第2話 ツリとの契約
精霊の加護
Zu-Y
№2 ツリとの契約
帰って来た。
15歳で村を出て、1年目に1回帰省したから、3年半ぶりのラスプ村だ。
3年半前の帰省のときは、両親以外では神父さんだけが喜んでくれたっけ。神父さんにも挨拶に行きたいが、まずはツリに会いたい。俺はクレを連れてそのまま森へと入って行った。1時間ちょっと歩いて、木の特大精霊、ツリの縄張りに着いた。
「ツリ!」
『え?ゲオルク!』ツリは俺を見ると寄って来て、飛び付いて来た。軽いがちゃんと質感がある。とうとう実体化を身に付けたようだ。
そのまま両手で頭をつかまれ、濃厚なキスをされた。契約の儀式だ。ツリの体が緑色に輝き出す。
『ぷはぁ。これで、契約、成立!』
俺はいわゆる高い高いの要領で、緑色に輝くツリを抱き上げて言った。
「ツリ、見掛けは幼女なのに、キスは大胆なのな。」軽い。ほとんど重さは感じない。でも質感はしっかりしている。
『男の子が、よかったか?』
「いや、女の子でよかった。ロリコンじゃないけどね。」
『ろりこん?』
「いや、いい。気にしないでくれ。それよりツリ、ずいぶん軽いのに、実体感あるな。」俺はツリを左肩に乗せた。
『ゲオルクが、迎えに、来たとき、実体化、できなかった。だから、もっと、練習、した。2年、掛かった。できてから、1年半、待った。』
「そうだったのか。待たせてごめんな。」
『いい。迎えに、来るの、分かってた。』
俺はツリが愛おしくなって抱き締めた。すると、横からクイクイと裾を引かれる。あ、ごめん。クレのこと、忘れてた。
「ツリ、ついこの前、西部で知り合って契約したクレだ。土の精霊だ。
クレ、以前話したツリだ。10年来の親友の木の精霊だ。」
ツリは緑色に、クレは橙色にそれぞれ輝いたと思ったら、手を取り合ってふたりでくるくる回り出した。回りながらふたりはキスをしている。精霊同士が契約するのか?
そのまんまふたりで特大の光の珠になって、俺のまわりをまわり出した。次第に回転を緩めて止まり、ふたりは人型に戻った。
『クレと、ゲオルクの、思い出を、共有した。』
『クレが、ツリから、いっぱい、教わった。』
ふたりが見つめ合って微笑んでいる。仲良くなってよかった。
『ゲオルク、精霊魔法を、試そう。』
「そうだな。どうしたらいい?」
『ツリは、植物を、操る。だから、ゲオルクは、植物を、使って、こう言うことを、したい、と言う、イメージを、ツリに、送れば、いい。』
「よし、伸びろ!」手近な雑草に伸びろと命じたら、俺の背丈ぐらいまで伸びた。
「おおおー!すっげー!」
『こんなの、楽。』
「じゃあ、これは?」
俺がイメージした地面から蔓が伸びて、目標の木に巻き付いた。
「おおおー、イメージ通りじゃん。」
『木に、蔓を、巻き付けて、どうする?』
「今は木にしたけど、動物に使うんだよ。」
『捕まえる?』
「流石ツリだ。察しがいいね。」
それからいろいろ試したが、いくつか試したらツリがへばった。
『魔力の、残り、少ない。』
「魔力切れだな。」俺はそのままツリを抱え上げて顔に近付ける。
『補給、する。』そう言ってツリはまたキスをして来た。すると再び、ツリが緑色に光り出した。
「補充完了か?」
『うん。』
その後もいろいろ試しながら、何度か魔力を補給した。
ツリの精霊魔法の確認がひと段落着いたところで、裸のツリに貫頭衣を作って着せた。
『窮屈。』
「我慢してくれよ。俺と契約したからツリもまわりから見えるだろ。」
『うん。』
「裸の幼女を連れ歩いてたら、俺は変態認定されちゃうよ。」
『ぶー。』ツリがむくれてる。かわいい。笑
「ほら、クレとお揃いでいいだろ?ふたりともかわいいぞ。」
何とか宥めた。
ツリの縄張りを出て自宅へ向かった。そろそろ日も暮れる頃、自宅に着いた。3年半ぶりだ。
自宅には母さんと小さい子がいた。前回の帰省のとき、腹が膨れていて驚いたのを思い出す。何でも俺が巣立って寂しくなったから、父さんと相談してもうひとり作ることにしたと言っていた。あれから3年半だからこの子は3歳だな。弟か?妹か?
