第1話 クレとの契約
精霊の加護
Zu-Y
№1 クレとの契約
5歳くらいの小さな子がしゃがみこんで一心不乱に土を弄っている。アリの巣でもほじくってるのだろうか?
それにしてもこんな所で
まわりは何もない草原である。街道から横道に逸れている所とは言え、西府がそう遠くないから大丈夫だとは思うが、稀には獣も出るかもしれない。いくらなんでも不用心だろ。
近寄ってみると、服かと思った橙色は肌の色で、何も着ていなかった。ああ人型を取った特大精霊か。ツリと同じだな。ツリは緑色だけど。
「こんにちは。」
『…。』返事がないので念話を送ってみた。
『こんにちは。君は精霊さんかな?』
『!』橙色の精霊が振り返って俺の方をじっと見る。
「こんにちは。」もう一度声を掛けてみた。
『クレのこと、見える?』
「見えるよ。」俺は微笑んで近付いた。
『話も、分かる?』
「分かるよ。クレって言うんだ?俺はゲオルク。よろしくね。」
クレがぱぁっと笑顔になった。お、かわいいな。
クレは立ち上がって俺のすぐそばまでトコトコと寄って来た。付いてない。女の子か。笑
俺はしゃがんでクレに目線を合わせた。
『もうずーっと、話せる人と、会ってない。』
「それは寂しかったね。」
『うん。』
「クレは土の精霊?」
『うん。ゲオルクは、精霊と、話せる。珍しい。』
「精霊とは子供の頃から話せるよ。故郷には仲よしのツリって言う木の精霊もいるしね。」
『その精霊と、契約、してる?』
「まだしてないよ。ツリはまだ実体化してないからね。でもツリが実体化できたら契約するんだ。」
『クレとも、契約、する?』
「ごめん。俺はツリと契約するんだ。契約って、何人もの精霊とはできないでしょ?」
『普通は、ひとり。ゲオルクは、魔力が、とても、多いから、何人もの、精霊と、契約、できる。』
「そうなの?」
『普通は、魔力が、足りなくて、ひとりが、限界。』
「そっか、契約の維持に魔力がいるんだね。」
『ゲオルクは、たくさんと、契約、できる。』
「俺と契約したらここから離れることになるけど、クレはここを離れていいの?」
『ここに、ずっと、ひとりは、飽きた。』
「じゃあ、今夜はここで野宿するか。俺のことをいろいろ話すからさ、それでクレが俺でもいいって言うなら契約しよう。」
『うん。』
俺は夜の獣除けも兼ねて火を起こし、携行食を食べた。
精霊は大自然から魔力を吸収するから食べないでも平気だ。一応食べるか聞いたがやはり要らないと言う。
獣除けも兼ねて火を起こしたが、ここがクレの縄張りなら獣は悪さをしてこない。特大精霊の縄張りは、言わば安全地帯だ。
その夜、俺はクレにいろいろと身の上話をした。
子供の頃から精霊が見えること。
魔術師を目指してたこと。
魔力が異常に多かったので、東府の魔法学院に行ったこと。
そこで魔力を放出できないことが分かったこと。
そのせいで魔法学院を除籍になり村に帰ったこと。
そのことで村人を落胆させ、詐欺師扱いされて疎遠になったこと。
父さんに弓矢を教わって森で狩りをしてたこと。
狩りの途中に森で特大精霊に初めて出会って仲良くなったこと。
その精霊はツリと言い、契約する約束をしてること。
15歳で村を出て冒険者になったこと。
東府で冒険者になってからは、最初のパーティはすごくよかったこと。
1年後にツリを迎えに行くためにそのパーティと一旦別れたこと。
でもツリはまだ実体化できずに契約できなかったこと。
そのパーティとはその後、合流できてないこと。
王都で仕方なく加わった次のパーティでひどい扱いを受けたこと。
そのパーティを除名になり、西府に来て、特定のパーティに加わらず、臨時加入かソロで活動してること。
最近は初心者と組んで面倒を見ることが多いこと。
そして間もなく俺は20歳になること。
「まぁ、こんな感じかな。俺は冒険者だからあちこち巡るよ。改めて聞くけど、クレは俺と契約したらこの場所を離れることになるけど、それでもいいのかな。」
『それで、構わない。』
「じゃぁ、契約の条件を確認しようか。」
『クレは、ゲオルクの、代わりに、ゲオルクが、イメージする、土の精霊魔法を、使う。』
「俺はクレに、魔力を分け与える。」
『うん。それでいい。』
「じゃぁ決まりだな。」
そう言うとクレが両手で俺の頭をがっちりつかんで濃厚なキスをして来た。契約の儀式だ。ツリとも何度か試みたが、ツリが実体化できなかったからすり抜けたんだよな。笑
クレの体が橙色に輝き出す。
『ぷはぁ。これで、契約、成立。』
「クレ、見かけは幼女なのに、大胆なキスだな。」
『まだ、大人には、なれない。そのうち、進化して、大人に、なる。』
「そうか、クレが女の子でよかったよ。男だったら、ちゅーは無理だ。」
『ふふふ。そうだ、精霊魔法を、試す?』
「もう夜だから明日にしよう。」
