クラス全員で撮った集合写真を、勝手に個人アイコンにするのはやめてほしい

たかた ちひろ

第1話 せめてちゃんとトリミングしろ。

終業式終わりのクラス会自体は、別になんの問題もない。


過ぎたクリスマスを惜しみ、冬休みのスタートを祝して、正月を迎える準備をする。


そのためなら、焼肉チェーンで馬鹿みたいな大食いをするのだって、寒いなか水風船を投げ合うのだって、ぜんぜん歓迎だ。


しばらく会わないだろう級友と、気色悪いくらい友情を確かめ合うのも別に悪くない。



ただ一つ。


クラス全員で撮った集合写真を、勝手に個人アイコンにするのはやめてほしい。


切り取ってリサイズするのも勘弁だ。

ちょっと編集が下手くそだったりすると、端っこに服や髪が写り込んで残ってしまう。


そんなものが、何になるって?


『ねぇ、佳苗(かなえ)のアイコンに映ってる服って、壮吾くんのよね? ねぇ、もしかして二人で何かしてたの。あたし、聞いてないんだけど』


思わぬ火種に化ける場合があるのだ。

火事に発展する可能性もあるので、要注意である。


こんな時は、早めに鎮火せねばならない。

俺はさっそく消火活動に取りかかるのだけど、


『違う違う。ただ写り込んだだけだよ』

『でも、肩組んでるように見えるんだけどぉ?』


メッセージの相手、凛子はなかなかどうして簡単には頷いてくれなかった。


最近は、特に顕著だ。

彼女とは、中学二年の頃から四年間、高二になる今も交際を続けているから、その変化のほどはよく知っている。


いつからかと言われれば、別々の高校に入った頃から。

彼女の家が引越したことにより、校区が別々になってしまったのだ。


遠距離でこそないが、その距離は近いようで、やはり遠い。


『肩組むなんて、その場のノリ的なやつだよ。他意はない』

『胸に触れてない? 二の腕さわさわしてない?』

『いや、写った角度の問題だって。断じて、俺から何かはしてないから』

『その言い方、向こうからは何かされたんだ?』

『誤解だっての。日本語が難しいだけだ』


いわゆる面倒な彼女、になるのかもしれない。

拘束が強く自信に欠けてネガティヴで、疑り深い。


誰かに話せば、そう断じられることもあるだろう。


でも、俺はそう思わない。

不安に揺れる彼女の思いの一端なら、自分の懐にだって似たようなものがある。



距離は、別に遠くない。会おうと思えば、すぐにだって会える。

でも、好きな相手の日常に自分がいない事実はどうしようもない。


乗り越えられぬ高い壁として、常に二人の間を割くように横たわっている。



たしかに凛子は、面倒な子なのかもしれない。素直で従順とは程遠い。


でも、好きになった彼女がそうならば、その面倒を買ってでも一緒に背負ってやりたい。



それが、彼氏の甲斐性というものだろう。



根気強く、粘り強く、彼女への弁解を終える。

その最中、一つ突飛な案が思いついた。


本来なら言い訳を考えるのも難しいところだが、


『大晦日の夜さ、初詣に行かないか? 知る人ぞ知る、隠れたいい神社を知ってるんだ』


時期が時期だけに、あっさりと切り出すことができた。


こんな最適の口実があるなんて正月には感謝してもしきれない。

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