「母さん、ただいま。」
「まぁ、ゲオルク!お帰り。相変わらず前触れなしねぇ。」母さんの後ろから小さい子がこちらの様子を窺っている。
「お、名前は?いくつになったの?弟?妹?」
「アルベルトよ。
アル。ゲオルク兄さんよ。ご挨拶なさい。」
「アルだよ。みっちゅ。」アルはたどたどしく指を3本立てた。笑
「俺はゲオルクだ。よろしくな、アル。」
「で、ゲオルク。その子たちは?」
「うちに客か?珍しいな。」父さんが、ちょうど狩りから帰って来た。獲物をいっぱい抱えてる。流石だ。
「父さん、ただいま。」
「おお、ゲオルクか?こんなとこに立ってないで、さっさと中に入れよ。
ん?この子たちはお前の子か?」
「そんな訳ないだろ。」
「まぁ、そうだな。言ってみただけだ。がははは。」相変わらずだ。
俺は西府の土産と大金貨1枚を両親に渡した。
「ゲオルク、こんな大金どうした。」
「稼いだんだよ。俺の全財産のざっと1/3かな。明日、教会にも同じだけ寄進するよ。」
「そうか、それはいいことだ。」
「神父さんもお喜びになるわ。」
「神父さんには世話になったからね。」
家族4人での夕餉は初めてだ。夕餉の席で俺はツリとクレの素性を明かす。
「なるほどなぁ。ゲオルクは子供の頃から精霊が見えると言っていたが、ありゃほんとだったんだな。」
「そうねぇ。妄想の激しい子かと思ってたけどねぇ。」やっぱりか!笑
「父さんと母さんが信じられなかったのも無理ないけどな。」
精霊は原則的に人見知りだ。精霊が見える能力がない人とは関りを持ちたがらない。しかし、ツリとクレはアルに興味を示しており、アルも喜んでツリとクレに話し掛けている。端から見ると幼児3人がじゃれ合っているような感じだ。
「なぁアル。お外で小さな光の珠が見えるか?」
「うん。いっぱい見えるよ。」やっぱりアルも精霊を見る素質があるようだ。
「お話はできるか?」
「お話しなくても話せるよ。」思念の交換もできるようだな。
「ツリ、クレ。アルも精霊が見えるようだが、精霊魔術師になれそうか?」
『ちょっと、契約は、無理。』『アルは、魔力量が、足りない。人より、多めな、だけ。』
「そうか。」残念だ。
その晩は久しぶりに実家に泊まった。
翌日、神父さんに挨拶しに村の教会に行った。神父さんは相変わらず大層喜んでくれた。
神父さんは、俺の魔力量を調べに東府まで連れて行ってくれたし、膨大な魔力量がありつつ放出できないことが分かって、失意の中で帰村した10歳の俺に、村人達による詐欺師扱いの仕打ちから、両親以外で唯一庇ってくれた大恩ある人だ。
俺は大金貨1枚を教会に寄進した。大恩ある神父さんへの恩返しである。神父さんは大層驚いていた。
「ゲオルク、こんなには貰えん。」
「神父さんには本当にお世話になりましたから。それに全財産ではありませんので気にしないで下さい。」
「おお、神よ。」神父さんが祈りを捧げるので、一緒にお祈りした。
「ところでゲオルクよ。そのお子たちは?もしかすると…。」
流石、神父さん。ツリとクレの素性にうすうす気付いているっぽい。
それに、神父さんにならツリとクレの素性を話してもいいだろう。俺はふたりが精霊であることと、契約した経緯、そして契約によって俺が、精霊魔法が使えるようになったことを話した。
「そうか。ではゲオルクは伝説の精霊魔術師になったのじゃな。」
「伝説…ですか?」
「そうじゃよ。もう何百年も精霊魔術師は出ておらん。精霊魔術師はの、精霊と話ができて、魔力量が桁外れに高くなくてはならんのじゃ。精霊が見えるだけでも少ないのにさらに話せる者は極僅かじゃし、魔力量が高い者はおっても桁外れに高い者はそうはおらん。
すまんのう、わしもこの可能性については考えたことはあったがの、魔力が放出できんでも精霊魔法が使えるとは知らなんだ。
魔術師の夢を断たれて落ち込んどったゲオルクに、精霊魔法の可能性を伝えて、やっぱり魔力が放出きんからダメとなっては、それこそゲオルクが立ち直れなくなると思っての。」
「そうだったんですか。」
「それでもゲオルクは精霊魔法を得た。まさしく神のお導きじゃ。」
「そうですね。」
「それにしても契約できる精霊はひとりと聞いておったが、ふたりでも契約できるんじゃの。」
「それは魔力量によるそうです。精霊と契約すると、契約中は精霊に魔力を与え続けないといけません。複数の精霊と契約するには人数分の魔力が要ります。俺が契約できる精霊は、たくさん、なのだそうです。」
「その情報はどこから得たのじゃ?」
「このふたりから聞きました。」
「それは新たな情報じゃ。すまんが魔法学院に報告してくれんか?」
「神父さん、魔法学院とは関わりたくありません。」
「しかしのう、このような貴重な情報は後世に伝えんといかんのじゃ。分かるじゃろ?
次はいつ精霊魔術師が現れるか分からんし、そもそも、魔力は放出できなくても精霊魔術師になれると言うことをわしが知っておれば、ゲオルクに辛い思いをさせないで済んだのじゃ。」
「そうですね。」
「それからの、魔法学院には精霊魔術師に関する書物もある。きっとゲオルクが知らない情報もたんとあるぞ。情報の交換と考えればよいのじゃよ。苦手な相手でも、有益な取引ができるのであれば割り切れるものじゃ。」
「有益な情報ですか。」
「そうじゃ、例えば過去の精霊魔術師はどんな精霊と契約したとかじゃな。ゲオルクはまだ多くの精霊と契約できるのじゃろ?特大精霊はそうあちこちにはおらん。過去、契約した精霊がいた場所は天然の魔力が高いはずじゃから、付近には特大精霊が出やすいはずじゃ。ゲオルクは木の精霊と土の精霊と契約したがの、他にも特大精霊はおるぞ。」
「なるほど、他の属性の精霊と契約すれば使える精霊魔法の種類が増えますね。」
「そう言うことじゃな。」
「分かりました。東府の魔法学院に参ります。」
「東府教会の大司教様を覚えておるか?」
「はい。よくして頂きました。」
「わしが大司教様に紹介状を書いてやるでの、大司教様から魔法学院に紹介してもらうとええじゃろ。明日紹介状を取りにまたおいで。」
「はい。」
俺は教会を出ると、10歳のときの東府行を思い出していた。
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2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
小説家になろう様にも投稿します。
https://ncode.syosetu.com/n2050hk/
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