お願いします神様!私達のために死んでください

佐倉未兎

プロローグ

 

「かなたんは好きな人いるー?」


 黄昏時、日は沈み始め、子供達は足早に帰路に着く。

 時刻は午後5時を回り、後1時間もすれば日は完全に落ちてしまう。


「何いきなり?そんなこと後で、いいから早く帰らないとお母さん達に怒られちゃうよ。急いで!」


 その日、鬼ごっこで足を挫いて盛大にすっ転び、着地で手を捻った私は、友人である佐倉周さくらあまねの背に乗っていた。

 今思うと本当何様って感じだ。


「大丈夫だよー、まだ完全に暗くなるまで30分くらいはあるからさ。で、どうなの?」


「わからないよ。あたしこんな性格だから仲の良い女の子、しゅうちゃんくらいしかいないし、男の子だってあたしのこと男の扱いしてるし…」


「そんなことないよ。そうやってかなたんが女の子らしくないと思って悩んでるとことか、素直になれないところとても可愛いよ」


「そんなことないし、だいたい、しゅうちゃんみたいにその、可愛い服とか似合わないし…」


「でも、私の服とかこっそり持ち出して着てるよねー。似合ってるんだから、着ればいいのに」


 ふっふっふと不敵に笑みを浮かべ、天音は私に、スマホに写る私のワンピース姿を見せてきた。

「見てたの…」

 私は顔を真っ赤にして周に尋ねる。

 その顔を見て、満足げに見つめ、

「うん♪」

 と、周り花が咲いて見えるような、華やかなな笑みを浮かべる。


 無念なことに怪我をして友人の背に乗る私は文字通り、手も足も出なかった。


「私はかなたんを人生の中での最推しと決めてるからね!いついかなる時だろうとかなたんの可愛い瞬間は記録してるのだよ」


「しゅうちゃん、それは気持ち悪いよ」


周は何故か得意げな顔をしている。


 私はせめて口で反撃しようと、


「じゃあ、しゅうちゃんは好きな人は好きな人いるの?」


 と、彼女の粗を探す。

 でも、私の思いとは裏腹に、


「あたいはいつだって、かなたんのことが1番だよー」

 

「またそんなこと言って、はぐらかすんだから。女子じゃなくて男子とかいないの?」


「いないよー。ほんとのほんとに私が好きなのは、かなたんだよー!その証拠に」


 不意に私の頬に柔らかい唇が触れる。

「ふぁっ」 

 思わず、変な声が出る。


「ふふーん、次はその唇貰い受けるー」


 頭が沸騰したため、この後の記憶が無く、次の日から私達は親友を素っ飛ばし恋人同士の関係になっていた。


戸惑った私の困り顔を見て楽しそうに見つめてくる周はいつも口癖のように、


「早く、この気持ちを受け止めてねー

かなたん」


と笑っていた。


   

  * * *


 「あの時、顔から火が出るを通り越して灰になって消えてしまいたい程、恥ずかしかっんだよ。可愛い服に袖を通す時、周りを確認するのがルーティンになるくらいだし。」


「あの後、お母さんにめちゃくちゃ怒られたよね。お互い一週間外出禁止になったけど、こっそり抜け出して遊んだり…」


 周りが少し騒がしい。

 雨上がりのぬかるんだ道を歩きながら、私は背中におぶっている親友にわざとテンションを上げて話しかける。


 親友は少し疲れているのか、返事が無い。

 私は気にせず話を続ける。


 お互い雨に濡れたのと親友の体温のせいか背中に生暖かい何がじんわりと広がる。

 歩くたびにポタポタと水滴が垂れる。


「今日まで、確かに私達は友達以上の関係だったけど、結局私から好きって言ってなかったかな」


 「あれから多少、女の子らしくなったとは思うし、仲の良い女の子友達も出来たし、周りに馴染めるくらいには人間関係が立ち回り方もわかってきたから…」


 だから大丈夫だから、またいつも日常に戻れるから。


 私はそう言い聞かせて振り返ることなく、ひたすら真っ赤な絨毯の上を歩く。


 なぜなら、振り返った瞬間現実に引き込まれてしまう気がしたから…




 



 


 

 




 


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