫る。
ドでかい工場へと突き進んでいった。まずい。
「全体〜!前へ進め!」
大人数が規則正しい隊列を組んで進む。そして、工場の中に入り、ベルトコンベアーの前へ整列する。番号で呼ばれ、作業開始。俺は黙々とベルトコンベアーから流れてくる化物から皮を引き剥がす。時間の感覚も無く永遠ともいえる作業。逃げ出さしたい気持ちで一杯だが、それをしようものなら側にいる監視員にヤキを入れられる。こんな場所での生活に慣れてしまうなんて俺もヤキがまわったものである。そもそもなぜこんな奴隷みたいな事をやらされているのかを思い出した。化物と目が合う。虚ろな瞳で何を訴える事もなく、解体され不要な部分は捨てられてく。俺はこの化物、スターダストに隕石が如く落下し村の集落を破壊され、行き場のない村人達は奴隷狩りに遭う。選別を行われ、負傷者は置き去り、動ける者はここに売られたのだ。今、スターダストを解体してるが、本来、スターダストは硬い金属核に守られ、倒すのは困難。そこはスイーパーと呼ばれる狩人に倒されるのだ。と剥ぎ取るのは楽ではないが、このレーザーナイフはまるでバターの様に切れる。これを武器にしようと思ったがセキュリティが掛かって無理だった。
俺はこのままでいいのか。逃げる隙はないか。水鏡に映る自身の顔が見えた。化け物と同じく虚ろな瞳をして顔中ギズだらけだ。俺も化物と同じく腐って行きたくない。探すんだ。手を動かしながら周囲を確認する。天井は鉄筋やパイプが張り巡らせ、二階の踊り場に銃を構えた監視員。俺のベルトコンベアーから奥にも先が見えない程ベルトコンベアーと人が配置され、皆の顔は生気がなく、ゾンビのようだ。マスクをしてても鼻につく酸っぱい硫黄臭。監視員の装備は警棒だけだった。元々、逆らう気力を奪う程に働かされてるので、反抗する者がいないからだろう軽装備だ。あいつらから武器を奪うのが手っ取り早そうだがチャンスがない。
突然、警報がなる。
『スターダスト接近中、近くの監視員は警戒せよ』
少女が刺さったスターダストが工場の壁を突き破った。少女は手をこっちに振りながら、
「死にたい方はこちらにどうぞ〜」
作業者達が一斉に逃げる。
監視員達は二階の連中がスターダストを狙撃し、一階の連中は作業者達を取り押さえに掛かるが、スターダストが設備に手当たり次第衝突するので爆発。二階の踊り場は崩壊し、落ちる監視員達。手に負えないと逃げ出した。それにしても、スターダスが暴れてるのにそれを柔軟に対処する少女が凄い。しかも足がスターダストに刺さったまま。一体何者なんだ。
少女はささっだ足を引き抜き地面に降り立つと側転で移動した。そして、衝突によって壊れたレーザーナイフを手に取ると、
「これ、あなたの落とし物ですか?」
俺は首を横をふる。
少女はレーザーナイフを折れた足に接着する。そこからは解体ショーを見せられる。魚型のスターダストで綺麗な3枚降ろしにされた。解体中の少女に俺は裂けんだ。
「俺も連れてってくれ!」
「ん? 貴方は誰の落とし物?」
少女は解体に夢中で俺の方を向かない。
しかも会話が噛み合わない。だが、無理にでも合わせる。生き残るために俺は少女と歯車を噛み合わせる。
「俺はあんたの落とし物だ!だから拾わないと!」
「私の? ここで無くしたかな?」
「そうそう! ここで無くしたんだ!だから拾ってくれ!」
だんだん余裕が無くなってきた。スターダストが暴れたから工場が軋んでる。
荒れ果てた工場跡地で、俺たちは立ち尽くしていた。カイムが誇らしげに掲げたスターダストの核は、周囲の冷たい風を浴びてなお、不気味な光を放っている。
「ねえ、この核、すっごく可愛くないですか?」
カイムがキラキラした目で核を見つめている。あまりに無邪気で、そのギャップに思わず俺は呆れてしまった。
「おい、それを可愛いって言うやつ、初めて見たぞ。」
「そうですか?こんなにキラキラしてて、まるで星の欠片みたいです!」
カイムは核を大事そうに抱きしめ、まるで宝物でも手に入れた子供のように頬を擦り寄せている。