『うん。』
「そう言えば魔力はどうやって与えるんだ?」
『体液に、魔力が、あるから、それを、舐める。』
「え?血とかを吸うのか?」
『それでも、いい。でも、ちゅーが、簡単。』
「そうか。」これから幼女とちょくちょくキスをするのか。早く大きくならないかな。
その後もいろいろ話して俺は眠りに就いた。その夜はツリの夢を見た。
朝起きて、携行食の簡単な朝餉を摂り、クレと精霊魔法を試すことにした。
『ゲオルク、やるか?』
「おう!どうしたらいい?」
『クレは、土を操る。ゲオルクは、土や、石を、こうしたい、と言う、イメージを、クレに、送って。』
「ふむ、礫よ、飛べ。」手近な石を飛ばすイメージをクレに伝えたら、凄い速さで飛んで行った。
「おおおー!これは凄いな。」
『ゲオルク、いちいち、飛べと、言わなくて、いい。』
「ふむ。では…。」俺は10m先の地面が1mの高さへせりあがるイメージを送った。イメージ通りになった。
「クレ、凄いぞ。俺は念願の魔術師になった気分だ。」
『ゲオルクは、立派な、精霊魔術師。』
次はせり上げた地面を元に戻した。そしたらクレがへばった。
『魔力、足りない。』
「魔力切れか?大丈夫か?」
『ゲオルクから、補給、する。』そう言ってクレはまたキスをしてきた。すると再び、クレが橙色に光り出した。
その後もいろいろ試して、何度かクレに魔力補給を行った。それでも俺の無尽蔵とも言える魔力は減りもしない。いや、実際は減ってるのかもしれないが、誤差の範囲でしかない。
西府に向けて出発すると、クレは俺のまわりをぐるぐる飛び回っていたが、そのうちに俺の右肩にちょこんと座った。クレは実体化してるのに非常に軽い。実際に飛んでたから重さはほとんどないのだろう。
西府に帰還した。西府、正式名称はマドリドバルサ。西部公爵領の首府だ。
西府に入ると俺は旅の準備のために、携行食などの買い出しに向かった。行き交う人が必ずと言っていいほど俺の方をチラチラ見て来る。いったいなんなんだ?
行きつけの店に入ると、店の親父さんが呆れた顔で話し掛けて来た。
「ゲオルク、見損なったぞ。」
「え?親父さん、いきなりなんだよ。」
「その子は奴隷か?それにしても服くらい着せてやれ。かわいそうに。」
「え?親父さん、見えるの?」
「お前、何言ってんだ?」
「この子は精霊なんだよ。普通の人には見えないんだけどな。」
『契約、したから、見える。』
「そうか、じゃぁ裸じゃまずいな。」それで皆がジロジロ見て来たのか。裸の幼女を肩に乗せてる男。こりゃ確かに変態認定だな。
『服は、嫌い。』
「そうか、でも軽い布を巻くのならいいよな?」
『何も、要らない。』
「そうは言ってもなあ。クレが人に見えるのなら裸はダメだよ。」
『ぶー。』あ、むくれた。でもかわいい。笑
「俺が変に見られるし、場合によっては捕まるかもしれないんだ。」
『なるべく、軽いのが、いい。』クレは渋々同意した。
携行食を買い込んだ俺は、クレにタオルを巻いて素材屋に向かった。買うのは服ではなく布だからな。
素材屋では、絹の薄織の反物を買って、即席で貫頭衣を作った。これなら軽くてクレも文句は言うまい。薄織だから若干透けるが、幼女のシースルーは別にエロくはないから許容範囲だろう。よしとする。
反物は随分余ったが、着替えやツリの分だ。どうせツリも衣服は嫌だと言うに決まってる。精霊だから仕方ない。
しばらく西府から離れるので、冒険者ギルドに挨拶に行った。時間的に冒険者の知り合いは皆クエストで出払っていたし、世話になった馴染みの受付嬢はギルドの会合で王都に出張中だ。顔見知り程度の受付嬢に皆への伝言を頼んでおいた。
西府へはすぐ帰って来るつもりだったが、実際はそうはならなかった。
店から出て馬車駅に行き、そのまま王都行きの定期馬車に乗り込んで、西府を後にした。王都までは数日掛かる。
王都で東府行の定期馬車に乗り換えてさらに数日。
東府で行商の馬車に乗せてもらった。この行商の小父さんは、東府の往き帰りの際によく乗せてもらっている。最初に乗せてもらったのは10歳のときだった。
小父さんの行商を手伝いながら村々を巡って数日、行商の馬車はラスプ村に着いた。
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2作品同時発表です。
「射手の統領」も、合わせてよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16816927859461365664
小説家になろう様にも投稿します。
https://ncode.syosetu.com/n2050hk/
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