「いや、それ、危険物だぞ。大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ!こう見えて私、扱いには慣れてますから!」
自信満々に言い切る彼女を見ていると、本当にそう思えてくるから不思議だ。
だが、その穏やかな時間は長くは続かなかった。遠くから警備員たちが集団でこちらに向かってくる気配がした。
「おい、あんた!追手だ!」
俺が叫ぶと、カイムは核を抱えたまま軽快に跳ねるように立ち上がった。
「私が可愛く決めますから、少し下がっててください!」
そう言うと、彼女はレーザーナイフを片手に構えた。その姿勢はどこか優雅で、彼女が本気を出す瞬間の高揚感が伝わってくる
警備員の一人が先頭に立ち、警棒を振り上げてカイムに迫る。だが、カイムはニコリと微笑みながら軽やかに身をひねり、相手の攻撃をかわす。その動きはまるで踊るようだった。
「それ、可愛くないですよ~!」
警棒を避けながら、彼女はレーザーナイフを振り下ろし、警備員の武器を一瞬で破壊する。
「もっと可愛く動いてくれたら許します!」
敵の間を縫うように跳ね回り、次々と武器を破壊していくカイム。その間にも、彼女の口からは「これが可愛い正義!」
「動きがださいとアウトです!」
よく分からない基準で敵をからかうような声が響く。
だが、俺が感心して見ているうちに、敵の一部が俺の方へ向かってきた。
「おいおい、俺にも来るのかよ……!」
俺は必死で後退しようとするが、その時、頭の中に低い声が響いた。
「ヤキ、まわりを見ろ」
俺の体が熱を帯び、筋肉が膨張するような感覚が広がる。
一人の警備員が背後から鉄パイプを振り下ろした瞬間、俺はそれを反射的に腕で受け止めた。鈍い衝撃音が鳴り響き、パイプは真っ二つに折れた。
警備員が驚愕の表情を浮かべるが、俺はそのまま彼の腹に拳を叩き込む。吹き飛ぶ警備員の背後から、別の奴がナイフを振りかざして襲いかかってきた。
だが、そのナイフは俺の胸に突き刺さる寸前で、何かに阻まれた。
「お前の体は、通常のヒューマンの三倍の耐久性に強化されている。」
謎の声が冷静に響く。俺の体は痛みを感じることなく、ナイフを押し返した。
「それにしても……」
俺が安堵する間もなく、何かが俺の背中を貫いた。振り返ると、それは崩れた鉄格子だった。
「落とし物さん!!」
カイムの悲鳴が聞こえたが、俺は意識を失うどころか、鉄格子に突き刺さったまま動いていた。
「俺、まだ生きてるのか……?」
信じられない思いで呟くと、また謎の声が淡々と答えた。
「お前は私の力によって強化されている。多少の外傷では死なない。」
「それ、普通に考えて怖いんだが……!」
鉄格子を無理やり引き抜きながら、俺は警備員に向かって突進した。その姿を見た警備員たちは恐怖に顔を引きつらせ、次々と後退していく。
「お前ら、逃げるな!」
上官らしき男が叫ぶが、その声も虚しく、警備員たちは完全に戦意を失っていた。
戦闘が終わると、カイムが駆け寄ってきた。その顔には安堵の色が浮かんでいる。
「落とし物さん、兄さんのサポートがあっても、無理はしちゃダメですよ。可愛さが台無しです!」
彼女が俺の腕を引っ張り、傷口を確認する。
「いや、これだけやってまだ可愛さの話かよ……。」
俺は呆れながらも、どこかホッとしていた。カイムの明るさが、この地獄のような状況でも一筋の光に思えるからだ。
だが、頭の中に再び響く謎の声は、冷静だった。
「これからも私はお前をサポートする。ただし、お前がこの力を誤って使うことがあれば、その時は容赦しない。」
「分かってるさ……。」
俺は内心の葛藤を抱えながらも、再びカイムと共に歩き出した。この異常な力と、カイムの奇妙な可愛いイズム。これから先、俺たちの旅はさらに波乱に満ちたものになるのだろう――そんな予感を抱きながら。
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